第20話 光の使い方
「で、今回はこれね……この状態は一般人には見えているのかしら?」
ユキはメールの指示の有った場所に到着すると、その場で待機していた「ブラック・ウィングス」の3人と合流した。
「もう少しで見えそうになるっす! だから今のうちっすね!」
「発生の元凶の場所はもう少しかかるって。ごめんね。」
「お前達……一応その方、上官だからな?」
小隊長が呆れた表情で部下の二人に注意するが、二人は今更口調を変えるのも変だろうと抗議してきた。
その様子を見たユキも逆に年下なのだから気にしないで普段通りの方が緊張しなくて良いと認めると、小隊長は渋々と二人に許可した。
「さっすが今回の精霊使い様は話が分かっるっす!」
「ほんとね、前の時はふんぞり返りやがって、何度撃ち殺そうと思った事か……。」
「頼むから思っていたとしても口にするな。」
「相変わらずの漫才コンビね……さて、早速この問題の闇溜まりを消していくわよ。」
ユキはクスクスと笑いながらも楽しそうな雰囲気の3人に、先程までのイライラした気持ちが少し解消されているのに気が付いた。
(こういうムードメーカー的なチームって良いわね、はぁ……どうせならソウタさんと一緒なら良かったのに。闇の精霊の仕業ならソウタさんの方が詳しいと思うんだけど……迷惑はかけられないか。)
ユキを気を引き締め直すと、目の前の住宅街に点在している墨汁で塗りつぶした様な、黒い直径1メートル程のモヤに近づく。
「周りの警戒を頼むわね。」
「了解っす! 先に煙幕結界を使うっす!」
部下の男はポケットから少し大きい飴玉の様な物を取り出すと、地面に落として勢い良く踏みつけた。そして砕けると同時に、見えない精霊力の何かが周囲を覆って行くのが理解出来た。
「視界誤認術の展開完了確認。精霊力素養Cランクオーバーのみこの空間を認識出来る様になりました。ユキさん、召喚銃を使っても大丈夫です。」
部下の女性がバイザーの様な物を付けると、辺りに展開された精霊具による結界を確認して合図を出した。
確認したユキは霊装銃を懐から取り出すと、こめかみに銃口を当てて勢い良く引き金を引く。
「来なさい! アラスティア=サルファ!」
ユキの頭が勢い良く揺れると同時に髪と瞳が黄色へと変色していく。そしてアラスティアと切り替わると3人組の方を睨みながら不機嫌そうな顔をしていた。
「最近出番が多くないか? 確か数時間前にも呼ばれた気がするんだが? 少しは私の休息と言う物も考えて欲しいのだが? 人間には労働基準法と言う物が有るのだろう?」
「精霊様は人間じゃないので対象外っす!」
「バカ! お前! 精霊様になんて口のきき方を!」
「小隊長、アラスティアちゃんも気にしないって前に言ってたじゃないですか?」
「お前な!? 力の差を考えて物を言え!?」
不機嫌そうなアラスティアを余所に3人は漫才の様なやり取りを始める。流石にその光景を見て毒気を抜かれたのか呆れた表情をしながら目標を確認した。
「相変わらずだな……出てくる度にコレだと毒気も抜かれる。さて、またあの闇の精霊力溜まりか。」
「内心楽しんでるクセに。伝わって来る感情までは誤魔化せないんだからね?」
ユキに内側から指摘されると、少し気恥ずかしそうな顔をしながらも目標へと近寄ると観察を始めた。
「う~む、ただの精霊力溜まりの様だが……こうも人間界で頻発すると、精霊使いが居ると思った方が早いのではないか?」
「でも闇の精霊使いなんて、今の日本には居ないらしいけど?」
アラスティアは闇溜まりを素手で叩く様に払うと軽く光って消えた。下位精霊が湧いて来る事も無い。しかし、これに気付かずに触れた一般人は体調不良を起こしているのが確認されていた。
