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婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした  作者: みみぢあん


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17/21

17話 キス


 新しい婚約者となったイザークの本心を知り、おかしな笑いがフツフツと私の中に込み上げて来た。


「……ふふっ」


「アンリエッタ……?」

 クスクスと笑う私を、イザークは不安そうに見つめる。


「エミール様に唇を捧げなくて良かったと……そう思ったの」

(恥ずかしがり屋のエミール様は手をつなぐ時でさえ、彼は顔を赤くするだけで。私から強引に彼の手を掴まなければ、つないでもらえなかったのに。信じられないわ!)


 私が好きなら、唇にキスして欲しいと願っていたけれど。……エミール様は婚約して七年間、求める私の期待を裏切り続けた。


 いくらエミール様が恥ずかしがり屋で奥手でも。求愛行為のすべてを私からするのは嫌だった。

 私だって恥ずかしいし。何より殿方からのアプローチの方がロマンチックだから。


 ──そんな不満をこれからは、婚約者に持つことも無いのだ。

 イザークはこんなところまで完璧な男性だった。……だから私はついつい笑ってしまう。

「ふふっ……」


「つまり私は、君に初めてキスをした男なのか⁉ 私はなんて幸運な男なんだ!」


「ええ、そうよ。あなたは婚約して一時間もたたないのに、私の唇を奪ったわ。信じられないぐらい早かった。」

(さすが、気が利くお兄……いえ、イザークだわ)


 エミール様には絶対に言えなかった本音も、幼馴染みの気安さからイザークが相手だと簡単に言える。


 ハァ──ッ……とため息が出た。落胆のため息ではなく、安堵のため息だ。


 何かがストンッと腑に落ち、これが私の運命だったのかと妙に納得する。このまま無駄な抵抗はしないで、流れに身を任せてみるのも良いのかも知れないと。


「君に拒まれたら、どうしようかと。ハラハラ、ドキドキしていたのに」


 不安そうに曇っていたイザークの顔が、パッと輝きを取り戻す。嬉しそうに笑うと、もう一度私の唇にキスをした。


「……あなたを、私が嫌がることはないわ。……だって、私の初恋はあなただから」

 エミール様と婚約する前はイザークが好きだった。幼い頃の恋だから、すぐに消えてしまったけれど。


 恋心を失っても、誰でも初恋は特別な記憶として残る。私の中にもとびきり良い思い出として刻まれていた。


「うん」

 イザークも昔の記憶を思い出しているのか、笑みが深まった。 


「公爵夫人になるのは怖いし。私自身が完璧なイザークにつり合わない、平凡な人間なのが嫌なの」

「私には……君が特別に見えるけどね」


「私が幼馴染みだからよ。でもお兄……イザークにいつまでも、甘えていられないわ」


 私はとても単純な性格だから。

 こんなに全力で愛されているとわかったら、『イザークのために、いっぱい頑張ろう』とやる気が出て来た。


「アンリエッタ。私は君に甘えられたい」


「ふふっ……公爵夫人に相応しい教養を二年間の留学でしっかり身に付くよう、努力すると誓うわ。でも、私がいない間に浮気したら殺すから!」


(後戻りはできないし、私を愛してくれるイザークに恥をかかせたくない。私の努力次第で、この結婚は上手く行く。……そう思えば頑張れる気がするわ)


「はははっ……その話だけど。私も隣国へついて行くよ」

 カラカラと笑うと、イザークはさらりと言った。


「え?」

「大使の補佐官の職につき、我が国の外交官として隣国の大使館で働くことになった。ずっと一緒ではないけれど、君の傍にいられる」


「嘘でしょう?」

「この私が、君を一人で外国へ行かせる訳がないだろう? こんな時こそ、公爵家の権力を使わないとね」


 王位継承権を放棄し。二年後、イザークが帰国したら王太子殿下の側近になることが、補佐官の職を得る条件だった。


「お、お兄様はそんなに私が好きなの⁉」

 私が呆れて、たずねると……


「イザークだ。イザーク!」

 …と言い直させられ。


 私をギュッ!と抱きしめながら、イザークはこうするのは婚約者の権利だと主張して、もう一度私の唇にキスをした。





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