第31話 犯人との遭遇
「お前が今回の犯人か?」
佐々木が冷静に銃口を向けながら聞くと男は鼻で笑う様な表情でゆっくりと話し始める。男は180㎝は有ろう細身だがしっかりとした体つきだった。
「ようこそ、八つ目の七不思議『異世界の扉』へ。団体でツアーをしてくれたおかげで3~4人はまとめて異世界へ送れそうだ。感謝するぜ。」
男は両手を広げながら大袈裟に身振り手振りを添えながら嬉しそうに語り出した。その様子を見てエルは不機嫌そうな表情で問い返す。
「お前が意図的に噂を流していたのか? 」
「ああ、まぁ下っ端もある程度は使ったがな。SNSを使えば拡散は楽だったぜ。」
「異世界への扉とはなんだ?」
「体験してみたいか?」
「興味無い。何のためにそんな事をする!」
佐々木が寒さに耐えながらも震えずに銃口を安定させていつでも撃てるようにしている。横目で田中と羽生を見るが先程の突風で驚きすぎたのか二人揃って気絶して倒れていた。
「世界の為だ。クソみたいな人間が美しい自然の為の養分になるんだ。素晴らしい事だろう? どうせ生きる意味なんて大して無いんだ。早く死ぬか遅く死ぬかの違いしかねぇんだよ!」
「クソみたいな人間が何を言っている!」
「ああ、俺もクソさ! だからせめて自然の為に循環の輪に収まっちまうさ! だがな! テメェらみたいな人間至上主義の奴らをぶっ倒してからだ!」
男は叫ぶと同時に黒い霊装銃を取り出してこめかみに当てると引き金を引いた。そして周りには砂塵が舞い上がり始めたのだった。
「『北見 隼太』の名において誓願奉る! 地へと引きづり込め『ラガス=プティア』!」
土埃は人より少し大きい岩男の様な姿になり、北見と言った男との間に立ちふさがる様に現れた。
「な!? 精霊使い? バカな!」
「来い! スディレットのガキ共も動けなくして一緒に放り込んでやる!」
佐々木は認識していない精霊使いと言う事に驚いた表情を浮かべる。エルも不思議には思ったが佐々木よりは動じていなかった。
佐々木にとってはスディレットが把握していない精霊使いが居ると言う事が想定外なのだ。そして北見の名前はどう見ても日本人だ、そしてスディレットに所属してないのに霊装銃を所持している事にも困惑が隠せていない様だった。
「ラガス! 殺すなよ、生け捕りだ! まぁ腕の一つ位は無くなるかもな!」
北見が叫ぶと同時にラガスに触れて同化する。ラガスの眼がうっすらと赤く光ると怪獣の様な咆哮を上げながら巨大な腕を振り上げる。
そして困惑して状況を理解できていない佐々木目掛けて踏み込むと、一気にその拳を振り下ろした。
「ボケッとしてると死にます! 風刃掌!」
エルは咄嗟に佐々木を突き飛ばすと同時に風を纏った掌打で拳を弾き飛ばした。
「何! ラガスの拳を弾いただと!? 貴様も精霊使いか!」
拳を弾かれた力でただ者では無いと感じた北見の声が聞こえる。その様子を見てエルは桐生とは違って自分の意識がしっかり有ると認識した。
「さてね、と言うか同化してるのに意識が有ると言う事は桐生よりは強いのか?」
「あんな雑魚と一緒にするな。 アイツはSランクでも最下位レベルだ。」
「あ~何となく理解できたかな。」
「貴様の方こそ精霊使いか?」
「あ~残念ですが精霊使いじゃ無いですよ。一応精霊術士になってる様です。」
「人間風情が精霊の攻撃を防いだだと?」
北見は不思議そうな声を上げるが、ラガスの方は不敵な笑みを浮かべると巨体に似合わぬ速度でエルの側面に回り込む。
「早い!」
佐々木がその動きに驚くが、エルは冷静に再び風を纏った掌打でラガスの攻撃を受け流す様に弾いた。
「風の精霊力を使うならこの程度の速度は余裕か!」
「いやいや、土の精霊にしては早くてビックリです。」