「一応指令にお願いして確認してもらいましたが、海外からのSランク以上の闇の精霊使いの来日は現在無いそうです。」
「Sランク以上は移動すると問答無用で国外では追跡されるっすからね。」
「後、ここら辺で封神具に収められた闇の精霊も居ないわ。」
3人からの報告を聞いたアラスティアは怪訝そうな顔をしながらも次々と闇溜まりを消していく。
「そうなると、考えられるのは何かが発生したと考えるのが妥当だな。」
ユキの陽気さとは違い、凛とした雰囲気を出すアラスティアには3人も口調が少し真面目さを取り戻すのだった。
「そうね、探すとなるとナギに頼んだ方が早そうだけど……呼ばれてないって事は私でどうにかしろって事なのよね?」
ユキの声がアラスティアから不自然に響く。その奇妙な状況に3人は何とも言えない表情のまま会話が進んで行く。
「自分らは聞かされてませんが、今回はユキさんだけでと聞いてます。」
「司令の考えはたまに解らない時が有るっす。」
「でも、そう言う時は大体意味が有るね。タヌキ司令だけに。」
意味深な3人のセリフを聞いて、言葉と状況で察しろと言われている気がしたアラスティアは憮然とした表情になる。
「闇を探すなら光で照らせって事かしら?」
「要するに、試されていると言う事だな。単純な力では無く、戦術的な思考力を。」
そう言うと同時にアラスティアの髪が黒色に戻り、ユキが表に出て来た。
「闇に何かが居るんなら、向こうが探さざるを得ない状況を作ってあげようじゃないの!」
再び召喚銃を構えてこめかみに銃口を当てて引き金を引く。しかし今度は髪色は変わらずにユキが表に出たままだった。
「あれ? 精霊様に変わらないっす?」
「アンタね……精霊術を使うのが精霊だけと思わない事ね。後、良いと言うまで目を閉じてなさい。潰れても知らないからね?」
ユキは質問に対して無愛想に応えると両手を広げて集中力を高める。
「さ~て、久しぶりの全力で使わせてもらうからね。『悠久幻輝結界』!」
声を上げると同時に周囲一帯が目を開けれなくなる程の光の渦に飲み込まれた。
その光はまるで無影灯の様に多角的な光なのか、影すら生み出さない光の空間を作り出したのだった。
「範囲を広げるからね! アンタ達は少しずつ目を慣らしなさい!」
「了解した。少しずつ目を開けて周囲を警戒する。」
「うは~完全防備のグラサン付けても眩しいっす。」
「これってお肌焼けない? 大丈夫?」
「焼けなくても見せる相手が居ないっすよ。」
「テメェ……グラサン外してやろうか?」
「それは目が絶対に死ぬんで勘弁して欲しいっす……あ、スイマセン、ゴメンナサイ……や、やめるっすー!」
3人組の変わらないやり取りを聞きながら、ユキは小隊長だけが真面目に周囲の警戒を始めたのを確認して範囲を広げていく。
「そろそろ範囲が結界を超える、お前ら阻害範囲を拡大するぞ!」
「了解っす!」
「はいよ! ってお前後で絶対シメるからな!」
ユキの結界の範囲を広げるに合わせて煙幕結界を広げていく。いくら精霊力に適応が無い人達でもこの光の強さの影響を受けないとは考えられなかったからだ。
「ん? 居たわ……この光の中でも消えない闇の精霊力を感知した!」
ユキが何かを感じると結界を瞬時に解除して3人に伝えた。そして探知した精霊力の方向を指差す。
「逃げられる前に追い付くわよ! ってか、あの司令め……私の悠久幻輝結界で闇の精霊力を補足出来るって何で気付いているのよ! 私ですら知らなかったのに!」
自分の成長や能力の未知なる部分を稲葉の思惑のまま知らされている様で、釈然としないまま駆け出して行くのだった。




