人捜し②
騎士団長に案内されて騎士館の内部にある騎士寮に向かう。騎士団員は例外なく騎士寮に入る。部屋の広さは騎士の役職によって異なるが全ての部屋にシャワー室とトイレが完備されている個室である。
シャワーと言ってもこの世界にお風呂と言う概念がないため、ちいさな個室に桶がありその中に湯が入っているだけである。その湯は使用人が常に清潔な物を用意している。そして、トイレと言うのも前世のように水洗トイレではなく個室のオマルが置いてあるだけだ。このオマルも使用人が常に綺麗な物を用意している。
騎士館には別に救護塔もあり我が国の最新の医療設備がある。それだけ騎士というのは重要とされている。
ハリー・ナイトの部屋らしき場所まで来ると、騎士団長が私の方を向いた。そして、膝をついた。
「到着致しました。只今確認してまいりますので、しばらくお時間下さい」
丁寧な口調であるが先ほどより顔色は悪く緊張しているようである。
騎士団長が可哀想になるが仕方ない。ハリー・ナイトに会い……。
会ってどうしたら良いのだろうか。事件の事を問い詰めるにしても証拠がない。そもそも、彼はまだその件に関わっていない事も考えられる。
今まで問い詰めようとしていた気持ちが突然なくなった。何を言おうとしていたのかもわからなくなったでのある。
そして頭痛がしてきた……。
騎士団長は私にお辞儀をすると部屋に入って行ってしまった。静まり返る騎士寮は扉を閉める音がよく響く。私の心臓の音も聞こえる気がした。額から汗が落ちるのを感じる。
ヤバいヤバいヤバい……。
本人が出てきたらどうしよう。何をどうしていいかわからない。
乗り切る方法を必死に考えたが思いつかない。
ハリー・ナイトの部屋がの扉が音をたてて開いた。
扉から出てきた騎士団長は入室した時より更に青い顔していた。だが、丁寧にしっかりとハリー・ナイトが不在である事と外出の申請が未提出であることを教えてくれた。
万策尽きたと思っていたが神は私を見捨てなかった。本当にありがとうございます。
自業自得であるのは理解しているがハリー・ナイト不在に安心した。
しかし、ハリー・ナイトには悪い事をしてしまったかも知れない。
騎士団に関わらず城内で働くものは全員が敷地内に住んでいるため城外に私用ででる場合は外出申請が必要である。休暇届けを代用する場合もある。しかし、未提出は有り得ない。使用人なら注意程度ですむが騎士団員は違う。大きな力を持つので他国や犯罪との繋がりを防止のため未提出は最悪刑罰にも値する。
「部屋にいないだけですよね。城内を探して下さい」
私の言葉に騎士団長が安堵の表情を見せる。私の我が儘でハリー・ナイトを窮地に追いやるところだった。これで良かったと思っていたがすぐに今の言葉は失敗である事に気づいた。
これではハリー・ナイトを見つけたら私のもとへ連れてきてしまう。
万事休す。
その時後ろからカツカツと足音がした。振り返ると長身の優男が現れた。長身と言っても騎士団長よりは低い。いつも穏やかな顔している副団長だ。
副団長は私の顔を見て驚いたようであるが、丁寧にお辞儀して挨拶をしてくれた。
もう、私はどうしていいかわからない。手の中は汗でぬれているのを感じる。
逃げたい。そう、もう逃げるしかない。
「ルカ第二王子殿下はハリー・ナイトをお探しでいらっしゃる」
私の答えを待っていたようだが、答えないと察したようで騎士団長が副団長に説明した。すると、副団長は私の方も見て膝をつくと優しい笑顔を見せてくれた。
「騎士団でハリー・ナイトを探すお手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか」
状況は悪化した。捜索する人間が増えたのである。これは、もう言い訳を考えている場合ではない。不自然でも二人がハリー・ナイトを探さない方向に持っていかなくてはならない。
「返事をせず申し訳ありません。大丈夫です。自分で探します」
騎士団長と副団長が面食らっているようだが気にせず去ることにした。できるだけ丁寧に挨拶をすると彼らに背を向けて歩いた。脇目もふらずにひたすら歩いた。
心臓が爆発しそうなくらい早く動いている。副団長×騎士団長は私の推しであったが妄想する余裕などなかった。
手までも震えている。
段々、呼吸も荒くなり、歩く事ができなくなった。とうとう、その場に座り込んでしまった。
胸が急激に痛み手で抑える。
彼らが追ってくる様子がない事を確認してから、目を閉じて深刻をする。“大丈夫”と何度も自分に言い聞かせる。しばらくして気持ちが落ち着いてきた。胸の痛みもなくなり、呼吸も通常になった。
頭だけを動かして当たりを見回すと見た事のない場所にいた。おそらく騎士館だろうと思うが自室への道がわからない。
「どうしよう」
立ち上がりとりあえず前に進む事にした。戻ると騎士団長たちに出会う可能性がある。
それは気まずい。
帰り道を探すが似たような天井や床が続き現在地すら分からなくなってしまった。一時間以上歩いたところで足が痺れてその場所に座り込んだ。膝をたてて座り、膝に頭をつける。
城内の地図は覚えなくては動けない。
自分の勉強不足を呪う。人の不幸をとめるにはまず学習そして体力をつける必要があると実感した。




