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第27話 道標

 二人が七不思議の調査に入って既に6日目に突入していた。


 相変わらず1個づつ進めているものの特に変化や違和感を感じる事も無く、普通の肝試しの要領で進んでいた。


「引きずり込まれると言うプールは学校では無くて、何故か市営プール……」


「桜の木の下に死体が埋まっていると言う怪談は何故か市営公園でしたね。」


「動く銅像に至っては二宮金次郎どころか美術館の入り口の銅像でしたよね?」


「鏡の中の少年に至ってはミラーハウスとか……本当に七不思議なのですか?」


 佐々木を含めた3人は進展がない調査に疲れた表情を見せながらも緊張感だけは何とか維持しようと努めていた。


「今日は勝手に鳴り出すピアノ……市営ホールなんですね。」


 エルが本日の目的地のくだんのピアノがある市営ホールを眺めながら詰まらなさそうに呟いた。


「市営ホールなのに夜間に立入り出来る理由がむしろ知りたいです。」


 リィムは理解出来ないと言った表情で抗議するが、佐々木は二人の対照的な表情を見ながら説明を始めた。


「問題のピアノは現在使われていなくて、人気の無い廃倉庫の方に有るんです。だから警備も甘いので怪談の対象になったものかと。」


 佐々木の話を聞いて二人の顔が再び対照的に変化した。


「少しは楽しめそうですね!」

「結局不気味な所に行くわけですか!?」


 そんな叫び声を無視して6日目の七不思議探検が始まる。


「では道案内しますね。」


 1組目の田中がエルと菊池をリードする様に先頭を歩いて行く。その様子をリィムは睨むように見つめていると、周りの生徒会の面子が茶化し始めた。


「彼氏と別々だからって拗ねるなよ。」

「そうそう、流石に遠方の生徒に手を出す様な人じゃ無いよ田中さんは。」

「ま、俺は遠距離恋愛もOKだけどな!」


 色々と言ってくれるが、当の本人の不機嫌の原因は肝試しが嫌いなだけで有って、それを喜んでやっているエルに対しての不満の視線だった。


 しかしそれを説明するのも面倒だと思いリィムは適当に相槌を打ちながらその場を誤魔化す。


 そして3組目までがスタートして少し経った時、不意に何か甲高い音が聞こえた気がした。


「今のは……? ピアノの音ですか?」


「え? 急にどうしたの?」

「聞こえたか?」

「いや? 聞き間違いじゃないか?」


 同じ組のメンバーは聞こえていない様で、リィムも聞き間違いかと思う事にしたのだが、すぐに続いて同じ様な音が何度か聞こえて来たのだ。


「ヤッパリ聞こえますよ? ハッキリと甲高い高音の鍵盤の音です。」


 リィムは再びメンバーに言うと、他の全員が怪訝そうな表情をし始めた。


「いや、俺は何も?」

「わ、私も……」

「うん、俺も聞こえないんだけど……」


 メンバーの返事を聞いて今度はリィムの顔が青ざめていく。ただでさえ苦手な怪談で自分にしか聞こえないとかどんなホラーなのだろう。しかしすぐに自分だけで無かったと言う報告が耳に届いた。


「リィムさん、何かピアノの音が聞こえましたがそちらはどうですか?」


 エルからの通信が届くと同時に安堵するが、すぐに気を取り直して返事をした。


「こちらは私だけが聞こえた様です。そちらはどうですか?」

「俺達の方は自分と田中さんだけが聞こえた様で、菊池さんは何も聞こえないと。」


(聞こえる人と聞こえない人が居る? どう言う事ですか?)


 リィムは一瞬考えてからすぐに佐々木へ問いかける。


「佐々木さんの方はどうですか?」


「こちらは自分だけですね。混乱させない為に敢えて今はスルーしています。」


 佐々木の返答を確認すると、3組目の確認をするのが最優先と判断する。


「私が3組目に向かいます。4組目の皆は1組目の人が帰って来るまでここで待機していて下さい。絶対に動いちゃダメですよ!」


 リィムはまだスタートして無かった4組目のメンバーに動くなと言い渡すと加減を忘れたまま、物凄い勢いで駆け出して行く。


 その膝は微妙に震えていたが、怪談よりも別の何かが関係していると思えば恐怖心が少しは和らいだのだろう。



「り、リィムさんって物凄く足が速いんだね……」

「何かスポーツとかやっているのかな?」


 残された二人はその速度に驚きながら呆然と立ち尽くしていた。




 ―――――――――――――――


 しばらくしてリィムが3組目のメンバーに追い付くと、そこでは軽い混乱が起きているのが見てとれた。3人のうち1人がうずくまって、動かないのだ。


「大丈夫ですか?」


「この子が急にピアノの音がするって騒ぐんです。」

「俺達が聞こえないと言ったら余計に怖がってうずくまっちゃったんです。」


 うずくまって居る女子を確認してすぐにリィムは声を掛けた。


「大丈夫ですか? 音が聞こえる以外に体調の変化は有りませんか?」


 ゆっくりと覗き込むように声を掛けると、女子は耳を塞ぎながらリィムの顔を見て話し始めた。


「あ、あなたも聞こえるの?」

「私も聞こえてます。ただ全員が聞こえている訳では無いようです。」


 リィムの頷きに少し安心した様子を浮かべるが、すぐに今の現状がよろしく無い事に気付いた女子生徒は肩を掴むと矢継ぎ早に言葉を発する。


「この現象って良くない事だよね!? は、早く帰ろう! みんなも早く!」


「お、落ち着いて下さい。まずは戻って4組目と合流しましょう。それに1組目が帰って来る筈です。慌てずに行動しましょう。」


 リィムがなだめながら言うと女子生徒はゆっくりと頷き、その様子を見ていた他の二人も青い顔をしながら頷いて移動を開始する。


(私やエル君、佐々木さんは聞こえていたとすると、この音は精霊力に対する適応が高い人が聞こえると言う事ですか? 霊なんて信じてませんからそう言う事なら納得できます。)


 リィムは聞こえる聞こえないの判断に悩んだが、現状で考えるとスディレットが調査をしている時点でこの考察は案外的を得ているかも知れないと判断した。そして不思議なのはこんな手の込んだ事をしているのは誰なのかと言う事だった。


(行方不明者のその後が気になりますね……調べるには私たち自身が囮をやるのが無難そうですね。)


 そんな風に考えていると、スタート地点に無事に到着した。そこには既にエルを含めた1組目が戻っていた。


「リィムさん、大丈夫でしたか?」

「無事に合流出来ました。彼女だけが音が聞こえたらしく少し混乱しています。」


 そう言って後ろから歩いて来る女子生徒を視線で教えると、エルと田中は駆け寄って確認する。


「羽生さん、君も聞こえたのかい?」

「田中先輩もですか!? 何ですかあの音は!」

「お、落ち着いて情報を纏めよう。会長の組ももうすぐ戻って来る。」


 羽生と呼ばれた生徒は他にも聞こえた人が増えた事で少しずつ冷静さを取り戻している様にも見えた。そして間を置かずに佐々木の組が帰って来た。


「佐々木さん、そちらはどうでしたか?」


 リィムが確認すると佐々木は周りを見渡して今の現状を理解した様だった。更なる混乱は避けるべくすぐに移動を提案した。


「不気味な所で長話も良く無いだろう。一回明るい所へ移動しようか。」


 佐々木の提案に一同が頷くと、まだ事情を把握していない佐々木の組のメンバー以外は足早に移動を開始したのだった。

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