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第22話 身から出た錆

 アラスティアは精霊力の流れの様子を見ると、自慢気に両腕を腰に当てて偉そうにする。


「見ろ、正解だっただろ? 原因はこの男だ。」

「だからって普通の人間に、あんなに感情の負荷かけてどうするのよ! 明らかにおかしな事になり始めてるじゃない!」


 ユキの慌てる声を余所に、アラスティアは男の部屋の奥を指差す。


「見ろ、どうせ自殺しようとしていたのだろう。負の感情が心を蝕んだ結果だろうが、私達ならまだこの男を救えるんじゃないか?」


 見ると男の部屋のドアノブにロープが括りつけられているのが見えた。それに気付いたユキは大きく溜息を付く。


「そうね、どれだけ絶望したのか知らないけど……そんなクソみたいな感情は私が浄化してやるわ! 干渉系の光属性の特権ってやつよ!」


 男の周りに先程まで見て来た黒いモヤが発生し始めると、ウヨウヨと動き始めた。


「あふれ出た絶望と言う感情が、他人も道連れと言う意思で具現化したって事かしら? この人は精霊力の素質高そうね。」


 動き出したモヤは既にスライムの様な形状になって徘徊を始めた。当然、目の前で両手で頭を抱えながら狂ったように笑っている男へも近づこうとしていた。


「ふむ、このスライムの様な物は絶望を加速させる性質が有るな。」


 アラスティアは男に取り付こうとしたスライムを素手で掴むとそのまま雪玉の様に握り潰した。


「アンタ、触って確かめるの辞めてくれない? 私に被害が有ったらどーすんのよ!」


「ん? ユキがこの程度の絶望加速で落ち込むのか? いくら私が注意してもアホみたいに前向きな思考で行動しかしないのに?」


「あ、あんた! アホって何よ! 悩んでも良いけど立ち止まるのは意味が無いと言う考えの下に動いてるだけでしょうが!」


 二人の言い合いが始めるが、それを死んだような目になっている男は忌々し気に両手をアラスティアの首へと伸ばした。


「何のつもりだ?」


「どうせ死ぬつもりなんだ。気に入らないお前も死ね。」


 男の手に力が入る。しかしアラスティアは顔色一つ変えずに男の眼を見る。


「本気で力を入れたらどうだ? そんな力ではウサギも殺せないぞ。」

「何だコイツ!? 首が石みたいに堅い!」


 男は力を込めるが平然とするアラスティアを見て焦り始める。すると周囲に発生した黒いスライムも動揺した動きになる。


「感情が弱い! 本気で殺したいなら強い意志を持て! 自分の意思が弱いから何事も中途半端なんだろうが!」


 アラスティアが一喝すると、男は気圧される様に手を離し、そのまま後方へとへたり込んだのだった。


「何でだ! 何でなにも上手くいかない! こんな世界要らないんだよ! みんな、みんな死んじまえよ!」


 男は部屋に戻ると、包丁を持ち出してアラスティアへと向けて叫ぶ。しかしその手足は震えていた。


「俺は悪くない、俺は悪くない、悪いのは世の中だ……俺を理解しない、大事にしない奴らが悪いんだ……」


 ブツブツと呪文の様に呟いているが、その内容を聞いたアラスティアは不快そうな表情をする。


「ダメだな、完全に思考が内側を向いている。ユキ、頼んだ。」

「ハイハイ、任せときなさい!」


 黒髪黒眼のユキに戻ると、手を前に出して悠久幻輝結界を発動する。男は光の強さに意識を奪われる。そして時間をかけてやっと目の焦点が合う。


「な、何だ……この光の空間は?」

「ここは私の光の結界よ。続きはアラスティアに任せるわ。」

「な、髪の色が!?」


 男は目の前の少女の髪と目の色が切り替わっていく様を驚きながら呆然としていた。そしてアラスティアに変わると、そのままゆっくりと男に近づいて包丁の切っ先を自分の腹部に軽く当たる位置まで近づいた。


