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黒髪のホワイト兄弟①

 アーサーが部屋を出てからすぐにフィリップがテーブルに頭をつけた。安心したようで「良かった」とつぶやいた。


 「何も変わってないわよ」


 安易な考えのフィリップにため息がでる。現実は何も変わっていなく、ただアーサーに諭されただけだ。

 フィリップは、教えられば問題には満点の成績を取ることができる優秀な生徒だ。ただ、それだけと言えばそれだけ。答えがない問題にはとても弱く最終的には現実逃避をしてすべてを捨てようとする。更に、彼の一番危険なことは依存性の高さだ。姉の死んだときのことを事を思い出すだけでも背筋が凍る。


 今は私は心を許してくれたようで安定している。

 この依存性についてはアーサーを見ているとアレクサンダー家に共通するものだと思う。

 

 「でも、アーサーがなんとかしてくれるよ」


 そりゃするでしょうね。フィリップはわかっていなかった様ですが私もお願いしましたから。

 アーサーは頭の回転がよく武術にもたけている。フィリップは幼いことから彼に対して絶対の信頼があるようだ。


 「だから安心してね」


 私の手を取り微笑むフィリップに私の頬が赤く染まる。フィリップは年を重ねても可愛いままである。そして重ねるごとに魅力的になっている。アレクサンダー家の容姿で魅力されない人はいないのではないかと感じる。我が娘も私の黒髪に黒目を引き継いでいるが顔の作りはフィリップそっくりであり可愛い。

 

 「あまり、彼を呼び出さない方いいと思うわ。さっきも不機嫌でしたわ」


 「しかし、アーサーに……」


 最後の方は声が小さくなり聞こえない。

 フィリップは昔からアーサーに頼っていたらしい。アーサーはフィリップの事をよく面倒くさいと言っていた。

 私がフィリップと出会ったのは成人してからだが、アーサーとは幼い頃に出会っている。今でこそ頼りにしているが当時は嫌っていた。


 アーサーが現れたのは私が学生だったころだ。

 

 私と弟の母はこの国の出身ではない、だから私はあの国特有の黒い髪に黒い瞳を持つ。弟にもその特徴が現れていた。

 この国は身分制度がなく努力すれば大統領になれ怠れば浮浪者に落ちる国であるが平等ではない。身分がないだけで貧富の差や差別はある。富がなければ働かなくてはならず、学びにかける時間が減ってしまう。

 

 元大統領の娘として産まれた私は恵まれている方であった。

 この容姿は差別の対象となると共に希望にもなると父と母に何度も言われた。

 父はある程度のことは自分で対処できるようにと、私と弟に第一夫人の子ども同様、剣術や体術を学べる環境を作り学習面に置いては家庭教師を準備してくれた。

 しばらくは家庭教師から学んでいたが、私はこの容姿で生きていく以上家族以外に私を認めさせなければならないと感じていたため、十歳になった年に第一夫人の子どもと同じ学校へ通わせて貰う事になった。


 私の家族は本当に良い人ばかりで第一夫人もその子どもも私を心配してくれた。特に義姉であるエマは通学当初は授業以外殆どそばにいてくれた。義兄レオンも入学して1年間は送迎をしてくれた。そのおかげで直接何かされる事はなかったが同級生との距離はあった。

 

 好奇の視線。

 

 わざと聞こえるように話す噂。


 私が触れた物に触れようとしない者。


 同学年の保護者が私の通学を反対して学校に抗議したこともあったが、私がこの国の人間である以上学ぶ権利がある。

 学校側は私も含め生徒に学ぶ場を与えるが人間関係については関与しない。だから、学校で差別や攻撃を受ける受ける者いる。しかし、我が国は年齢が低いからと言って法を逃れる事はできない。暴言をはけば名誉毀損であるし暴力をふるえば傷害罪である。被害者が届けをだせば警察が捜査し裁判になる。

 

