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第一話 最初の出会い

「まぁ、見事に追放されたんだがどうしよっかな。田舎とかに行こっかな」


 どこかのお話のように綺麗に追放されたノアは欠伸しながら王都の街を練り歩く。


「こう改めて街ってやつを見て回ると新しい発見があるな」


 人は物を失うと世界観が変わると言うがまさにこの事だろう。


 ノアはこれからの生き方について考える。

 また適当な職に就くのも良し、自分で店を立ち上げて荒稼ぎするのも良し、田舎でのんびりスローライフを送るのも良し。


 ギルドという縛りから開放されたノアは、ある意味職を失って幸せになったとも言える。


 そうポジティブに行く事にした。



 もともと俺はコミュニケーションが大の苦手だ。だから誰かにすがって生きていくのは無理に等しい。


「生まれてこの方、彼女の一つも出来たことないし」


 たとえ田舎に行っても、このまま都会に居ても恐らく死ぬ時は独りだと思うと胸が苦しくなる。


「優しくなればモテるのかな」


 モテるとは一人の人間が好かれるという事。だからこそモテる方法は我流であるべき。そう考えるノアである。


「きっと優しくなれば一人ぐらいはこんな俺に付いてきてくれるだろう」


 ノアはお金や地位に加えてほんの少しだけモテを意識してみるのだった。



 適当に王都の商業街を歩いていると突然怒号が聞こえてきた。


 聞こえてきた方に目をやると路地の方で一人の少女か男に殴り蹴られを繰り返されている。


 服の質からして王国貴族だろうか、ノアはため息をついてから辺りを見渡すとみんなチラ見する程度で誰も助けようとしない。


「世の中って非情だな」


 ノアは頭を掻きながら呟くと、聞こえていた方に向かって歩いていく。


「おい、おっさん。こんなとこで何してんの?」


「貴様平民か! 貴族様に対してなんて口の利き方だ!」


「なんて口の利き方も何もねぇよ」


「ガキの癖に生意気な――ッ!」


 男が殴りかかってくる。その攻撃をするりとかわしてノアの右手に突然ナイフが現れる。


 その意味を悟ったのか男は「転移魔法だと、、」と怯んている顔に不敵な笑みを見せると一気に距離を詰め首元にナイフを突きつける。


「これで分かったかい? 君は弱いと言うことを」


「くっそったれが!」


 男は目をカッとさせ、顔を真っ赤にしながら逃げていった。その行動にノアは「ふっ」と鼻で笑う。


「せっかく貴族の家庭に生まれたのにそんな器じゃ、かたなしだな」


「あの〜」


 少女は肩をツンツンしてくるのでノアは「ん?」と呟きながら振り返る。


 その少女は黒髪ショートに猫耳と尻尾が付いた亜人族である。


「助けていただきありがとうございます」


「んあ、そんな事か、気にすんな」


「そ、そうですか。お礼と言ってはなんですが何か私にお礼をさせて貰えませんか?」


 その問いにノアは目を瞑り「お礼? んー」と腕を組みながら考えてみる。


「いや特に無いわ」


「えぇ! なんでもいいんですよ。私に出来ることならなんでも」


 その返事にノアは「なんでもねぇ」と笑いながら言葉の意味を吟味(ぎんみ)する。


 その態度に少女はピクっと肩を震わせるが、やがて決心した顔つきに変わる。


「人生の手伝いをして貰うかな」


「人生の手伝い、ですか?」


「ああ、俺は今、目標があるんだよ。その手伝いをね」


「分かりました。それでは貴方の専属メイドになればいいですか?」


「そういう事でも無いんだよな」


 ノアが腕を組みながら考える。すると少女が「まさか」と顔を青くしながら少女の出した推測を言う。


「奴隷になれってことでしょうか?」


「そういう事じゃなくて、俺は君と仲良くしたいなって思うんだよ。そうなるのに奴隷と主人の関係はおかしいでしょ」


「それは、そうですけど」


「だろ、そういう事だよ」


 少女は困惑するが少し経ってから、うっすら笑みを浮かべてノアの第一印象を伝える。


「良い人なんですね」


「良い人なんてざっくりした評価だな」


「さすがは私の恩人です」


「恩人ってそんな、過分な評価だよ」


「いいえ、あの後私は人身売買されて最終的には奴隷のように生きて行くことになる予定でした。そうなれば私は死んだの同然です」


 少女は悲しそうな目で無くなったこれから語る。


 だがその目はゆっくりと明るくなって行き、やがて変わったこれからを語り出す。


「けれどあなたに助けられたことによってそれは無くなりました。一度は死んだこの魂、全てはあなたのために」


「す、すごいな」


「いいえ、すごいのはあなた様ですよ」


 少し会話を交わすと、二人は微笑み合うのだった。



「そう言えばさ、君の名前はなんて言うの? ちなみに俺の名前はノア・レインズだ」


「はい。私の名前はセシルと申します」


「へぇ、いい名前だね」


「――ッ」


 瞬間セシルの目が見開く。ノアはなにか悪いことでも言ったかと困惑していると、セシルが一呼吸置いてから、


「すみません、取り乱してしまって。少し過去の事を思い出してしまって」


「過去の事?」


「はい。生まれてこの方いい名前だなんて言われた事がなくて、反対にその――」


「分かった分かった。もういいよ!」


 これ以上はよろしくないと察知したノアは話を無理やり止める。するとセシルは「ありがとうございます」と苦笑いするのだった。




 今ノアとセシルは家に向かって歩いている所だ。セシルがノアにこんなことを聞いてくる。


「私はノアさんの事をなんてお呼びしたらいいでしょうか」


「普通に呼び捨てでいいけど?」


「えぇ! 呼び捨てだなんて出来ません! 人生の恩人を呼び捨てだなんて」


「俺がいいって言っているんだから気にしなくてもいいよ。それにしても下手にさん付けされるの俺嫌いだし」


「そう、ですか。わかり、ました」


 セシルは苦い顔をしながら名前を呼ぶ。


「ノア。これから私をよろしくお願いします」


 ノアは理解する。


 これで生涯独り身にはならないと。悩むだけ無駄だということを。

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