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黒髪のホワイト兄弟②

 私は背筋を伸ばし、両手でスカートを整える。そして深呼吸をしてから私が押し倒したままになっている少年をみた。本当に悪いことをしてしまったと思い眉を下げる。


 「失礼いたしました。私はオリバーの姉である、エマ・ホワイトです」


 気持ちを切り替えて、貴族ではないが元大統領家らしくスカートの裾を両手で持ちおじぎをするが相手の反応はいまいちである。いきなり攻撃を仕掛けてきたやつが丁寧に挨拶しても今更だと思われているのだろう。仕方ないことだが気持ちが沈む。


 「・・・」


 沈黙。


 弟は何も言わずに私を見つめている。すこしくらい姉を助けてくれてもいいと思うがそんな様子は全

くない。少年は立ち上がり、服を叩いてこちらを見ている。私がその場にいるにはどうにも気まずくなっていると少年は目を細めてニコリと笑顔を見せてくれた。


 「アーサーです」

 

 反応があったは嬉しいが、彼は名前しか名乗らないことが不思議であった。身なりは我が国の平均的な家庭の服装をしている。だから家名があってもいいと思った。我が国は貧富の差が多少あるが両親がいない子どもは施設での生活支援がある。そこで名前や家名となるものをもらうことができるはずである。


 素性を隠したいのか。


 珍しい容姿をしているしており元大統領の息子という肩書を持つ弟はよく父の知り合いから声を掛けられていた。適当に相手をすればいいがそれができない弟は次第にあまり人と会わないようにしていた。そんな弟が知り合いだと紹介したのだ。


 私の知らない知り合いがいる時点で驚愕であるがその相手の容姿があまりに整いすぎてるのだ。まるで隣国の王族のようである。あの国の王族は我が国の国民と同じ金髪碧眼であるが他の目を惹く容姿をしているらしい。隣国の文化を否定する我が国の国民であるが王族の容姿を一目見たいと思っている者も多い。それほどまでに有名なのだ。


 私は女王の絵姿しか見たことがない。美しすぎているためが、実際は別人を描いているのではないかと疑っている。しかし、目の前にいるアーサーという少年は面影がなくはない。


 「姉さん、見すぎ」


 あまりにアーサーの顔をじっくりと見てしまったため、弟にため息をつかれる。アーサーも困ったように眉を下げている。先ほど大きく開かれていた目は今は細くなりほとんど青い瞳が見えない。さっきから私はもしかしなくても恥ずかしい女なっていたようで穴があったら入りたいを通り越して埋まりたい。

 アーサーは目が細くなったことで隣国の女王とは違う印象になる。


 気のせいだわ。


 「失礼いたしました。お美しいお顔が隣国の女王に似ていたため見入ってしていまいました」


 実際入れる穴はないため、丁寧にお辞儀をして謝罪した。変に言い訳をして誤解を生んでしまうのは誰にも得はない。素性はこれから確認する必要があるが弟と良好な関係であるならば関係を壊す原因になりたくはない。しかし、謝罪をしても返答がない。私は怒らせてしまったかと慌てて頭を上げる。

 そこには言葉を失い、私をじっと見る二人の姿があった。彼らの表情は怒っているというよりも困惑しているようであった。


「どうなされたのでしょうか」


 私になにか不備があったのかと思いアーサーに確認する。アーサーは申し訳なさそうな顔してして弟、そして私を順にみる。弟が唸りながら、アーサーを見ている。

 何か言いづらい事があるのかと思い私は「その事を秘密にする」と伝えると弟は身を乗り出して私に聞いてきた。


 「え、じゃ、もしもだよ。隣国の魔法陣が使えて秘密を話したら死ぬみたいな魔法をかけていいの?」


 現実的な弟がもしもの話しをするのは珍しく目を見張る。しかも魔法陣ときた。確かに隣国の魔法陣は有名であるがあれは隣国でも王族しか使えない。そう使えない。なんとなく弟の言わんとすることが分かったような気がした。


 「いいわ。可愛い弟のためになるならね」


 私の言葉にオリバーはアーサーを見る。すると彼は頷き、地面に手をかざす。すると大きな円の中にびっしりと文字が書かれたものが浮かび上がった。


 これが魔法陣なのかしら。


 私が驚き動けずにいると弟が私の手を引き魔法陣に載せる。アーサーは私と弟が魔法陣に乗ったの確認すると今度は人差し指を自分の前に持ってきて私には読めない文字を書き丸で囲む。するとそれが光り魔法陣となる。


