第18話 帰り道
「しかし、少し確認したい事が有るんだが。」
帰りの新幹線の中で、夕飯の駅弁を食べながらレンは質問を始めた。
「同調契約って相手が誰でもあんなに疲れるモノなのか? 逆に桐生とか言ってた奴らの様に意識を無くせば、疲労は無いのか?」
その言葉に稲葉は思い出した様に手をポンッと叩いて笑い始めた。
「ハッハッハッ! スマンスマン。水面月華の精霊ランクはSSSだ。君の器よりも少しだけ強いからね、余計に疲労して当然だよ!」
「はぁ?! ちょ! おまっ!」
爆弾発言に驚いたレンは稲葉に詰め寄るが、稲葉の平然とした表情を崩さない。
「水面月華は、精霊界に迷い込んだ水瀬和夫が故郷の家族に会いたい、帰りたいと言う一心で具現化した精霊だ。守るべき者が有ると言う強い信念の元に具現化した。」
「精霊は契約主の感情で成長する……か。」
「そうだ、家族の元へと帰りたい。強い感情だとは思わないかね?」
「だからアイツは家族に対してこだわりが強かったんだな。」
ナギが前のめりになっているレンの首根っこを掴んで椅子に座らせ直すと、箸のペースは落とさずに話を続けた。
「つまり、私達に成長しろという事かしら?」
「察しが良いね。君達のガラントとパティスはまだまだ成長する。」
「俺達が他の皆に比べて弱いからか?」
弱いと言う言葉を聞いて稲葉は少し難しそうな顔をした。そして首を横に振ってから説明を続けた。
「何故に君達とユキ君にSとSSの壁が有ると思う?」
「感情が弱いって言いたいの?」
「むしろそれ以外の答えが無い様に思うんだが?」
二人の答えに稲葉は含み笑いを浮かべる。
「違うな、そもそも感情の強い弱いって何かね?」
「……これって答える気が無いわよね?」
「だろうな……自分で考えろって事かよ。」
稲葉の問答で二人はすぐに教えてくれないと察したのであった。そして再び箸を動かし始める。
「君達二人は特に頭の回転が速い、状況判断力はチームの中核になる物だ。だからこそ感情を抑えてしまうのだろうな。」
二人は褒められているのか貶されているのか分からなく、微妙な空気が流れ始めた。
「さぁ、ヒントはここまでだ。Sランクのままでは生き残れない仕事が有るかも知れない。オジさんは若い者に死んでほしく無いからな。」
笑いながら稲葉は話を切り上げる。二人は食事を終えると疲労からか再び眠りについたのだった。
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その後、二人は地元の駅に着くとレンはナギを家まで送って行く事にした。既に時計は22時を過ぎていた。
「精霊の強さか、意識した事は無かったな。」
「私は成長と言うか、進化した所は一度だけ見た事有るわよ。でも自分となると考えてもいなかったわね。」
二人は稲葉の言葉を考えながら帰路を進んでいた。
「進化?」
「そう言えば話すタイミングが無かったわね。精霊界の旅の途中でハッキネンとティルは進化したわよ。」
寝耳に水と言った表情をしたレンは驚きながらも、何となく納得する。
「確かにそうでないと、あそこまでの力の差は無いよな。」
「そうね、でも確かに進化のキッカケは感情の爆発だったわよ。」
「感情の爆発?」
「ええ、ティルの進化のキッカケは……予想出来るだろうけど、二人がお互いに告白して付き合ったのがキッカケだわよ。」
内容を聞いて、レンは渋そうな表情をしながら納得がいくような、行かない様な複雑な気持ちになっていた。
「いや、確かに火神は3年分のストーカーを拗らせた結果、付き合えたんだから……感情の爆発と言うのは表現が合っているのか?」
「稲葉さんは感情の爆発と言ったわよ。つまり、私達みたいに段々とステップを踏んで来た側よりも感情の爆発と言う点では正しいと思うわよ。」
ナギの返事にレンは納得すると、もう一人の方を聞いてみる。
「ハッキネンは何で進化したんだ?」
「リィムの反抗心と言うか、決意だったわね。」
「決意?」
その時の事を思い返しているナギは複雑そうな表情をした。
「私が内容を勝手に言って良いか解らないから、詳しくは言えないけど……運命と言う神様にケンカを売る決意ね。」
「運命を変えてやるって事か?」
レンが悩みながらも聞き返すと、ナギは首を横に振った。
「あの時のセリフはね、『最悪の運命だろうが、私は自分が幸せだと思って生きれるように運命をねじ伏せてやります!』て言ってたわよ。」
レンは驚いた表情すると、手を顔に当てて大きく笑い出した。
「こりゃ負けたな。変えるじゃなくて、ねじ伏せると来たか。しかも幸せだと思えるようにか……受け入れつつも心は押し潰されないと言う事か?」
「単純な言葉の様だけど……奥が深い言葉だったわよ。そこが今の私達との差なのでしょうけどね。」
ナギも敵わないと言った表情で同意する。しばらくして、二人は真面目な表情に戻った。
「今の前提で行くと、タツミは兄である龍一さんへのコンプレックスを乗り越えた。火神は拗らせたストーカーの恋を実らせた。」
「リィムは自分の不幸を受け入れつつも、前向きに生きると決めたわね。ユキは……元々メンタル鬼強の子だったわね……。」
「ユキはタツミにアタックし続けて、全部フラれて、顔すら覚えてもらえてなくても頑張ってたもんな……流石に火神と付き合う事になったら諦めたけどな。」
「ユキは『運命の良し悪しで一喜一憂せずに、今の自分を成長させて、自分と言う人間を形作っているのだから否定はしない。否定したら前に進めなくなるから。』って言ってたわね。」
レンは普段のユキからは想像出来ない深い言葉を聞いて驚いた表情になるが、ユキの行動を思い返すと、妙に納得してしまった。
「その考えが根底に有るから、今では大切な仲間になった訳か……。」
「そうよ、ユキって結構凄い子だと思うわよ。」
「その割には扱いが雑な気もするが?」
「ん? 愛情表現ってヤツだわよ。」
二人は笑い合うが、すぐに沈黙が場を支配する。そしてレンが重い空気の中つぶやいた。
「そう考えると、俺達は足りないモノが多いな。」
「手遅れになる様な感情で進化する前に、考えないといけないわね。」
ナギの手遅れになる前と言う言葉に、レンは意味を察すると拳を強く握り込んだ。
「ああ、ちゃんと帰って来れる様に自分をもっと理解しないとな。」
「そうね、自分をもっと知らないといけないわね。」
「まぁその前に、明後日からのテストだな。」
「う……に、逃げないで頑張るわよ。」
「そうだな、じゃあ明日は目前の勉強を頑張るか。」
二人は手を繋ぐと、決意を新たにして帰路につくのであった。




