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第33話 ナビゲーター

「俺の結界の上に設置型の精霊術で打ち消したのですか……」


 いつの間にか長髪黒髪の男は全身の姿を現しており急な事態に驚いていた。


「同じ設置型だったのが運の尽きです!」


 リィムはふんぞり返って自慢気に胸を張るが、佐々木とエルは冷気で凍え始めていた。


「り、リィムさん……これ何獄です? さっきより寒く無いですか?」

「2の獄『尼剌部陀にらぶだ』ですよ。あかぎれが出来る程度です。」


 ニッコリと微笑みながら返事をすると再び髪色が亜麻色から白金色へと変化してハッキネンが表に出て来た。


「ちなみに二度目の発動時にお前の精霊術の起点のトイレの花子さんの部屋は破壊するようにしてる。再発動出来ると思うな。」


「いやいや……見抜かれてましたか。流石ですね。」


 男は感心した表情になるとパチパチと拍手をして称賛し始めた。


「恐らく最初の発動を利用して夏とは思えない寒さで合宿中の生徒たちを怖がらせて退避させたと言う所ですか。そして視界に映らないなら発生した霜を利用して足跡などを確認して人が居る事を確認する……と言った所ですか~?」


 少し間延びしつつもゆったりとした口調で男はまくし立てると、ハッキネンは頷いて同意する。


「そうだ、そして設置型の厄介なのは時間を与える事。」


 言葉と同時に手刀に氷を刃物の様に纏わせて首筋を狙って一直線に素早く突きを繰り出す。


「おっと、流石に保険はかけてますから~」


 男の体の周りにうっすらと黒いカーテンの様な物が立ち上がると手刀を柔らかく包むように防ぐと、そのまま氷をねじ切る様に回転しながら氷を粉々にした。


「おやおや~流石に用心深いですね。」

「当然、油断はバカがする事。」


 ハッキネンは精霊術の発動を見て咄嗟に手だけを引っ込めて残った氷がどうなるか観察したのだった。


「さて、私も念には念を入れてます。なので今回は引き分け……と言う事にしませんか? 七不思議もネタバレしたので止めておきます。どうでしょう?」


「一人は手負いでコチラは充分に戦えるのが二人居るのにか?」


「そこの無関係な人達が死んでも良いならですよ? 特にあなたの精霊術は範囲内全ての人に影響するものでしょう?」


 ハッキネンは横目で気絶している田中と羽生を確認すると、警戒を解かないまま再び男を見据えた。


「ズルい。せめて名前だけでも教えろ。」


 ハッキネンの言葉に男は目を見開くと、しばらくしてクスクスと笑い出した。


「そうですね、折角ですからオーエンと名乗っておきます。精霊の名はまたの機会が有れば~」


 そう言い残すと北見を手招きしてカーテンの中への導くと、足元に闇の沼が現れてそこへと二人は消えて行ったのだった。




「オーエン……あの力は……」

「そうですね……神器使いレベルです。」


 リィムとハッキネンが軽く言葉を交わすと、再び亜麻色の髪に戻ってリィムが表に出て来たのだった。


「お、お二人とも……凄いです……。」


 佐々木は戦闘に参加していなかったが、その内容に圧倒されて精神的にすり減っている様子だった。


「あなたが一番無傷なのですから、早く二人を保健室へ連れてってください。私はエル君の手当てをしますから。後、体も冷え切ってますからこの毛布を使ってください。」


「え、あ……はい!」


 リィムは何処からともなく二組の毛布を取り出すと佐々木に手渡す。


 急かされる様に田中と羽生を交互に1回の保健室へと運び出した。その間にリィムはエルの打撲痕を確認しながら骨の状態を確認し始めた。


「いっ!? ッつ! 完璧折れてますから! 触らないで下さい!」

「む~これは……安静しか有りませんね。帰ったらヒジリに治して貰わないと。」

「と言うか……あいつらまだ隠し玉有りましたよね?」


 エルは傷の痛みもさることながら、相手の全力を出せなかった事に気付いて悔しがっていた。


