第六話 王国一の交渉は規格外
「ふぅー。上手くいったわ」
「さすがです。ノア」
「セシル、治癒魔法って出来るか? 出来るならあそこの人を回復してあげてくれ」
ノアはイリスの執事を指さしてセシルに質問する。
「はい! 出来ますよ!」
「そうか、それなら良かった」
ノアがほっと一息つくと現場を見ていた騎士の人が寄ってくる。
「君は確かノアくんと言ったね。いい転移魔法だ。さらには上手い使い方をする物なんだね。いい勉強になったよ、ありがとう」
「あの使い方は今思いついたんですよ。たまたまです」
「なんで謙虚なんだ。人間としても出来ている。イリス様が婚約を申し込むというのも納得がいく」
「そりゃどうも」
騎士のべた褒めに照れつつも苦笑いで受け流す。するとセシルが笑みを浮かべながら走って来る。
「あの方の治療は終わりました!」
「そうか! セシルはすごいんだな!」
「ノアには敵わないですよ!」
ふと気になる事が出来たのでノアは騎士の所へ行って質問をかける。
「そういえばさっき馬車が吹き飛びましたけど、そのまま向かうんですか? それとも引き返しますか?」
「いい質問だ。本来であれば護衛不足で引き返します所だが、今日は君がいるからそのまま行く」
「なに俺への信頼感」
「君は先の戦いで凄まじい功績を残した。それだけの信頼がついても不思議は無かろう」
「さ、さいですか」
そんなに俺強いの? 的な事を考えながらセシルと一緒にイリスの待つ馬車に乗り込む。
「お疲れ様です。ノア様」
イリスはにっこりと微笑みながらスカートの裾を摘む。
「別に疲れちゃいないぜ」
「戦闘後でも凛々しく在られる姿。さすがノア様、素敵です!」
セシルがイリスの素敵という言葉に反応して食いついてきた。
「そうなんです! ノアは最高に素敵なんです!!」
その言葉にイリスは不敵な笑みを浮かべて。
「どうやら私と貴女。よく気が合うライバルのようですわね」
「ライバル? 何を言っているのか分かりませんね。もうすでにノアは私のものなんですよ」
「何を仰って? ノア様は我がカルタニア家に相応しい存在。すでにこの私、イリス・カルタニアの物になっているのですわ」
イリスとセシルが凄まじい睨み合いを繰り広げている。そんな二人に向かってノアは苦笑いする。
「まあまあ、そんなにバチバチしなくても俺はどこにも行かないって」
「ノアは黙っててください!」
「ノア様は静かにして欲しいですわ!」
「こういう時だけ息ぴったりなんだよな」
ノアはため息混じりに失笑する。
「俺は2人のものじゃないよ」という呟きはイリスとセシルの耳には入らなかった。
その後特になにも無くベルネル商会に着いた。
三人が馬車から降りると一人のメイドらしき人が立っている。メイドが一礼すると。
「お待ちしておりました、イリス様。そちらの方は?」
「彼らは私の護衛ですの。中に連れて行ってもいいかしら?」
「えぇ、そういう理由ならば」
「ちょっと待って!」
ノアはあたふたしながら「えっと」と口をこもらせてから質問する。
「俺たちを商談の席に座るのかよ!」
「えぇ、そうですわ。何か問題でもあって?」
「問題しかないでしょ!」
「ノア様たちはあくまで護衛という立場なのですから当然だと思いますわ」
「えぇ……」
ノアとセシルが驚きながらノアは少しだけウキウキ気分で言われるがままイリスについて行く。
結構歩いてかなり奥まで来た感じだ。通路の突き当たりまで来ると少し大きめのドアが現れた。
そして付き添いのメイドがドアをそっと開けると茶色の髪をした女性が座っている。
「お待ちしておりました。イリス様」
「久しぶりですわ、ベルネルさん。わざわざ時間を開けてくれて悪いですわね」
「そんな事ないですよ。それにベルネルさんだなんて、アリスって呼び捨てで構いませんよ」
「そうなのかしら? では今後はアリスと呼ばれてもらいますわ」
二人は軽く社交辞令のような挨拶を交わしてから五人用ソファーの真ん中に座る。
「ノア様、良ければ私の隣に座っていただける?」
イリスが微笑みながら言ってくるのでノアは「しょうがねぇな」と返してからそっと座る。
ちなみにセシルはイリスでノアを挟み込むように座って、ソファーの左半分だけ使っているという変な座り方になってしまった。
イリスは「それでは早速本題に」と指を立てながら前置きする。
「私がアリスに要求したいのはベルネル商会の持つソルセルリーファイバー製の戦闘服、そして魔金属の武器。エンチャント付きでお願いしますわ」
「ソルセルリーの戦闘服と魔金属の武器、ですか」
アリスがイリスの要望に対して困惑しつつその意味をじっくり考えている。
いくら王家のお嬢様。イリスの要求といえど相当に驚いたようだ。
イリスは「えぇ、そうよ」と頷きながら釘を刺す。
「イリス様の要求は分かりました。ですが最高級、さらにエンチャント付きとなればそれ相応の対価が必要ですが。何を出しますか」
「私が出せる手札は、陰陽属性の魔刻結晶ですわ」
「魔刻結晶――ッ!」
「陰陽属性――ッ!」
「ちょっとイリスさん? 装備にそんなにお金をかけるなんて、万年に一度の勇者でも生まれてきたんですか?」
「えぇ、私の勇者が出てきたんですわ」
「さいですか」
イリスの勇者とは、という疑問が浮かぶが、なんとなく察しがついたので不問にしておく。
陰陽属性の魔刻結晶を差し出すという発言にアリスは息を呑んでいる。
ため息混じりに一拍置いてからアリス「分かりました」と呟くように前置きしてから考えを言う。
「陰陽の魔刻結晶という訳であれば釣り合いがとれます」
「なら良かったわ。すぐに手配してもらえるかしら?」
「それはよろしいのですが、手配してイリス様が対価を支払わないという可能性がありますので」
「あくまで信用問題と?」
「えぇ、担保があればいいんですがね」
イリスが「担保、何があったかしら」と呟きながら鋭い目になって考えている。
しばらくすると苦い表情をしながら顔を上げるとイリスの従者にヒソヒソと会話をしている。
隣に座っているノアにすら聞こえないぐらいの声だ。
会話が終わると決心がついたように表情を変えて「少し待っていて」とアリスに言う。
そして小走りにイリスの従者が大きめのケースを持ってきてテーブルの上に置くとイリスは少し息を吸ってから告げる。
「担保はこれで足りないかしら?」
そう言いながら開かれたケースの中には金貨が所狭しと詰まっていた。
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