18話 奇妙なウワサ
学園を早々に退学した私は、隣国への 留学準備のために忙しい日々を送っていた。
──そんな時に学園から帰宅した弟のリシャールが、私の元婚約者のエミール様とイザークの元婚約者レティシア嬢が、婚約したと教えてくれた。
当然、私は弟の冗談だと鼻で笑って最初は信じなかった。
「あの二人が婚約ですって⁉ ……悪い冗談はやめて、リシャール」
「冗談ではありませんよ、姉上。最初は僕もそう思って、エミール卿の従弟にたずねてみたら。本当に二人は婚約したと言っていました」
「……まぁ。そんなことが本当にあるのかしら?」
「僕も信じられません。でも本当なんです」
「変な組み合わせね?」
(きっと偶然ではないわね。何か特別な事情がありそうだわ)
事情を知りたくて弟の話を注意深く聞いた。
「そうなのです、姉上。それに二人はすごく格差がありますよね?」
「……ええ」
弟のいう通り……エミール様のアップトン男爵家は、二代前の当主がお金で爵位付きの土地を購入して、貴族の仲間入りをした成り上がりの新興貴族。
……それに対するレティシア嬢のロスモア伯爵家は、三百年以上の長い歴史を持つ名門中の名門貴族。
アップトン男爵家のような新興貴族は、何かにつけて軽く見られがちだ。
だから最初は平凡だけどそこそこ歴史のある、フェアウェル子爵家との縁組で、アップトン男爵家は地道に家格を上げようとしていた。
(問題だらけの組み合わせだわ。……すごく気になる)
「私とイザークぐらいの格差があるわね。……いいえ、それ以上かしら?」
幼馴染で親同士が仲が良いとはいえ。平凡な家柄の私がイザークと婚約したことの方が、貴族の常識から言えば異例なのだ。
そこでイザークは誰にも私の文句を言わせないようにと、私個人の価値を上げるため。隣国の王弟殿下夫妻の元で行儀見習いをさせて、私に箔を付けようとしている。
「実は姉上、それだけでは無いのです」
「んん? 今度は何なの、リシャール」
「ふふふっ……エミール卿とレティシア嬢に関する、奇妙な噂が流れていて……」
「奇妙なウワサ?」
私の好奇心に火をつけたリシャールは、瞳をキラキラと輝かせながら、焦らすように話す。
「はい。それが……二人は姉上と婚約していた頃から愛しあっていて。学園で密会を繰り返していたという話です」
好奇心よりも先に、思わず考え込んでしまった。
「二人が愛しあっているとは、とても思えないけど。でも、私を騙してイザークとの関係を、聞きだそうとしていた時は……確かに二人は密会していたはずだわ。それを誰かに見られたのかしら?」
「なるほど! そうかもしれませんね。それで『自分たちが結婚するために、エミール卿は姉上との婚約破棄を企てた』という噂に発展したのかも?」
リシャールも好奇心丸出しで、ウキウキとしている。さすがは私の弟というだけはあると苦笑する。
「あらあら! 陰謀説まで出ているの⁉」
(それにしても。いったい、何が起きているのかしら? 婚約破棄された二人の元婚約者が婚約し直したなんて。まったく見当がつかないわ)
噂の真相が知りたくて、活発に社交活動をするお母様にたずねてみると…
「それならイザーク卿に聞きなさい」
「イザークに……ですか?」
(なぜ、ここでイザークの名前がてくるの?)
「ええ。その話は彼の方が、良く知っているから」
「どうして?」
(良く知っている? ……なぜ⁉)
「いいから、イザーク卿に聞きなさい」
なぜかお母様はニヤリと、意地悪そうな笑を浮かべる。
「……っ」
(見るからに怪しい! お母様は何を知っているの⁉)
お母様は確実に何かを知っていそうなのに。私にはこれ以上、何も話す気が無いらしい。




