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婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした  作者: みみぢあん


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15/21

15話 神殿の中庭で2


 バラスター公爵家の後継者として誕生した私が、物心が付いた頃から。

 母上は家族ぐるみで付き合いのある、フェアウェル子爵家の長女アンリエッタを、私の花嫁に欲しいと熱望していたようだが。


『当家は長い歴史がある名門という訳でもなく、至って平凡な子爵家です。遙かに格上のバラスター公爵家に嫁げば、アンリエッタは並々ならぬ苦労をするはずです。……どうかご容赦ください』


 ……と。アンリエッタの父上、フェアウェル子爵に縁談をキッパリと断わられてしまった。

 この時のフェアウェル子爵の判断は、娘の幸せを思えばこそで。私が考えても妥当なものだと言える。


 何せバラスター公爵家は王国で最も王家に近く。

 過去に王妃を何人も輩出した貴族で、私の母上は元王女だ。そのうえ私は、順位は下の方だが王位継承権まで持っている。


 フェアウェル子爵が尻込みするのも当然だった。


 私自身はアンリエッタとの婚約を断わられたことに対して、何の痛みも動揺も感じることは無かった。


 なぜなら当時、まだ幼かった私は何年も先の話になる、結婚という大イベント自体について、ほとんど考えたことが無く。……そのため、何のこだわりも持てなかったからだ。


 ──だが。 


『ふふふっ……イザークお兄様! 私の婚約者のエミール様を紹介します』

『初、初めまして! イザーク卿。ア……アップトン男爵家のエミールです!』


 エミール卿と仲良く手をつなぎ、アンリエッタが無邪気に笑う姿を見て、胸を抉られるような衝撃を受けた。


『……初めまして、エミール卿』

(婚約する前は、アンリエッタと手をつなぐのは私の役目だったのに)


 アンリエッタは一瞬でも離れるのは嫌だと、エミール卿の手をギュッと握りしめている。


『イザークお兄様、エミール様と仲良くしてあげて下さいね!』

『……ああ。わかったよアンリエッタ』


『ふふふっ……ねぇエミール様、小鳥が巣を作った木があるの! 一緒に見に行きませんか?』

『はい』


 母上と一緒にフェアウェル子爵邸を訪問した日は、いつもアンリエッタは私にベッタリとくっ付いて、腕を放してくれなかったのに。


『行きましょう、エミール様!』

『はい……アンリエッタ嬢』


 アンリエッタはクルリと私に背を向けた。

 私から興味が移ったエミールにベッタリとくっ付き、アンリエッタは私の前を歩いて行く。


 半身をむしり取られたような空虚感に襲われた。


(せっかく私が会いに来たのに。なぜアンリエッタは、私よりもエミールを優先するんだ? 寂しいしイライラする!)


『アンリエッタ……』

 名前を呼び手を伸ばしたが。エミールに夢中のアンリエッタの耳に、私の声は届かず。私の寂しさが伝わることもなかった。


 それまで私に向けられていたアンリエッタの好意まで、婚約者のエミール卿に奪われたのだと知り、強い嫉妬心が生まれた。


 幼馴染みのアンリエッタがエミール卿と婚約した時。……未熟だった私は自分の気持ちに、初めて気が付いたのだ。


 私は自分の初めての恋を知り、恋を失った。そんな私の気持ちに気づいた父上に諭される。


『彼女はお前のモノにはならないのだから。お前の好意を知られないようにしなさい』

『なぜですか、父上?』

『お前を慕うアンリエッタ嬢から笑顔を奪い、苦しめることになるからだよ』


 私は父上の教えを守った。



 学園を卒業し成人の儀を終え、社交活動を始めた頃。私にも婚約者が出来た。

 ……それを幼馴染みへの長い片思いに終止符を打つ、きっかけにしようと思った。


(アンリエッタのことを考えると、まだ少しだけ……胸が痛むが。私にも婚約者が出来たから。レティシア嬢を愛すことで、アンリエッタへの未練を断てるだろう)


 その頃になると片思いにも慣れて、アンリエッタへの気持ちも落ちつき。兄のように見守ることに、苦痛も感じなくなっていた。



『イザーク! 婚約者の私だけを見てくれなければ嫌よ!』

『レティシア嬢……』

『あなたは素敵だから、たくさんの女性が私からあなたを奪おうと近寄って来るわ。それが嫌なの』


『君の望みを叶えられるよう努力するよ』

 口ではそう言ったが、レティシアの我儘に振り回され。


 一緒に招待された夜会で、私が挨拶した相手を無礼な言葉で怒らせ、商談をぶち壊された時は……レティシアにひどく嫌気がさして、顔を見るのもうんざりした。


 元婚約者のレティシアは、私の周囲にいる女性全員に激しい敵意を向けた。お茶を運んで来た若い使用人にまでだ。


(同じ女性なのに、なぜこうもアンリエッタと違うのか? それともアンリエッタが特別なのか?)


 胸の奥に封印していた思いが……また、熱くなった。



 婚約式を行った神殿の中庭にある小さな池の前で、アンリエッタと二人で石造りの長椅子に座り話しているうちに。

 長年、胸の中に押し込めて来た切ない思いが、いっきに濁流となって溢れ出す。


「私が君の夫になるのは……そんなに嫌か?」 

「え?」


 ……もう止められない。これ以上、止めるつもりもない。

 アンリエッタの華奢な手を、自分の手のひらで包み込むように握りしめ、私は迫った。


「私は君にとって男としての魅力が、そんなに無いのか?」

「お……お兄様?」

「君はそんなにエミール卿が好きなのか?」

「……っ!」


 私が追い詰めているせいで、アンリエッタが怯えているのがわかる。


「アンリエッタ、答えてくれ!」

(それでも、今こそ本音で話し合わなければ! 私の思いはアンリエッタに届かない)


 いつまでたっても、優しい兄のままだ。


(私は兄などではなく、君の男になりたいのだ!)


 エミール卿のような失敗は決してしない。私が溜めこんで来た思いを……今ここで、すべて吐き出す。


 この世で最もアンリエッタを愛している男は私なのだと。






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