「何を言ってるんですか……手の内全部出すならどっちか死んでますよね? 私達だって奥の手を出すなら相手を確実に仕留める時だけです。」


「た、確かにそうですけど……く、悔しいけど……強かったなぁ……」


 エルは仰向けに大の字で寝ころぶと真夏の星空を見上げる。北の大地の星空は何か普段とは違う特別な物に見えた。実際明かりが少ないのでより星が良く見えるのだ。


「まぁ死ななければ良いんですよ。それより気付いてましたか?」

「当然です。普通はここまで来ません。」

「ですよね。では最後の仕上げに行きましょうか。」


 エルが立ち上がると、二人は校舎内へと歩を進めるのだった。



―――――――――――――――――



「コレで良し。後は明日二人を送り出せば……」


「証拠隠滅出来るですか?」

「変なんですよね~何で強引に結界を完成させるようなことをしたのかが。」


 保健室から出て来た佐々木をエルとリィムは左右から挟み込むように仁王立ちしていた。


「何を言っているんですか? 強引に結界を完成?」


 佐々木は不思議そうに二人を交互に見ては首をかしげている。


「結界には起点となる部分に術を設置するかトリガーになる物が必要になります。今回の条件はあなたが最後に見せた特定の物に触る事で発動するようですね。」


「そして異変が起きた時も丁度佐々木さんが件のピアノに触れた頃と一致します。精霊術士としての適性が有る人しか聞こえないよう仕掛けもそこで発動するようにしましたね。」


 二人は交互に状況からの推論を話し続ける。


「そして強引に7つ目のオブジェクトに触れて完成。後は起点である学校に線をつなげば異世界への扉の結界の完成ですね。」


「後は北見の発言です。『そいつはお前にとって親友でも何でもないのだろう』と言いました。何故そんな事を知っているのです? もしかしたらずっとパーティーを組んでるかも知れないのになぜ言い切れるのですかね? それに桐生の事をしていたと言う事は内通者が居る筈です。以前会ってるとしても、悪いですが桐生じゃラガスに勝てない。」


「そ、そんな! 俺は七不思議をやり遂げれば犯人が出て来ると思ってやっただけだ! 強い貴方達が居るなら解決も容易いと! それに発言は適当に言った可能性だって有るだろ?」


 佐々木は少し動揺しつつも冷静に反論を続けた。しかし二人の推論はさらに続く。


「最初に一般人に被害を出さない為に生徒会をカモフラージュにすると言っていましたが、何故一般人を危険に晒した? その後の処理も考えればあなたの行動には妥当性が無い。」


「それとあのお札。本部に確認しましたがそんな精霊具は無いと言われました。あのお札からは精霊力を感じていますから言い逃れは出来ません。何処から調達したのですか?」


「あれはだから知り合いの住職に……」


「一般人が精霊具を作れるとでも? 本部に確認しましたがその可能性は絶対に有り得ないと言っていますよ。」


「つまり佐々木さんは別の何かしらの精霊に関する組織からあのお札を受け取って使ったと言う事ですねよね?」


「そ、そんなの俺だって知らない! もしかして住職がアイツらの回し者の可能性だって有るじゃないか! 後は勝手に調べればいいだろ!」


 佐々木はそう言って札を二人に投げつけると踵を返して逃げ出した。


「このお札が最後のマーキングですよね? これの所持者が異世界へと運ばれる。」


 いつの間にか回り込んだリィムが先程の札を氷漬けにして佐々木の目の前へと投げ捨てた。札は甲高い音を立てて砕け散ったのだった。


「私達は胡散臭かったので破り捨てましたが、あの二人はそうではありませんよね? エル君、彼女達を見て来て下さい。恐らく時限式で転移させられてると思います。」


 佐々木を逃がさない様にリィムが両手に氷で出来た小刀を構えながら指示すると、エルの声が保健室から響いてきた。


「やはり二人ともいません!」

「やはりあなたが案内者ナビゲーターだったのですね。」


 言葉と同時に佐々木の口元が不気味に歪むのが確認できた。

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