 「これから僕が見せる事及び話す事を誰かに話そうとしたり、伝えようとしたりする行為があった場合エマ・ホワイト殿、貴女の声と視界を頂きます。承諾するなら魔法陣に触れて下さい」


 命ではないのね。まぁそれくらいならいいわ。


 躊躇することなく、魔法陣に触れる私にアーサーは一瞬青い瞳を見せた。驚いているようだった。何に驚いているのか不明だった。契約承諾は発動前に彼に伝えていたことである。それを間際になって反故にするような人間に見えたのなら侵害だと思った。

 

 「契約終了」


 アーサーは魔法陣をおすような動作をするとそれはゆっくりと移動して、私の中に入っていくのが見えたが特に痛みや違和感を感じる事はなかった。まるで煙の中を通ったような不思議の感覚があった。手や足を動かして身体に異常を確認するが問題はないようである。本当に今の物の私の視界や声を奪う力があるのか疑問の思う。


 「改めてまして、僕はアーサー・アレクサンダー・グレースです。隣国の摂政の息子で、女王の甥です」


 私の動きを気にすることなく、姿勢を正して丁寧に挨拶をする改めて名乗られて本物なのだと思ったがあまり実感がなかった。確かに綺麗な顔で魔法陣をつかうが平民も服を着ている。王族っていうのはもっと遠い存在であると思ったがアーサーは普通の少年に見えなくもない。


 「今、のっています魔法陣で私たちの姿も声も外には聞こえません。契約して頂きましたのでなんでもお答えします」


 「アーサー王子殿下、その前にまず敬語をやめて頂けますか。私の事はエマとお呼び下さい。私は平民です」


 王族、貴族制度のない我が国の民は全員平民である。しかし、私が王子様に敬語を使われる身分ではない。


「オリバーのお姉さんだね。面白い。じゃ僕にも敬語はやめてね。そしてアーサーと呼んでほしい。オリバーもそうしてるんだ」


 王子様に敬語なしで呼び捨てなんてそんなことはとてもできない。オリバーはなぜ承諾しているのか分からない。「僕も平民だよ」と軽く王子様は言う。なんていうか彼は軽いのだ。彼の才能とか実力とかというより彼自身から発せられる雰囲気が軽い。だからつい”本当に?”と思ってしまう。

 彼のが自分の平民という意味は、身分を隠して我が国入国しているという事だろうか。それならば、弟が敬語を使わないのも納得できた。しかし、入国理由が気になる。


 「貴方は我が国の民ではありません。しかし、私が敬語を使う事で貴方が王子様だと周囲にバレる可能性がありますので受けれます」

 

 私が話し終わらないうちに王子様はお腹を押さえて笑いだす。なぜか弟に視線を向ける。弟はばつが悪そうに私を見ている事から笑っている理由を察することができた。これはよく身内に言われる言葉でもある。その都度、弟は不愉快になっていた。同じ環境で育ったのだから仕方がないと思う。

 

 「あーオリバーと同じ台詞を知ったのかしら」


 「流石に兄弟だね。台詞だけではなく言葉と視界を失うというのに躊躇なく魔法陣に触れたのも同じだよ」


 視界や言葉がなくともいくらでも学ぶ方法はあるし、政に関わるのは今より困難になるが不可能ではい。そんなに問題視することではない。その考え方も弟と同じであったのかと思うと父に関心した。私たちの原点は父である。兄弟が同じ考え方をしているのであればそれは父の思考かなと思う。


 「絶対に話して欲しくない事について説明するね。きちんと話した事柄の方がより強い契約になるから」

 

 アーサーの言葉に頷きながらオリバーの方をチラリと見ると私の気持ちを察し口を開いた。


 「私も契約しているよ。そして知ってる話」


 相変わらず、表情をうごかさずに答えた。幼い頃はよく笑う子どもだったが他者を避けるようになってから顔の筋肉を動かさなくなった。自分の感情を他人に知られたくないようだ。家族は良いと思うがここ数年あの顔しか見ていない。それに対してアーサーのずっと笑顔だ。


