初体験
今回は一部、暴力表現があります。
翌朝起きてみると、肩から二の腕が筋肉痛になっていて辛い。
昨日はマティスさんに貰った切り株の中をくり抜いたり、野草を摘みに行ったり。最近使っていない筋肉を使ったからな。
切り株堅かったぁ―
ノミだけで開けられないので中心部分に油を塗り、少しずつ燃やして削っていった。
貰った切り株は直径70㎝位で、深さも50㎝ほど掘れた。貰った廃材で枠を造り、その際金物は使いたく無かったから、慎重に溝を掘って組み合わせて作った。なかなか良い出来だと思う。後で設置場所を探そう。
野草摘みは収穫が大きかった、摘んだオオバコの葉をタマネギ、ベーコンと一緒に炒め、アカザは茹でて潰したジャガイモと一緒にキッシュにした。他の草花は軽く洗いザルに上げて今朝のスープや、付け合わせにベーコンと一緒にバターで炒めた。
とても満足です。
今日は何をしようかしら。裏山探索?切り株も設置場所探さないといけ無いし。
川から近くて運びやすく普段は人が近づかない所。川の向こう側が良いかしら…
そんな事を考えながら裏山を見ていた。
カラン・カラン・カラン
入り口を見れば、マティスさんが更にベルを振ろうとしていたので、慌てて返事を返した。
「お早うございます!」
「よう、起きていたか。 ん? 出掛けるとこか、出直してくるが」
私の何を見て判断したのかな?
ウサギのファーが縁取りされたベージュのケープコートに、ペチコートで膨らんだブラウンのロングスカート。上だけ見てお出かけに見えたのかしら?
足下を見て下さいな、いくら何でもサボでは出掛け無いわ。例えフエルトと中敷きがファーでも踵部分の布が無いもの。コートは手近に出ていただけ、この下はダウンのチャンチャンコを着ています。
「待って下さい! 急ぎでは無いので構いませんよ。それより、注文した物に何か不都合でも有りましたか?」
「なぁに、設置場所の確認と水源との距離を測りに来た。ついでに板持ってきたぞ。時間は取らせんよ。で、何処に造るんだ」
「あの場所に造ろうと思っています。東側を正面にして」
マティスさんを馬小屋の対面に有る井戸の脇を指さして案内する。予定地の前に木があるから、夏は木陰になるだろう。
側に落ちていた小枝で、地面に線を書きながら
「此処に、この位で、正面は観音開きでお願いします。下50㎝は腰板作りで、左の壁は下の所に1羽が通れるように入り口を付けて下さい。高さは私が立てるくらい、170cm位でお願いします」
「デカ過ぎないか? 10羽でも飼えるぞ。それに高さはそんなに要らんだろう」
マティスさんに、にやにやと笑われた。
くそぉー まだ、伸びるかもしれないでしょ!
一般的な作りを聞いてみると、地球の養鶏場のように箱形をイメージしていたみたい。確かに昨日は、水車小屋と付属の樽の説明しかしてなかったな。私の中ではこの世界の養鶏農家って、納屋の中で飼って、昼間は外で放し飼い的な牧歌的なイメージを持っていた。
まさかの近代飼育ですか…
「出来るだけ自由に運動させてあげたいんです。巣箱は床から1m位の高さでお願いします。止まり木やはしごなんかも作ってあげて下さい」
小屋の中に鶏が乗ったり食べたり出来る植物を置きたい。健康な鳥からは、健康な卵が生まれるはずだ。
栄養面も考えよう。元々人に飼われる以前は、野山に生息していたのだから、草以外に虫や木の実も食べていたはずだ。
寒さにも強いだろう。むしろ暑さに弱いかもしれない。荷物の中に、鶏の資料無かったかな? 探さなきゃ。
「効率よく生ませるなら、箱の中で飼った方が楽なんだがなぁー まあ、人それぞれだし。大きさは是だな、寸法測るからちょっと待て、その後、水車に行くぞ」
「細かい寸法はマティスさんにお任せします。鶏のお家と思って作って下さい」
「良いのか? 水車小屋も有るんだぞ。もっとも、閣下が出してくれるだろうがな」
