異世界の客人 カリーネ
「カリーネ! カリーネは何処に居ますか! 急ぎです返事をしなさい!!」
家令のロイク様が呼んでいます。如何した事でしょう、どんな時も落ち着いて、慌てると言った事が無いお方ですのに。
急いで駆け寄ります。
「ロイク様! 御前に!」
「カリーネ、貴女は馬で早駆けは出来ますか?」
「早駆け? 必要なら立ち乗りも出来ますが・・・」
ロイク様は息も荒く首を振り
「そのような事は必要ありません。急いで着替えなさい。いや! その下に下穿きを履いて直ぐに馬房に行きなさい」
そう言うと又ロイク様は走って行かれたが、その先は台所ですよ? 家令様がお出でになるような所ではございませんが。
「どうしたの?」
「解らないわ。兎に角着替えてくるわ」
馬房の前に行くと、二頭の馬が引き出されていて、その内の一頭はエルネスト様の馬だった。
ロイク様は籠の底を、私の腰に当て紐で縛り付け
「鞄の中にパンや果物が入れて有ります。あちらに着いたら籠にしまいなさい。其れとこの肩掛けにはワインとジュースが入っています、割らぬように注意しなさい」
「はい? 「準備は出来ているか! カリーネ、その肩掛けは私が持とう」」
如何やらエルネスト様の御供の様です。でもなぜ私なのでしょう。護衛騎士の方がいいのでは?
「行くぞ、付いてこい」
「はい!」
質問する暇もない様です。馬術に優れた方に付いて行くのは至難の業で、気を抜けば落馬してしまいます。
必死に走って、軍用路から一般路。森に入ると直ぐに右に曲がりました。
えっ!?
なぜ??・・・
開ける一歩手前で馬から降りると、エルネスト様はご自分の身なりを確認しています。
私も同じように、スカートの皺や裾の乱れを直しました。
「カリーネ、籠の用意を」
まさか・・・ いらっしゃるのですか・・・・
準備が出来ると、右側に置かれた台に、手で振る鐘が置かれています。
初め小さく一回。一拍置いて二回振るのを一歩後ろで見ていました。
「突然の訪問を・・・・・」
会えるのですね、異世界からの客人に。
私の祖母は若い頃、まだ母が幼い頃に御出でになった異世界の方と、家ぐるみで親しくお付き合いが有ったと聞いています。
その方はとても穏やかでのんびりとした方だったそうで、今私達が使っているストーブはその方が作り方を教えてくれたそうです。
欲の無い方で、知っている知識は何でも教えてくれたと言います。ただ1つの物以外は・・・
子供の頃「それは何?」と祖母に聞けば、「台所の包丁だけは教えてくれ無かったね」と言いました。形を真似てみても、切れ味が全然違うのだそうです。
今お越しの方はどの様な方でしょう。
あっ扉が開きました。
「エルネスト様!・・・・」
何という事、まだあどけない少女では無いですか。
「カリーネ、怖がらせない様に、あの子が落ち着くまでじっとしていよう」
何と御いたわしい。知らぬ世界にたった一人で来てしまうなんて、不安なのでしょうね、中々出て来てはくれません。
どれ程待ったでしょうか。ゆっくりと扉を出て、此方に近づいて来ます。
まあ! 少女だと思っていたのですが、下穿きを履いています、男の子だった様です。
私達から少し離れた位置で止まり、首を少し傾げて私を見る姿は、もぉぉ――とても可愛いのです。
ふっくらとしたピンク色の頬がとても柔らかそうです。男の子でも良いのでドレスを着せたいです。
やりました、女の子でした。ではなぜ下穿きを履いていたのでしょうか?
エルネスト様と家に招かれ、お話を聞いています。屋敷にお迎えすれば私は麻奈様の専属侍女と成るはずですから経緯を理解し、麻奈様の愁いを取り除かねばならないのです。でも、聞けば聞くほどお可哀そうでなりません。
聴いていれば突然娘が居なくなったというのに、麻奈様のご両親は心配処か、気付かない可能性も有るとの事。そんな親が居るのでしょうか。其れともやせ我慢なのでしょうか。
違いますね。麻奈様は、国というもの、生活の基盤を知っている方です。此れまでもご自分で無さっていたからこそなのでしょう。
此れからは私が麻奈様を支えてみせます。
エルネスト様が職人の手配のため町に戻りました。私はこの家を住み良くすると共に心和ませる内装にしなくては。
「改めまして、私カリーネと申します。麻奈様、部屋を見て回っても宜しいでしょうか」
私は麻奈様に似あいの可愛らしい部屋にしたいと思っておりますのに、当の本人は、
「ストーブの問題さえ解決すれば、後は食料だけなので急がなくても良いと思うのですが」
まぁー なんて謙虚なの! 衣・食・住・すべて国が保証するというのに、なぜ遠慮するのかしら。でも駄目よ、冬はまだ続くのだもの。
「いけませんわ。まずこの家全体に絨毯が必要ですわ。家具なども足りませんし、装飾類も全くない状態です。この壁に大きな鏡を飾りましょう。こちらには絵を数点飾って、鍋や食器も全然足りません」
ざっと必要な物を上げていくと、麻奈様の眉間に皺がよっていらっしゃいました。なぜでしょう。
「絨毯は部分的な物で良いです。二階に等身大の鏡は欲しいですが、一階にはいりません。壁の飾りも要りません。鍋は追々買い足しますが、食器は使い慣れた物が有ります」
何も要らないなんて、そんな事は出来ません、食事だって暖かい物を召し上がって欲しいですし。お客様がいらした時に揃いの食器が無ければ恥をかかせてしまいます。
その必要性を進言いたしましたら、自分は平民で、料理も掃除も自分でするというのです。
召使を此処に置かないと・・・・
終いには、知り合いは居ないから、招く客も居ないと・・・・
私は涙をこらえるのに必死です。
こんなにお小さいのに、自分の事は自分ですると。なんてご立派な方なのでしょう。
普通なら、人に甘えても良いのに。ええ、異世界に来たのだもの、知らないのが普通で、甘えたって誰も責めたりはしないのに。
私が甘えた人間だから、こんな事を思ってしまったのね。この方は神が招き入れた方だもの、全てを人に委ねるなんてしないのだわ。私は必要とされた時に必要な物を差し出せる人間に成らなければ・・・
私は、麻奈様の信頼を勝ち取るべく精進いたします。
ちなみに麻奈様が私を「カリーネ様」と敬称付けているのを聞き、エルネスト様に説明頂いたのですが、麻奈様が嫌がり「さん」付けで落ち着きました。
都合よく、誤解してくれるカリーネさんです。彼女は可愛い物が好きなので麻奈と仲良く出来ると思います。




