20話 留学
隣国へ来て早々、私の留学期間は緊張の連続で。想像以上に厳しい二年間になりそうだと予感がした。
私の保護者となる王弟殿下は、とても思慮深く物静かな男性だけど。伯母様(妃殿下)は、王弟殿下の二倍はパワフルで豪快な女性だった。
『甥の婚約者なら私の姪だわ』
……と初対面の時に私が妃殿下と呼ぶと、怒られたので。伯母様と呼ばせてもらうことになった。
「イザークのお嫁さんになるのなら、王族と関わる経験をたくさん積まないと。アンリエッタはきっと苦労するわ」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。……でも大丈夫よ、私が鍛えてあげるから」
「鍛える……?」
隣国で私が通っている学園が休日になるたびに。伯母様は私を自分の公務に同行させた。
そのうえ、元王女殿下の侍女だったお母様仕込みの礼儀作法が、私にもしっかりと身に付いていると知ると。
──なんと伯母様は……
「あなたと年の近い、第三王女殿下のお話し相手になってあげて。王子殿下とは違い、あの子は王宮を出ることが出来ないから。気を許せる友だちがいないのよ」
つまり第三王女殿下は私のように、学園に通うことさえ許されないのだ。
「わかりました。私もこちらに来たばかりで友人が一人もいないので、嬉しいです」
「そう、良かったわ。すごく良い娘だから、あなたも気に入るわ。仲良くしてあげてね、アンリエッタ」
そう言って明るく笑うと、伯母様は私にハグをして頬にキスをする。私も伯母様につられて、傍にいるといつも自然と笑みがこぼれる。
「はい、伯母様!」
「ふふふっ……もちろん、アンリエッタも良い娘よ。イザークが欲しがるだけはあるわね」
「/////////……あ、ありがとうございます」
伯母様は王族の中でもとても気さくな方で、私をよく抱きしめてくれる。そんな姿を不作法だと陰口をたたく貴族たちがたまにいるけれど。
異国の地に来て寂しいだろうと、本当の娘のように接してくれる伯母様は、厳しいけれど根は心の温かい人なのだ。
私は王女殿下に会うために、伯母様の指示で王宮の出入りを許されたが。
王族同士の権力争いを間近で目撃することとなり。何度もヒヤリとするような経験までした。
「お……伯母様。今日は本当に生きた心地がしませんでしたわ」
「あら、今日は何があったの?」
晩餐の席で昼間あったことを報告すると。伯母様にカラカラと笑われた。
「それが……王妃様と側妃様から、お二人同時にお茶に招待されてしまいまして」
「まぁ!」
王妃様と側妃様はすごく仲が悪い。二人とも同じ年頃の王子殿下を産んでいるから。今は王太子の座を実家ぐるみで争っているのだ。
(本当にあの時は頭が真っ白になって……パニックを起こさなかっただけでも、自分を褒めてやりたいわ)
「それで私……どちらの招待を受ければ良いかわからなくて」
「ああ、あの二人ね。私に媚びを売りたい人たちだけど。私が相手にしないから……今度はあなたを取り込んで、私を攻略しようという訳ね」
伯母様の公務に付いて回って分かったことだけど。
王宮をほとんど出ない王妃様や側妃様よりも。地方の仕事でも嫌がらずに行く伯母様(王弟妃殿下)は、貴族…平民…と身分に関係無く人気がある。
二人の王子殿下の王太子争いで、どちらの陣営も伯母様の人気にあやかろうとしているのだ。
晩餐の席には王弟殿下と招待されたイザークもいて。伯母様と私の会話を殿方二人は、穏やかに微笑みながら聞いていた。
コレも私にとっては貴重な学びの場だから。イザークは一切、口出しをしないのだ。
夫妻の御子様は、すでに二人とも成人していて。近隣の国へ嫁いでいる。
「それでアンリエッタ、妃たちにはどう答えたの?」
「今日は伯母様との約束があるからと……お断りしましたが」
「それで良いわ。どう? 王族って怖いでしょう。でもアンリエッタも公爵夫人になれば、こういう経験をするようになるのよ」
「はい、伯母様。頑張ります」
私の顔を見て伯母様は満足そうにうなずいた。
伯母様の教えかたは、とても厳しく乱暴に見えるが。短期間で学ばなけれがいけない私には、とても有効なのだ。
「イザークからもそんな話を聞きました。本当に想像以上でした」
(帰国すればイザークは王太子殿下の側近になる。そうなれば私も、自然と王族と関わることになるから。これは必要な経験なのだわ)
向かい側に座るイザークと目が合い、ニコリと微笑まれる。
『よく頑張ったね』と労われているとわかり、私も微笑み返す。
イザークが一緒に付いて来てくれて、本当に良かった。おかげで私は、この試練に挫折しないで踏みとどまっていられる。
微笑み合う私たちを見て、伯母様と王弟殿下もニコリと笑う。
「度胸と判断力を身につけるための訓練だと思いなさい。素質はじゅうぶんあるから、あなたなら必ず出来るわ。アンリエッタ」
「はい。伯母様」
「ふふっ…… 良い娘ね。何かあっても大丈夫よ。私と王弟殿下がしっかり守ってあげるから」
「はい」
―――2年後。
王弟殿下と、伯母様。お友だちとなった第三王女殿下。そして有意義な経験をさせてくれた王家に、敬意と親愛をあらわし。
私は成人の儀式を母国ではなく、隣国で受けることにした。
母国で暮らしていたら、絶対に出来なかった経験をたくさんして、私は自分に誇りを持てるようになった。
次が最終話になります。
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