第26話 七不思議の捜査
佐々木の案内で校庭に移動すると、そこには先程まで生徒会室に居た筈の面々が炭に火をおこしたり、串に肉や野菜を刺してバーベキューの準備をしていた。
その様子を見たエルは自分もと言って駆け寄って準備に混ざった。その様子をまるで弟を見る様な視線でリィムは眺めた。
「エル君やりたいと言ってましたから、はしゃいでますね。」
「まるでお姉さんですね。」
「まぁ、小さい頃から面倒を見てましたからね。」
「お二人は施設で暮らされてたと聞きましたが……」
「表向きは……ですね。まぁこれ以上は話すと貴方の為になりません。」
佐々木はこれ以上知ると、情報規制の対象となると理解したのか話題を変える事にして、準備をしているグループへ混ざるように促した。
そして和気あいあいとしながら準備が終わると丁度良い時間帯になり、一斉に焼き始めた。
肉と野菜が焼ける香ばしいニオイが辺りに立ち込めると同時に、準備された鉄板の上で焼きそばが焼かれ始める。
「良いですねぇ、これぞ夏って感じで!」
「エル君……嬉しいのは分かりますがハメを外さないで下さいね?」
「リィムさんもテンション上がってるのバレてますからね?」
「な、何を言っているのですか! た、確かに楽しいのは事実ですが。」
二人にとって今回のバーベキューは人生で初の事だったのだ。本当はタツミ達と海に行ってやろうと言う事になっていたのだが、今回の任務で予定が未定になっていただけにテンションは急上昇していた。
唯一残念な点が有るとすれば、それは仲間達全員では無いと言う事だろう。
「出来れば今年中にタツミさん達ともやりたいですね。」
「え? やるに決まってるじゃないですか? こう言うのは何回やっても良いんですから。」
リィムがしんみりと言うとエルが背中を叩く、その表情は今を楽しもうと言う感情が顔に出ていた。それを見てリィムも改めて気持ちを切り替えてこの場を楽しもうと言う表情に切り替わる。
「そうですね、せっかくの私達の人生初のバーベキューです。楽しまないと損ですよね!」
気持ちを切り替えてリィムも肉にかぶりつくと、エルもその様子を満足そうに見届けてから肉をほお張った。
ジュースを片手に様々な北海道の新鮮な食材を利用したバーベキューが進む。ジンギスカン、海鮮串、ホタテのバター焼き等、様々な食材を堪能すると、程よくして佐々木がみんなの前に出て話し始めた。
「さて、そろそろ頃合いですので今回の交流会の目玉でもある七不思議に生徒会として挑戦していきたいと思います!」
佐々木の話が始まると生徒会の面々は口笛を吹きながらはやし立てる。エルもそれに便乗してテンションを上げているが、リィムは一気に冷めた表情になっていた。
「これはレクレーションの一環では有りますが、最近変な噂が立っているのを解消する意味も有ります。生徒会が団体でやって何も無かったと証明すれば混乱も落ち着くでしょう。全員が安全第一にお願いします。また、先に言っておきますが驚かせる役の人は居ないので、違和感を覚えたら即全体へ連絡をお願いします。そいつは不審者ですから。」
佐々木は冗談の言う様な感じで笑いながら本来の目的の話も絶妙に織り込んで行った。流石に生徒会長をしているだけは有ると二人は感心しながら聞いていた。
「と言う事で、最初の七不思議『トイレの花子さん』だ!」
気合の入った声が響くと同時に歓声が上がるが、リィムだけはキョトンとした顔をしていた。それに気付いたエルが説明を始めた。
「トイレの花子さんってのは校舎の三階の女子トイレを奥から三回ノックして『花子さん居ますか?』って聞くと3つ目の個室から返事が返って来ると言われている奴ですね。」
「エル君……何で知ってるんですか?」
ジト目のリィムが呆れた様に聞き返すと、今度はエルの方がキョトンとした目で返事をする。
「そんなのスマホで調べればすぐじゃないですか。何の為の機械です?」
「わざわざ怪談を調べようとは思いませんよ……」
言い合っていると佐々木はクジを配り出した。そして二人もクジを引き終わると一斉に開封される。
「では同じ番号の組の人と組んでください。安全上3人一組にしています!」
「私は4組目ですね。」
「俺は1組目ですか……俺達のは意図的に配った感が有りますね。」
何かを察した二人が佐々木に視線を移すと、佐々木も『気付いたか』と言った表情で軽く片目を閉じて返事をした。
「安全配慮の観点からしても初手と最後と言う事か、ちなみにリィムさんはどっちが良かったです?」
「どっちも嫌です! 任務と思うからやるだけです。思考を切り替えればいいんですよね、これは任務であって怪談や肝試しではないと……」
怪談が嫌いなリィムはそもそも参加したく無さそうだが、任務と思考を切り替える事で恐怖心を無くそうと試みていた。
「では早速行ってみようか! 最初はエル君と、副会長の田中さんと1年の菊池さんだ! 行ってらっしゃい! 田中さんは道案内してあげてね!」
佐々木が声高に叫ぶと田中と言うショートカットの活発そうな少女がエルに手を差し出した。
「宜しくね、私は『田中 美波』よ。では道案内もかねて私が先導するわね。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
エルは笑顔で軽く握手を交わすともう一人の1年生の男子の菊池と共に正面玄関から校舎へと入って行く。
その様子を見てからリィムは佐々木の隣に移動して小声で話しかけた。
「今の所は何も変化有りませんね。大声で宣言する事で犯人が居たら動き出すと思ってワザと騒ぎましたよね?」
「流石に洞察力が高いですね。そうです、そして自分は2組なので初手での動きが有ればすぐに対応できるようにします。リィムさんは待っている人達の安全を確保しつつ殿を任させてもらいます。」
予想通りかと思いつつも、理に適った配置だとリィムは頷いた。
「分かりました。3組目に何か有った場合は?」
「3組目は時間差も有りますが何か有れば自分かリィムさんの近い方が対処したいと思います。これ以上1組当たりの人数が多いと釣れない可能性も有りますから、ここは悩ましい所でした。」
佐々木はメガネを直しながら真剣な眼差しになっていた。この部分だけはリスクを背負わざるを得なかったと言いたげだった。
「まぁ確実に何かが有るとも限りませんしね。」
リィムはそう言うと校舎へ視線を移した。これから何事も無く済めば良いと思っていたが、わざわざ稲葉が自分達をここに呼びつけたのだ、何かしら事件は起きるだろうと覚悟はしていた。
そんな心配をよそに、初日は何事も無く無事に過ぎたのだった。
リィムだけは初日で解決できれば残りの怪談を断れたのにとブツブツと言いながら帰路についたのは言うまでもない。