「さて、確認するが、このままこの刃物で刺して私を殺したとして誰が悪いのだ? 挑発した私か? それとも殺した貴様か?」


 男は一瞬ためらう素振りを見せるが、首を横に振りながら叫ぶ。


「そ、そんなの……俺は悪くない!」

「誰が悪くないとは聞いていない。誰が悪いんだと聞いている。」

「こんな世の中が悪いんだ!」

「今、この場で他は関係ない! どっちが悪いんだ!?」


 鬼気迫るアラスティアの言葉に男は再びその場にへたり込むと、包丁を手から落とした。しかしスライム達はそれを許さないとばかりに、男の元へ集まろうと一斉に動き出した。


「具現化した事で下位精霊化したか!」


 アラスティアは近付いて来るスライムを背中に隠していた光の双剣で次々と斬り裂いて行く。


 男は我に返ったのか光の剣とスライムが見えている様で、その光景に驚きを隠せないでいた。


「あ、あんたは一体……それにこの黒いのが俺を狂わせていたのか?」


「違う。貴様の歪んだ他責思考の感情がこいつらを具現化させたんだ。」


「お、俺が……?」


 男は段々と憑きものが落ちた様に表情が青ざめていく。


「このスライムは普通の人には見えないが、触れれば体調不良や、負の感情を加速させる。貴様の感情がこんな化け物を生み出したんだ。」


「何を言っているんだ? 何の冗談だ? こんなファンタジーみたいな事ある訳が無いだろ!」


 男は光に覆われた世界で叫びながら壁やドアを探す素振りをするが、全てが素通りするのを見て唖然とし始める。


「ここはユキの結界の中だ。私は精霊のアラスティア=サルファだ。貴様が生み出したスライムの上位版と思えば良い。」


「せ、精霊? 生み出した?」


 男は唖然としたまま向き直すと、再び侵入して来たスライムが現れるがアラスティアが素早く剣で全て切り裂いていく。


「こいつらは貴様の負の感情を元に生まれた。今は落ち着いたせいで感情の供給が断たれて焦っているのだろう。」


「ど、どう言う事だ?」


「精霊は人間の強い感情で具現化する。ただし一定の条件は必要だが、貴様は感情が強すぎたのだろうな。だからこんな半端で厄介な下位精霊が具現化した。」


 次々と侵入してくるスライムを切り裂きながらアラスティア説明を続ける。


「精霊のエネルギー源は人間の感情だ。特に具現化主や契約者の感情で成長するからな。だからこいつ等はお前に負の感情を戻させようとしているのだろう。」


「俺の感情から生まれたのに……俺を狂わせてたのか?」


 男は何とか現状を理解しようと努めている様だった。そして有る事に気が付いた。


「まさに『身から出た錆』と言う事か……何て情けない。」

「まだ反省する位の感情は残っていたか。」


 冷静さを取り戻した男を見て、ユキが中から声を掛ける。


「まだ世の中が憎いのかしら?」

「ぇ? 違う声?」


「私はこの精霊の契約主よ。今は同化中だから内側から喋ってるけど、細かい事は気にしない!」

「はい……」


 たて続けに常識の範囲外の事が起きて混乱している男は、もう有るがままを受け入れようと言う境地に達したのだろう。質問をやめたのだった。


「このままだとスライム達は再度現れて、貴方の負の感情を増幅させようとするわ。止めたいなら貴方が変わらなきゃダメよ。」


「俺が……変わる?」


「そう! いつまでも後ろ向きじゃ無くて前を見て歩く感情よ! 自殺も人殺しもしたく無いでしょ! だったら変わりなさい!」


「変わりたいさ! だが変われなかった結果がこれだ! 失敗して、騙されて、取り返そうとして失敗して……どうやったら変われるんだよ!」


 男は理解は出来ても納得できない様子で声を荒げた。すると再び大量のスライムが結界内に侵入してきたのだった。

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