異世界の客人 エルネスト -2
幼いというのに何としっかりとしている事か。まず、姿勢が良い。
「ご丁寧に有難うございます。私は麻奈・藤倉と申します。何の御縁かは判りかねますが、この世界に参りました異世界の者でございます。不調法者では有りますが、ご迷惑を掛けない様に致しますので、此処に住まう事をお許し下さいますようお願いします」
何と正直な子供なんだ。この寒空に耐えられず、中に入ったとしても誰が叱ろうか。此処は客人の住まう場所。扉が開いたのならば君の家で良いのだよ。
気になどしなくて良いのだ。
私の表情がよほど憐れんでいた様で、麻奈が慌てて笑顔を向けお茶に誘ってくれた。
少しでもこの子の警戒心が解ければ良いと、私は腰に差した剣をベルトごと外し、馬の鞍に掛けた。
馬が怖くないかと問えば、好きだというし乗れるようにも成りたいという。なら私が教えてあげよう。
麻奈は働き者なのか、今まで部屋を掃除していたという。
お腹を空かせて居るだろうと食材を入れた籠を渡すと嬉しそうに礼を述べ、奥へと持って下がった。
「室内が寒いな。やはり連れて帰ろう。この様に箱(の様な物)や袋(の様な物)だらけの部屋には置いて行けない。カリーネ、彼女に使えて何事にも不足が無いように整えてくれ」
「お任せ下さい、全力でお支えします」
麻奈が四角い箱を持って戻ってきた。その箱をテーブルに置き中から色々と取りだす。
小さな指が丸い筒の下を押すと、カチッという音がした。其れはカップなどを並べているうちに、ボコボコという音に変わる。
この艶やかな白い食器もそうだがこの食べ物も不思議だ。また、粗茶だというが爽やかな香りと程良い酸味が美味いと思う。
麻奈は不思議な物を色々持っている様だ。
「藤倉殿、質問しても良いだろうか」
子供に対してこの呼びかけも無いとは思うが、異世界人は賓客なのだ、帝王への挨拶が終われば侯爵位が授けられる。
「いつから此処にいたのか」
単純な問いだ。しかし答えは単純では無かった。
夜も明けきらぬ時間にこの世界に来たが、生態系や言語、理が判らず動けずにいた。森に隠れる事も考え、荷物の隠し場所なども思案していたそうだ。
なんだその落ち着きは。慌てるなり、泣き崩れるなりするのが子供だと思うが。
段々と頭が痛い。其れでも質問を繰り返していると、彼女の両親の事に触れた。
「言い難いのですが・・・ あなたを元の世界に返す術が無いのです。ご両親には、もう・・・」
今度こそ泣くか?
「しってます。良いです、待ってる人いませんから。両親も私を探したりはしませんし」
麻奈は笑って、「落ち込んでも何も変わらない」・「思考停止は無駄」だと云ってパンを口に頬張った。此れ以上話したくないという様に。
我慢をしているのが涙ぐましい。
子供なのに、税金や暮らし向きを気にし、国で保護をすると言うと、ホッとした顔をする。だが直ぐに気を引き締めた様で何かを考えている様だ。
大人に甘える事を知らず一人で懸命に生きてきたのだろう。
二度と寂しい思いはさせたく無く、屋敷に来てほしいと言ったが、即断られてしまった。他人が怖いのだろう。なら、少しでも快適に過ごしてほしい。
麻奈の甘えは実に控えめだ。頼まれなくとも全て整えよう。
「カリーネ、私は町に行ってくる」
帝王の許可が降りたら、麻奈を養女に迎えられるようにお願いしよう。
次は、カリーネさんです。ぜひとも麻奈と仲良くなって欲しい。
麻奈にカリーねーさんと呼ばせたい。