「いいえ、請求は私にして下さい。バルデュール様は関係ないのです。是は私が欲しくて個人的に頼む物ですから。資金は以前の渡り人が残して下さった中から支払います。勿論、自分で稼げるようになったら戻します」
「なんで戻すよ。血は繋がって無くても同じ世界からの渡り人だろ、身内みたいなもんだ。なら、遺産と思えば良い」
「だからですよ、私ね」
この世界で目が覚めて自分が何処に居るのか、何故こう為ったのか分からず途方に暮れた。でも、以前の渡り人がこの世界のこと、この領地のこと、是から如何為るのか、如何すれば良いのかを日記に残していてくれたから落ち着けたの。そうで無かったら、持てる荷物だけ持って、山に籠もっていたかも。だって、この神域が、何なのかも分からなかったんだもの。日記なしに、家捜ししてお金を見つけても使えなかったわ。
「私も後人の為にお金を減らさない様にしないと。もしかしたら、その頃は物価が上がって足りないかもしれないでしょ。まして、私達渡り人が貰うお金は、領民の税金の一部が使われるのだから無駄には出来ないわ」
この世界に飛ばされてから、バル様が訪ねてくるまでの話をマティスさんにした。
マティスさんは『 そうか 』と言って、大きな手で頭をなでてくれたけど、私は子供じゃ無いんですが…
でもうれしかった。節くれた、堅くゴツゴツとした掌だけど、とても温かい。
「しかし可笑しな物をよく考えるな」
「可笑しいですか? 放し飼いは楽ですけど、何でもかんでも 啄むのは勘弁して欲しいし、山に脱走されるのも困ります」
可笑しな物とは鶏を畑に連れて行くゲージである。この世界、金網は無いが針金自体は有るとの事なので、木枠にハサミ込む方法で、扉と籠と柵の金網もどきを作って貰う事にした。
「鶏小屋は是で良い、次は水車小屋だ。予定地は何処だ」
「はい、此方です。裏に滝が有りまして、そこを予定してますがどうでしょう」
裏の滝壺にマティスさんを案内した。
高さはだいたい5~7m位、2階の屋根より少し高いかしら?
所々、岩が突き出て水筋を複雑に作っていた。
「マティスさん、専門家の目で何処が良いですか」
「……水の取り込みとしては向こう岸が良いか…… しかし橋が無いな」
「あっ! 板持ってきて頂いたんですよね。この岩と向こうの岩を繋ぐように架けて下さい」
「あの板を使うのか。持ってこよう」
計算道理だ。長さ、強度共に申し分ない。
「ふふふ、私の目に間違いは無かった」
「あぁ?… おい!嬢ちゃんよ… この為に板が欲しかったのか?」
「はい! あそこの土が気になっ「バカやろぉ!」」
「ひっ!」
耳を押さえてしゃがみ込んだ私の腕を、マティスさんは容赦なく掴み引き釣り立たせ、もう片方の手で顎を掴まれ、正面から睨み付けてきた。
「何を考えているんだ! お前はバカか! ああ、バカなんだろうな、一歩間違えれば川に転落、春と言ってもまだ薄氷が張るぐらい寒いんだぞ! 心臓が止まったら如何する! 此処は誰でも勝手に入ることは出来ねーんだ。助けなんか来ねぇ、死ぬぞ!」
「ぐっ!…」
終いには頭を叩かれた。
生まれて初めて怒鳴られた。
生まれて初めて殴られた。
生まれて初めて叱られた。
罵声じゃ無い。
暴力では無い。
憂さ晴らしでも無い。
その瞬間、頭の中が真っ白になって、マティスさんの真っ赤な顔を呆然と。唯々、呆然と見ている事しか出来なかった。怖いとか、痛いとか、そんな感情は湧いてこ無い。
身体が熱い。一瞬にしてお湯が沸きそうなほどの熱を発した。脳の奥から痺れが起き、其れは身体全体に広がっていく。
涙があふれる……
エロではありませんでした。
それと、麻奈はMではありません。母親の男友達による叩く蹴るは暴力ですが、マティスさんの行為は愛情と認識居ました。
麻奈と両親は親子では無く意思の通じない他人同士なので、この様な愛情表現が存在しなかったのです。
「叩く」行為は賛否両論ありますが、私は有りだと思います。
勿論、青あざ・流血は暴力です。




