16話 告白
婚約式を終えても自分がバラスター公爵夫人になることを、恐れと不安から受けとめられず。私は動揺していた。
そんな私を慰めようと、イザークお兄様は神殿の中庭に誘ってくれたのだと、思っていたけれど。
………どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ。
「アンリエッタ。私の初恋は君だった」
「……っ」
私は言葉を失い、あまりの驚きでポカンと口を開けた。
「今まで君のことを妹のように接してきたが。これからは私が愛する、ただ一人の女性として接するつもりだ」
「お……お兄様…っ…⁉」
(私がお兄様の……愛する女性???!)
「お兄様ではなく……イザークだ、アンリエッタ。私は婚約者だからイザークと呼んでほしい」
「イ……イザー……クぅぅ……?」
声から切実な思いが伝わって来て、いつもの『イザークお兄様』ではなく。 お兄様の望み通りに名前で呼ぼうとしたけれど。
急に恥かしくなり、私はもごもごと口ごもってしまう。
「アンリエッタ……」
キュッ! と握っていた私の手を放し。お兄様……いえ、イザークは私の頬を撫でて、額にキスをした。
「……ぅぅ」
今までなら何とも感じなかったことなのに。私の顔はカッ! と熱くなる。
「お願いだから、私を男として見て欲しい」
「お兄……イ…イザ……っ…⁉」
キスの距離でお兄……いえ、イザークを見つめたのは初めてだけど。
(私を見つめる瞳が、熱っぽく潤んでいるわ。イ……イザークのこんな顔は初めて見る。本当に私が好きなの? 愛しているの⁉)
「怖がらせて、ごめん。でもこれが私の本当の気持ちなんだ」
「怖くは……ないけれど。驚いたわ。すごく驚いた」
(まるで別人のようで、知らない男性と話しているみたい)
「理解してほしい。君を幸せにしたいから、私も君のただ一人の男になりたい」
「イ……イザーク……?」
「アンリエッタ。今まで言えなかった分、これからは君を愛していると、言い続けるよ」
「…愛……⁉」
イザークの唇が私の唇を撫でるように、ふわりと重なった。
唇にキスをされたのは初めてで。……心臓がドクッ! ドクッ! と、私の胸の中で暴れ出す。
長年、兄のように慕っていたイザークが、本気で私を愛しているのだとハッキリ感じた瞬間だった。
イザークの元婚約者レティシア嬢と、私の元婚約者エミール様の疑いは……ただの思い込みではなかったらしい。
『火のない所に煙は立たぬ』という外国のことわざがあるけれど。
イザークが『火』そのものだったのだ。




