第21話 心の淀み
4人は感知した方へと急ぎ駆けて行く。そして1キロ程離れた場所のとあるアパートの前にたどり着いた。
「このアパートの2階の角部屋ね……って住人が原因よね? 土地に何か有るなら2階の位置から感じる訳無いし。」
ユキは何とも理解出来ないと言う顔をしている。精霊力を行使して体調不良を起こさせるような精霊術まがいの物を発動させているのだ。素人の精霊術士だとしても精霊具の補助無しに使える事はほぼ無いと晴香から説明を受けていたからだ。
「確かに精霊力を感じますが……一体何が起きているのか。」
「どう見ても精霊術が発動してるっすね。」
「てか精霊使いだったら私達だと邪魔では?」
ブラック・ウィングスの3人は状況を理解したのか青ざめた表情になっていく。しかしユキとアラスティアは何かしっくりしない感覚だった。
「考えずらいけど、そもそも精霊の存在を知っていた私がアラスティアを霊装銃無しで呼ぼうとしても無理だったし、精霊術も使えなかったのよね。」
「ああ、そうなると今回の犯人は迷い込んだ精霊か……偶発的に精霊具を持ってしまったと考えるのが妥当ではないか?」
後ろで聞いていた3人もおおむね同意だったのだろる。静かに首を縦に振るが、ユキだけは更に渋そうな表情になった。
「アラスティア、後もう一個の可能性を忘れているわ。」
「もう一つ?」
「適合者に憑依して人格を乗っ取る『特異能力者』よ。」
「ま、まさか……いや、可能性は有るのか?」
「私達が知っている以外にも有っても不思議じゃないでしょ。」
深刻そうな話に、3人が何か聞きたくないモノを聞かされていると言う雰囲気になり始める。
「これ、聞かなかった事にしようか。」
「そうっすね……死にたくないっす。」
「同意ね、何か最近の私達って巻き込まれ体質じゃない?」
「思ってても言ったらアウトっす。」
3人が揃って耳を塞いでしゃがみ込むが、ユキは小隊長の手を耳から外して説明を続ける。
「念の為に聞いておいて。多分無いとは思うけど最悪の場合は私じゃ相手にならないの。精々時間稼ぎが出来る程度ね。」
「ぇ? ユキさんが時間稼ぎ程度?」
「それってSSS以上って事っすか?」
「いや、SSとSSSじゃ戦い方と相性次第でしょ?」
結局は聞く状況になった部下二人も会話に参加する。
「もし、違ったら今の話は聞かなかった事にしていいわ。ちなみに『特異能力者』の能力はExTendedの基準の神器2個使いが最低ラインよ。」
内容を聞いて3人の顔が青ざめていくのが確認できた。ユキも緊張の面持ちを隠せていない。
「しかも精霊と違って憑依するから、基本的には分離不可で宿主の人格を殺して肉体を乗っ取るわ。万が一だけど、その際は応援を呼びに逃げてね。」
「い、いや、そんな化け物だったら逃げるなんて!」
「そうっす! 可能性が有るなら司令に相談するっす!」
「そうよ! ExTendedクラスから逃げるなんて!」
3人の焦りとは裏腹に、ユキは覚悟を決めた表情でアパートの一室を見ながら固唾を飲む。
「多分大丈夫よ、そこまで強い精霊力は感じない。念の為の可能性の話。もしそうだったとしても『特異能力者』と戦った事有るから簡単にはやられないわ!」
ユキは安心させる様に言うと、アパートの階段をゆっくりと登り始めた。3人はユキの合図が見れる様な位置で遠巻きに煙幕結界を展開する。
扉の前に立つと霊装銃を取り出して再び引き金を引く。そして悠久幻輝結界を展開してからアラスティアに変わると、2本の小ぶりな双剣を具現化した。
双剣を背中に隠すと、アラスティアはゆっくりと扉をノックする。
…………………………
数秒の沈黙の後、再びアラスティアがノックをくり返す。
「すまない、誰か居るのだろう? 少し話をさせてくれないか?」
…………………………
「お~い、居るのは気配で解るんだ。これ以上居留守を使うならドアを壊すが構わないか? いや、貴様に拒否権は無いのだから早々に出てこい。」
「いや! アンタそんな言い方して窓から逃げられたらどうするのよ!」
物騒な物言いにユキがツッコミを入れるが、アラスティアは何がダメなのか良く解ってない。
「別に窓から逃げたら、外に出たのだから捕まえ易いのではないか?」
「あ~そうね、私達の任務って一般常識が必要無かったわね……」
ユキが諦め声を上げると同時にドアの付近に気配がして、アラスティアは一歩下がって身構えた。
「何だテメェらは……新手の勧誘か? 今度はこんなガキまで使って騙そうってか? 詐欺師共の情報網はこえぇぇなぁぁ!」
覗き穴からアラスティアを確認したのか、相手が少女一人と理解した途端にドアの鍵が開く音がすると、30代位の長めの無精髭を生やしたボサボサの長髪の男が勢いよくドアを開けたのだった。
「ここにはお前一人か?」
「あぁ? ガキのくせに偉そうな物言いだな!」
「大人のくせに女に威圧しか出来ないのか?」
「礼儀もへったくれも有るか! どうせテメェも詐欺師なんだろうが!」
「詐欺師? 何のことか解らんが……私は貴様に質問が有るだけだ。」
「ホラ、キッカケはそうだ! 話だけとか言ってあの手この手で人を騙そうとする! どいつもこいつも俺をお人好しと思いやがって!」
段々とヒートアップする男性にアラスティアの口調は相性が悪かった。身の安全を考えてアラスティアを表に出したユキは後悔したがもう遅かった。
(アンタ! もう少し口調をどうにかしなさいよ!)
(いや、これで良い。感情が暴走して精霊術が無意識に出ているのかを見るにはいい機会だ。)
「キッカケはどうであれ、騙されたのなら自分が悪いのではないか?」
「ああぁ?! 騙される方が悪いってのか!」
「騙す方が悪いに決まっているが、騙される側にも問題が有るだろう?」
「俺の何が悪かったって言うんだ!」
「騙されるスキが有ると言う事、疑う事をしない事。調べない事か?」
「な!」
アラスティアの言葉に男は言葉を詰まらせると、さらに畳みかける様に言う。
「図星か、人を信じるのは美徳だが信じるだけで疑う事や調べないと言う事は無関心と一緒だ。自分の身を守る関心が無さ過ぎた結果だろう。」
「な、何でそんな事が言えるんだ! お前に何が分かる!」
男はアラスティアの言葉に激昂すると、同時に良くない精霊力が集まって来るのが見えたのだった。




