2話 婚約者の告白2
他に好きな人がいると言う婚約者に、私はイライラと説得をした。
「エミール様。そんなにその女性が好きなら、その人と結婚できるように、ご両親を説得するべきだと思います」
「いや、説得はしない。とにかく僕はその女性が好きだから……それで君はどう思う?」
「は⁉ どう思うとは?」
「君も……その……僕の恋を応援してくれるかと思ってね? だって君は僕の婚約者だから」
「……婚約者だから? エミール様、あなたは私が婚約者だから、自分の浮気の応援をしろと。そう言っているの? 本気で私に応援されたいのですか⁉ 相手に気持ちを伝える気が無いと言っていたのに?」
(考えただけでもゾッとする。なんて汚らわしい人なの⁉)
私はハンカチを出して口を押えた。そうでもしていないと、吐き気を抑えられそうにない
「何を言っているんだ、アンリエッタ! 浮気はしていない。『好きな女性がいる』と言っただけだ。間違えるな!」
「私には同じ意味です」
「だからコレは浮気とは違うよ。実際に相手の女性と付き合う気はないから。君は騒ぎ過ぎだ」
「そうは思いません」
(こんなに頭がオカシイ人だとは思わなかった)
寡黙で不器用な可愛い人だと、喜んでいた自分が恨めしい。こんなに頭がオカシイ人だと、今までずっと一緒にいて、私はなぜ見抜けなかったのだろうか。
「君だって、そういう相手がいるだろう? 君の幼馴染みのイザーク卿とか!」
「イザークお兄様とは、昔から母親同士が仲が良いから、私たちも同じように仲良しだと……何度もお話ししたでしょう?」
(イザークお兄様は五歳も年上だし、兄妹のような関係だわ)
幼い頃から知っていて、ずっと身近の存在で。……だから昔から、お互い恋愛対象として見ていない。
「僕だって、出来れば婚約者の君だけを、好きでいられたら良かったけどね。 君にはイザーク卿がいると思うと、僕ばかり不公平だと思うんだ」
「不公平ですって⁉ 私はイザークお兄様を実の兄のような人だと、言っているでしょう? そんな言い訳はやめて」
(それにイザークお兄様は王家の血をひく、バラスター公爵家の後継者で。フェアウェル子爵家にくらべて、家の格がはるかに上だから。そんな相手に嫁ぐなんて、私には無理)
「兄妹だって……? 僕には君とイザーク卿は、恋人同士に見えるけどね」
「イザークお兄様には、ロスモア伯爵令嬢のレティシア様という、立派な婚約者がいるのを忘れたの?」
私よりも二歳年上の伯爵令嬢は、同じ学園に在学している。地味で平凡な私とは違い、すごく綺麗な人だから。イザークお兄様にピッタリの女性だ。
「そんなの関係無いさ!」
「関係あるでしょ? だってイザークお兄様は、婚約者が学園を卒業したら結婚する予定だもの」
小さな子供みたいに、エミール様はフンッ! と鼻を鳴らしそっぽを向く。
「私がイザークお兄様と浮気しているから、自分も浮気をする? エミール様は、そんなに私のことが信じられないの?」
「君が僕を誤魔化そうとするから、ダメなんだよ!」
怒りが沸騰し、私の頭の中でブチッ! と、何かが切れた。
「もう、うんざり! 本当に……イザークお兄様が、私の婚約者なら良かったのに!」
「……っ⁉」
エミール様がハッ… と息をのむ。
「アナタの言う通り、私はイザークお兄様が大好きよ! アナタと違って誠実で優しい人だから!」
こんな言いかたをすれば、誤解されるとわかっているけど。一番、エミール様を傷つける言葉で、言い返したかった。
「やっぱり君たちは、そうだったのか⁉」
「いいえ、違うわ! でもイザークお兄様なら、私をこんなに傷つけたりしない」
クルリッと背を向け、エミール様を一度も振り返らず、私はその場を去った。




