大っ嫌い
「おい! 聞いてるのか! それとも余計な世話だったか!」
「世話… 何で… 落ちたとして其れは、マティスさんは関係ないのに、気にしなくても良いのに」
「はぁ? 気にするだろ! だいたい親に『危ない事するな』って、言われた事が有るだろ! 是も危ない事だぞ」
「……ない。そんな事、言われた事なんか一度も無い」
奥歯をかみしめ、涙がでるのを我慢する。
当たり前のことを私は言って貰ったことが無い。
「…………そうか。なら、俺が言おう。是は危ないから二度とするな」
「はい…」
子供の頃、あの男達にとって私は邪魔な存在。あの女にとっては空気だろう。たまに、人形や鏡に話しかけるように喋ってくるが私は返事しないから、本当に独り言のよう。
あの頃は周りの大人が疎ましかった。関わりを持たないように、息を潜めて目立たないようにしていた。
あの中に、一人ぐらいは私を気にしてくれる人が居たのかな。
……居るわけ無い。
「おい、向こう岸に渡るぞ。俺が先に行くから待ってろ」
マティスさんは板を架けると両脇に杭を2本打ち込み、角材を1本手に待って川底を突き、体重を掛け、様子を確認しながら向こう岸に渡り、向こうでも板の両脇に杭を2本打ち込んだ。
「よしっ! ゆっくり渡ってこい」
私が渡り着くと何も言わず滝の側で測量を始めた。
「やはり、此処が一番良いな。おう! 此処で構わないか」
「はい、専門家に任せます」
「なら、正確な寸法を測るから、その間に気になるって言う地面を見てこいや」
マティスさんから離れ、土が盛られた場所に来た。
私が親と良好な関係では無いと気付いただろうか。
気を遣ってくれたのかな。
私は地面にしゃがむと盛り上がった土に手を置き一人で泣いた。
今思い返しても、嫌な目付きだと思う。憎しみさえ感じた事も二度三度では無い。
自分が愛する女は他の男の妻だった。
他の男と愛し合い、子供をなした。
彼等にとって私は『あの女の汚点』であり『男達の現実』なのだから。
今、初めて悲しいと思う。私って何……
勝手に生んだクセに。
金蔓を引き留める為に生んだクセに。
愛なんか無かったクセに。
私は生まれて来たかった訳では無い。あんたが、あんた達が勝手に生んだんだ。
嫌いだ。 嫌いだ。 嫌いだ。大っ嫌いだ。
あんな奴ら要らない。私は一人で良い。
私は立ち上がり窪地に入ると、目に付いた石を拾い山に向かって投げた。
投げて投げて、投げまくった。
息が切れるくらい、全力で投げた。
お陰で私の中でモヤモヤしていたものがスッキリした。ついでに肩の筋肉痛も治った。
「気は晴れたか」
いつの間に来たのか側にマティスさんが居た。
大きな手で頭をグリグリと撫でてくれるが
「いっぅ… 痛い、痛い、触らないで下さい」
「おお、でっけー瘤が出来たな。ホレ、是で冷やして置け」
頭に濡らした布を置いてくれた。ヒンヤリとした温度が心地良い。
「誰のせいですか!」
「お前の所為だろ。無茶しない様に板は持って帰るからな」
「あれは私の物ですよ!」
「売ってねー まだ俺のだ」
「なら買います」
「ダメだ売らねえ。他の奴らにも言って置くからな、諦めろ。…ちゃんとした橋を作ってやるから待ってろ」
「……なら、此処にも鶏小屋を作って下さい。飼うのは合鴨です。二羽飼えればいいので」
「何でそうなるよ…」
呆れながらも了承して貰い、橋・鶏小屋・水車小屋・合鴨小屋の順で作って貰う事にした。
着工は2週間後からだ、楽しみだな。




