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第30話 七芒星(ヘプタグラム)

「そうですか、この事件はここ数カ月で起きた事なのですね。」


(ええ、こちらの調査ではその筈です。付近の神隠しと言われる現象や封神具による精霊の存在はそのエリア内では確認できませんでした。)


 走りながら電話をしているリィムは晴香からの報告を聞くと、より一層人為的な小細工を感じたのだった。


「そう言う事は事前に言って欲しいのですか?」


(申し訳ありません。司令から事前に話し過ぎると余計な先入観を与えてしまうからと口止めされておりました。)


「先に分かっていれば肝試しなんて無駄な事しなくて済みましたのに!」


(えっと……怒る所そこですか?)


「当り前です! 私は無駄なホラーとかの需要は無いんです! 先に知っていれば普通に調査しました!」


「リィム、うるさい。さっさと行動する。」


 激しく抗議するがいい加減にしろと言わんばかりにハッキネンが会話を遮った。


「むしろヘプタグラムに関しての情報が欲しい。」


(恐らくですが精霊術の中でも『設置型』と呼ばれる精霊術だと思います。コレを使う精霊使いは極少数ですので詳細までは……)


「そのままの意味だとすると何かを完成させようとしているか、何かを護っているかと言う事になりますよね?」


(司令の方からも過去データが無いので災害時用の霊装銃を使用しても良いとの事でした。)


「あ~特権で持って来てましたが忘れてました。本気を出す場合だけ使わせてもらいますね。こんな物騒な物は使わない事に越した事は無いですからね。」


 そこまで話すとハッキネンが何かを感じて会話を終わらせるように促した。


「近づいて来た。準備完了までこちらも後少し。急ぐ。」

「了解です。間に合わなかったら意味がありませんからね。」

(ご武運を。)



―――――――――――――――――――――――



「ハァ・・・ハァ…こ、校門が見えて来た!」

「が、学校に逃げ込みましょう!」


 佐々木と田中の声に羽生とエルは無言で頷いて校庭へと駆け入る。そのまま先導する佐々木の後ろを追いかけながら校舎へと入ったのだった。


「な、何で深夜なのに玄関が開いているんですか?」


 羽生が校舎に入れたことを不思議に思いながら周りを見渡すと昼間のにぎやかさと打って変わって静寂に包まれており、余計に不気味さが増していた。


「ど、どこかの部活が合宿で借りてるんじゃなかったかな?」

「そう言えば夏休みだと結構ありますからね。」


 佐々木と田中が答える。エルは付近を警戒しながら観察するが人の気配はない。そして逆に合宿中の人達が居た場合は巻き込む可能性を考えていた。


「あれ? リィムさんは!?」


 田中が思い出した様に姿が見なくなったリィムに気付いて焦りの表情を浮かべる。


「いつの間にか見えなくなってます。途中までは自分の隣に居たんですが。」


 エルが端的に事実を述べると3人は青い顔をしてガクガクと震え出した。しかしそれが恐怖から来るものではなく物理的な生理現象とすぐに気がついた。


「ね、ねぇ……何か寒くありません?」


 不意に羽生が語り出すと全員が違和感に気付いた。息が白いのだ。


「真夏なのに息が白い……? 確かに寒すぎる。」


 佐々木が不思議そうに肌をさする様にして震え始めた。全員が真夏の装いなので薄着なのだが、今はまるで初冬の様な肌寒さになっていた。


「これも七不思議の呪いなんですか!?」

「知らないわよ、そもそもこんな話聞いた事も無いわ!」

「二人とも落ち着け! 取り敢えず一度校庭の方へ戻ってみよう。」


 恐怖におびえる女子二人を佐々木がなだめて玄関の方へと歩を進めると同時に、先程まで聞こえて来た音が校庭から大きく聞こえ始めたのだった。


「ダメだ! すぐに上に逃げるぞ!」


 声と同時に全員が階段を駆け上がり4階まで駆け上がる。しかし今度は校内からも骨が軋むような音が聞こえ始める。


 そして校舎内の音の反響なのか不明だが数を増してきているのが理解出来た。まるでガイコツの集団が近づいて来ていると錯覚を起こしそうな程であった。


「音の数が増えてるのに見えないのが怖いです!」

「見えたらもっと怖いでしょ!」

「た、確かに……って見えなくても怖いです!」


 女子二人は発狂しながら駆けて行くが、エルは佐々木の隣でどうするか目配せをしていた。


(二人には気絶してもらって精霊具を使いますか?)

(いや、まだ正体が掴めてない。下手に手の内を晒す方が危険です。)

(ではギリギリまで釣られたフリですね。)

(ええ、二人には気の毒ですがそうします。)


 二人は小声で話しながら誘導されるがまま屋上へとたどり着いたのだった。


「急いで扉を閉めて! 鍵をかければ入って来れない筈よ!」


 田中は全員が屋上に着くのを確認すると慌てて扉を閉めてポケットにしまってあった鍵を取り出してかけた。


 すると数分して扉が何かに叩かれる音と骨が軋む音が響き出す。女子二人はパニックを起こしつつも入って来れない様子を見て胸をなでおろしていた。


「こ、このまま朝になれば大丈夫よね?」

「お化けも昼は出ませんよね?」


 二人は淡い期待を口にしたが、確証は無い事を悟っているのか困った表情は続いていた。


「気休めですが、お清めの塩を扉付近にかけておきましょう。」


 佐々木が叩かれ続けている扉の周りに塩を振り撒くと同時に今度は辺り一帯に霜が発生したのだった。


「走るのを止めてから気付いたけど……さっきより寒くない?」

「外に出たせいか余計寒いよ。何で夏なのに霜が降りてるの!?」

「お、落ち着くんだ! 取り敢えずお互いくっ付いて体温の低下を防ぐんだ!」


 佐々木は冷静にそう言うとエルと背中合わせにくっ付く。それを見て田中と羽生も体を寄せ合って寒さをしのぐ体勢をとるが、さらに真夏なのに雪が降り始めるとさらに4人の体温を奪っていく。


(これ以上は命に危険が及びます。何かしらアクションを起こさないと。)

(そうですね……最悪二人にはスディレットの記憶消去を使いますか。)


 二人が意を決して佐々木の『火』の精霊具を使ってこの場を凌ごうとすると同時に張りつめた冷たい空気を引き裂く様に大きな声が響いた。


「風を使え! 今なら見える!」


 不意に響いた声に反応してエルは雪に気を取られている二人のスキを見て霊装銃で自分のこめかみを撃ち抜く。そして両腕に風の精霊力を集め始めた。


「見えると言う事は……今は隠れていると言う事か! ならば!」


 意味を理解したエルは即座に上方へと風を巻き起こし霜や雪を巻き上げる。そして風を止めると勢い良くそれらは降り注いだ。


 そして一気に撃ち落とされた雪がうっすらと闇の中で透明人間の様な物に降り積もっているのが確認できたのだった。


「そこか!!!」


 佐々木が即座に理解して懐から霊装銃とは違ったハンドガンのガバメントを取り出すと炎を纏った弾丸を発射した。


 その弾丸は段々と大きくなり拳大の火球へと変化して透明人間に直撃すると大いに爆ぜたのだった。


「クソが! 痛ぇじゃねえか! 手加減しやがれ!」


 悪態をつきながら闇夜の中から中年のスキンヘッドの男が現れたのだった。


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