 「魔法陣ってのは我が国の王族なら大抵発動できる。けど、僕がやったみたいに魔法陣を出現させたり作ったりすることのできる人間は限られているかなぁ。契約魔法陣は僕の創作なんだ。それができる人間を僕は他に知らない」


 なんでもないように軽く話しているが王子様って凄い人なのかと思う。そして自分の能力が一番に伝えるということは一番知られたく事なんだろうと思う。


 「ちなみに僕が創作魔法ができる事はここにいる人しか知らないよ」

 

 知ってる人間が少ないだろうとは思ったが自国の身内も知らないと言うことに驚いた。自分の手の内を開かすことを躊躇させる隣国の王族は大変だなと同情する。それにアーサーの言葉から察するに魔法陣の研究が行われていないように感じた。自国独特の文化を研究しない国などあり得ないとすぐに考えを変えた。

 

 「我が国は産まれた瞬間に人生が殆ど決まるからね。不満に思って行動を起こす人がいるよ」

 

 つまり信頼できる人間が作りづらい環境とだと納得した。きっと何か辛い事が起きたのだと彼の言葉尻から想像できる。身内が信じられない場所で生きてるのは大変だと同情する。

 

 「そうだ、なんで王子様がオリバーといるの?」

 

 「王子様ね。まぁいいけど。オリバーといるのは好きだからだよ」


 暗い雰囲気を変えようと別の話題をふったら予期せぬ答えたに面食らった。オリバーを見ると珍しい事に顔が赤くなっている。「だから、オリバーを愛しているだよ」と私に聞き間違いがないかどうかを確かめること言ってきた。

 聞き間違えはしていない。聞こえてもいるだだ理解が追い付かないだけである。

 

 更に赤くなり下を向く弟をアーサーが抱き寄せると「やめろ」と怒ってアーサーの手を叩いていた。

 

 「オリバー、貴方表情だせるじゃない」


 私の言葉にアーサーが「最初から表情豊かだよ」と答えながら嫌がる弟の頭をニヤニヤしながなぜている。何を見せられているのかしらという気持ちになる。兄弟の逢瀬に興味はない。大きなため息をつき二人を見る。


 「睦み合うのは二人の時間にして欲しいわ」


 「違う。そんなんじゃないよ」


 真っ赤な顔のオリバーに睨まれても全く迫力がない。いつもの無表情の方が威圧的で凄みがある。

 

 「えー違うの?もう半年も毎日会いに来てるのに」


 「半年?毎日?暇なのね」


 隣国の王族は大変なのだろ思ったがどうやらそうでもないらしい。毎日我が国に遊びにきても生活に困ることはないのだろう。さすが王族だと思う。さっきの同情する気持ちを返してほしい。


 「いやー半年間忙しかったよ。王位継承者の弟が王位が欲しくて兄の暗殺未遂。城の雰囲気悪いのなんのって。あー、この二人は僕のいとこね」


 相変わらず世間話をするようにヘラヘラと笑いながら話すその内容に驚愕した。更に従兄弟が暗殺事件にあっているのに気にする様子がない王子様に呆れる。事件後すぐにしかも弟に会いにくるとか本当に王子様の神経を疑う。

 自分はこの11年間親しい友人をつくる事なく走り続けてきた。それなのにこの男は暗殺事件があり自国が大変な時期に弟が好きだと毎日遊びにきてるようだ。

 彼は恵まれ容姿、恵まれた能力、恵まれた環境それらに胡座かいて努力をしない。何もしなくても将来路頭に迷う事はないのだ。


 私の中をザラザラしたものが通っていき、気持ちが悪くなった。


 「話は分かったわ。私はもう戻る。それでは()()()。オリバー、貴方も友人は選びなさい」


 “王子様”という言葉に力をいれて挨拶した。睨むつもりはなかったが眉間にシワがよってしまったためそう見えたかもしれない。隣国の王族になんと思われようと構わない。


 弟も隣国の王族なんかに近づいて欲しくなかったが、それは私が口を出していいことではない。例え弟であっても私は考えを押し付けるわけにはいかないのだ。学校へ入学するのだから、彼は自分で決めた事の責任をとっていかなくてはならないのだから。



 ただ、私は王族にもう会いたくない。






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