 裁判までいけば新聞に実名が載る事となる。


 家から出るということはかなりの自己責任を求められる。そのため責任がとれると判断された子どもが学校に行くので自然と年齢の高い子どもが集まる。大抵十歳から十二歳ごろに入学するのが一般的である。費用がかからなく入学条件が我が国の二十歳までの子どもであるため、通学する子どもの家庭状況には差があった。

 この学校は我が国らしく年齢でクラスを分けずにテスト結果で一学年から十学年まで分ける。毎月のテストで学年が入れ変わり、更に一週間に一回のテストで学年の中で組み分けされる。人数制限はないのだが最も難易度の高い十学年の十組はいつも全員の5%程度しか在籍していない。なかには一学年のまま二十歳を迎え卒業する子どももいる。


 二十歳の時に在籍していたクラスにより就職が大きく変わるのだ。

 この容姿で周囲に認められるのはそこで最高学年になる必要がある。


 通学して家庭教師との差に驚いた。教師は学生の理解度に合わせることなくその学年にあった難易度で授業を進めていく。課題も出るが提出義務はなく教師が確認することはないが課題以上のことをこなしていかなくては次の授業についていくことができない。授業は月末までに次の学年に内容につながるようになっているため段々高度になっていくのだ。だから、月末テストで理解できないと判断されれば同じ学年もしくは学年が落ちる。


 本当に容赦がない。


 近いうちに弟が入学予定であるがあまりやる気がないのが心配である。入学テストで高得点をとることができればいいが上手くいかずに一学年にはいった場合悲惨である。私の通学抗議があったのは一学年の時である。しかし、ここで騒ぎを起こし学業以外のことに時間を取られてしまうのがいやで我慢した。

 

 学力の低さは知性の低さと比例するのだと思った。


 五学年になってからは友人ができないまでも誰もが普通に会話をしてくれた。五学年にいる私年齢は少ないため一目置かれ始めたのが要因である。


 「オリバー勉強好きじゃないしね」


 私は嫌いではないがテストというのが初めてで上手くいかずに入学当初一学年になってしまった。もし弟が学業に興味が持てないのであれば通学せずに家庭教師でもいいと思ったが、それだと学歴がないため就職に影響する。


 考え事をしていたせいか気づくと自宅の前にいた。


 いつもは静かな自宅であったが花壇の方に人影があり話し声が聞こえた。来客とは珍しいと思いながら花壇に近づくと言葉を失った。弟が花壇に押し寄せられ、至近距離にいるのは見たこともない金髪の少年。


 恐喝されている。


 考えるよりも体が先に動いた。落ちていた枝を拾い少年に投げつける。枝はすごいすごいスピードで飛んでいき少年のほほを掠めた。驚きで動けなくなっているのを好機と思い、助走をつけて飛び上がると少年の顔目掛けて飛び込むように蹴りをいれる。しかし、それは寸前のところでかわされてしまう。


 「なん!!」


 少年は声を上げるが特に気にせずに、着地した足を軸に体を回転させてながらしゃがみこんで少年の臑を蹴る。それにバランスを崩し声を上げながら少年が倒れるとそのまま少年に馬乗りになり両手を抑える。少年が抵抗をするのをやめたことを確認すると「誰?」と問う。

 

 睨みつけると少年は何が何だか理解できないようで目を大きくしてキョロキョロしている。金色の髪に青い目。この国の人間の特徴を持っているが顔が整いすぎている。

 

 あまりに綺麗な顔に自分の顔が赤くなるのを感じた。


 これは敵、敵なのよ。


 頭をふるい、気持ちを落ち着かせる。


 「大丈夫?」


 心配して弟の方を見ると固まって動かいない。


 「オリバー?」

 「え?あ…姉さん?」

 

 私の声に瞬きをして、意識を取り戻す。私の下で少年が助けを求めるようにオリバーを見ている。


 「あー、姉さん。“それ”知り合い」

 

 私が敵だと思って攻撃したことを察したようでどこか呆れたように話す。

 

 「はなしてもらってもいいですか」

 

 私に抑えられている少年は眉を下げて懇願する。早とちりしてしまったことに対して恥ずかしくなり顔を赤くして少年の上から降りると自分のスカートを払った。


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