ラガスは攻撃を逸らされるが、体勢を瞬時に立て直して流れる様な体術で攻撃をくり返していく。そしてその全てをエルは同じく受け流しながら反撃しようとするが、スキが無い為に防戦一方になっていた。
「このパワーとスピード、厄介な!」
「よく死なねぇな! ラガス! もっと速度を上げろ!」
北見の言葉に反応するように更にラガスの速度が上がる。正確には速度が上がると言うよりも動きがコンパクトになり、威力よりも当てに来ていると言った方が正しかった。
「速い! ならば『風の具足』解放!」
さばき切れないと判断したエルは両足の膝下からつま先までつむじ風の様な物を纏った。風に浮いた霜が舞って白いブーツの様にも見えた。
風の具足を纏ったエルの速度は初速と制動距離が極端になった。最初の一歩の踏み出しが異常に速くなり、風の補助で踏み込みに対して有り得ない角度での跳躍が可能になっていた。
「ちょこまかと変則的な動きをしやがって!」
回避に余裕が出て来ると北見の苛立った声が聞こえて来るが、対照的にラガスの攻撃は段々と正確さを増してきている様に見えた。
不規則な回避でも相手を誘導する様な攻撃の仕方に変えて来たのだ。それこそ体術のスペシャリストと言わんばかりの動きの変化だった。
「ナルホド、コイツは接近戦に長けているのか! 『風の手甲』解放!」
体勢を崩されたエルは正面から飛んで来る拳を回避出来ないと判断すると、今度は肘から指先までを風が纏う。
瞬時に捌ききれない技量差と理解したエルは拳に風を集めて風刃掌の威力を上げて真っ向から拳をぶつけた。
風はラガスの固い岩の様な拳を削る様に破壊を試みるが、表面の岩が砕けると同時に黒い重厚な金属の拳が現れたのだった。
「な!?」
「バカが! この下は鋼鉄の拳だ!」
力押しでも勝てないと判断すると、咄嗟にそのまま攻撃を受けつつも後方へスウェーバックしながら威力を殺したのだった。しかしその威力は完全に殺しきれるものではなく拳からは血が流れていた。
「強い……これでも一応SSランクらしいんですけど。勝てる気がしないや。」
「ほう、精霊術士がSSランクってレア物だな。残念だが俺は貴様ら基準ではSSSランクだ。」
「す、SSSランク!?」
横で聞いていた佐々木が悲鳴に近い声を上げる。世界で数える位しか居ない筈のSSSランクに遭遇する事等想定していなかったのだ。
「へぇ、SSSランクでその程度って事は無いですよね?」
「口が減らねぇガキだな。さっさと動けなくしてやる。」
北見が再び攻める意思を見せるとラガスの岩の肌が崩れ落ちて全身漆黒の金属の体を露わにした。その姿は夜の闇に相まって視認するのが難しいと感じられたが、霜が舞っている影響でその点の不利は解消されそうだった。
「それってまさか……軽量化になってるのか?」
嫌な予感を口出した途端にそれが正しいとラガスの動きが証明していた。先程の比では無い速度で踏み込んで来たのだった。
「ついて来れるか? 死ぬんじゃねぇぞ。」
北見の言葉と同時に鉄の拳がエルの頬にめり込むと同時に吹き飛ぶが、その体が地面に着く前にラガスの姿は既に回り込んで腹部へ拳を打ち込む。そのまま力が逃げないように地面へとエルの体をコンクリートの床へと叩きつけると同時に床にヒビが走った。
「が……」
「威力を逃がそうなんて出来ると思うなよ?」
エルは余りの威力に口を開けて苦しそうに呼吸をしようとするが、整える前に再びラガスの拳が腹部へと次々と撃ち込まれる。
しばらく撃ち込んだ後、ラガスは攻撃を止めてエルの頭を掴んで持ち上げる。あまりの威力にエルの口からは吐血が見え、肋骨が折れているの様子が伺えた。
「お終いか? 残念だぜ。もう少し楽しめるかと思ったが。」
「あ~あ、仕方ないなぁ……俺も本気を出すか。」
絶体絶命の様に見えたエルがつぶやくと、その顔には不敵な笑みが浮かんでいたのだった。




