第四話 お姫様の心
同じ王都というのに随分と時間がかかった。一時間ぐらいだろうか、じゃあなんですぐに馬車が来たのかは誰にも分からない。
「着きましたわ」
「いつも見ていたが近くで見ると大きいな〜」
標高百メートルぐらいの小さな山の頂上にあるカルタニア城は王都全体から見えるほどの大きい城だ。
ノアは一日一回このお城を眺めるのが日課になっていたが、まさか人生でこのお城に入る日が来るとは驚きである。
「なんとも贅沢というか無駄というか細かい装飾が多すぎないか、この城」
「お城は権威や財力を見せる重要な役割を持っているわ。だから付いてて当然の装飾なんですわよ」
確かにギルドには本社はあるがちょっと大きいぐらいの建物である。装飾など全くない。その点では、カルタニア家が一歩リードしているとも言えるだろう。
「俺は絶対何を見ても驚かないぞ!」
「だといいですけどね」
ノアの戯言にセシルは苦笑いしながら返す。
そして城のドアは開く。
「宮廷ってやべぇ」
ノアは無意識に呟いてしまう。セシルはそれに突っ込むことを忘れて思わず見とれてしまう。
それを見たイリスは微笑を浮かべながら手を大きく広げる。
「さぁ、中に入りましょう! こんな所で驚いていると日が暮れてしまいますわよ」
ノアはイリスに手を引かれて中に入る。
その後ろをセシルが「私の場違い感半端ない」とか言いながらちゃんと着いてくる。
広すぎる玄関を歩いていると執事服を身を包んだ白髪の老人が立っていた。彼はイリスに向かって一礼する。
「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらの彼が」
「そうですわ。親書にあった通り、彼がノア・カインズ。私の恩人ですの」
「いや恩人は言い過ぎだって」
「ご謙遜される事はありません。貴方はそれだけの事をしたのです」
「えぇ」とノアは困惑していたためにセシルに目をやると「ノア、自信をもってください」と小声でウィンクしながら言っていた。
セシルよ、お前まであちら側に着くのか。
「とりあえずお母様とお父様とで話がしたので、来るように伝言を頼めるかしら?」
「残念ながらそれは叶いません。例のアレです」
「そう、それなら仕方ないですわね」
「ん? 例のアレってなんだ?」
この質問にセシルは目を見開いて驚く。するとセシルが小声で、
「王家の方々なんだからきっと言えない事情があるに決まっています」とノアに言ってきた。
どうしようやべぇ事を聞いてしまったとノアが焦っている。多分怒られるだろうなと落ち込む。
が現実は想像どうりにいかない。イリスが「えっとですね」と前置きしてから、
「アレというのは今お父様はお母様に監禁されているんです」
「は?」「え?」
「それで――」
「ちょちょ、ちょっと待って、は? 監禁!? 何、イリスのお父さん犯罪でもしたの!?」
「いいえ、そういう意味ではありませんわ。お母様は、その、ヤンデレ、なんですの」
「ヤ、ヤンデレ?」
ここでニュース速報!! 新事実、王族はヤンデレだった!
これ以降ノアの頭の中は王族はヤンデレの話題で持ち切りになってしまった。
「という事なのでイリス様のお父様とお母様は出席できないのでこの私、アメリア・パトラーが代理で出席させてもらいます」
「さいですか」
それにしても話し合いに出られない理由がヤンデレだからってどうなんなだよ。
と出された紅茶を飲みながら頭をてんやわんやさせていると、イリスが決心した様子で一言告げる。
「私、このノア様と婚約しますわ!」
口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになるがギリギリの所で耐える。
何故かと言うとこのアメリアさんはイリスとの結婚をきっと反対するハズだからだ。
「それはいいわね! イリスがそう思うんだったらそうしなさい」
「ぶぅーーーーッ!」
やってしまった。何とかさっきは耐えれたのに結局やってしまった。
あーあ、俺の人生終わったな、とか考えているとイリスが心配そうな顔でノアの顔を覗き込みながら背中を撫でてきた。
「大丈夫ですか? 勢いよく吹き出して。このハンカチで口元を拭ってはいかが?」
「あ、ありがとう。あの、怒ってない?」
「こんな程度で怒るわけないでしょ」
「さいですか」
どうやら王家の反感を買うになる事は無いようだ。
その事に「ふぅ」と胸を撫で下ろしているとイリスが執事に向かって「新しい紅茶を」と言っていた。イリスって気配りができるんだなと感心するノアだった。
「話を戻しますが、私はノア様と婚約したいと思いますの。ノア様はいかがお考えで?」
「俺は、えっと」
困惑しているとセシルがジッとノアとセシルの事を睨んでくる。
ノアは「下手な返事は出来ないな」と内心呟いてから。
「俺はまだイリスの事をあんまり知らないからなんとも言えないな。もう少し知ったら分かるかもしれないけど」
この返事にノアは天才的な返しだ! と内心叫んでいた。
事実、セシルはホッとした顔をしているし、この答えは完璧だと思っていた。
「じゃあもっと私の事を知って頂ければ婚約出来るという訳ですね!」
「え?」
なんでそうーなるのぉー! より強く内心で叫ぶ。
あとなんかセシルがさっきより目付きがキツイんですけど!!
「いや知ってから考えるって言ってるでしょ」
「そ、そうですか。そうですよね」
イリスがしょぼんとした顔をしてしまった。一方その頃セシルは「本当ですか」と睨みながら言ってきた。
やばい、これ選択ミスったかも。
「ひとまずしばらく、イリス様はノア様について行くという事でいいですね」
「それであらかたあっていますわ。アメリア」
「え? どういう事?」
「私はノア様のやりたい事をお手伝い致しますと言っていますわ。ノア様は何かやりたい事はおありで?」
「ま、まあ。なんでも屋でも開こうかと」
イリスは「なんでも屋か」とコクコク頷くと、ぱぁと顔を明るくさせる。
「なんでも屋! 良いですね! では早速依頼しても良いかしら?」
「悪い。今ギルドに営業許可を取っているところなんだよ」
「そんな事は気にしなくてもいいですわ。ノア様の住んでいる場所の領主は私なので私が許可します」
「マジで! そりゃありがたいけど。良いの?」
「はい!」
こうしてトントン拍子で話は進んでいき、なんでも屋の初依頼はまさかの王族のお嬢様。イリス・カルタニアを護衛する。と言うものらしい。
初仕事が次期王女の護衛って波乱万丈すぎでしょ。とため息混じりに感じていた。
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