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婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした  作者: みみぢあん


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14/21

14話 神殿の中庭で


 バラスター公爵領の神殿で、三日前に決まったばかりとは思えないほど。婚約式は何の問題もなく無事に終わった。

 これもイザークお兄様が恐ろしく有能だからだろう。……と思っていたが。


 何気なく忙しそうに働く神官見習いの少年に、労いの言葉とともにおやつ代程度のお金を入れた包み紙を渡した。

 ……その時、お金で気を良くして口が軽くなった神官見習いに、恐ろしい話を聞いた。


『急に決まった婚約式なのに。こんなに素晴らしい式にして下さり、ありがとうございました』

『婚約式の依頼は、イザーク卿から一ヶ月ほど前にされていましたから』


 神官見習いの少年は不思議そうに私を見ながら答えた。


『えっ⁉』

『ああ、ご令嬢はご存知では無かったのですか?』

『はい』


『依頼を受けてすぐに準備を始めたので。お二人の祝福の日のために、私たちも心を込めて、お手伝いすることが出来て光栄でございます』


『……っ???』


 私たちの婚約は三日前に決まったばかりなのに。イザークお兄様の頭の中では、一ヶ月も前から決定事項だったらしい。


(お兄様はいったい、どこからこの計画を立てて用意周到に準備していたのかしら⁉)


 つまり私とエミール様の婚約破棄が正式に決まる前から、イザークお兄様は私たちの婚約の準備を、着々と進めていたことになる。


 さすがに驚いて、そのことをお兄様に確認してみると──



「ああ。この神殿は人気があるから。……たとえこの地の領主、バラスター公爵家でも。先に依頼した人たちを押し退けて、自分たちの都合に合わせさせるような、無茶は出来ないからね」


 確かにバラスター公爵領にある、この神殿は人気がある。恋人たちの聖地と呼ばれるパワースポットがあるからだ。


「だから……私の婚約解消が決まる前に、依頼したのですか?」

「うん、依頼を取り消すのは簡単だから。私たちの婚約式を、ねじ込むことが出来て幸運だったね」


 何だか、クラクラして来た。私は頭を押さえて目を閉じた。


「……」

(恐ろしく有能なお兄様の頭の中が理解できない。……いいえ、理解出来ているけれど。私の心が追い付かないわ)


 予期していなかった、私の将来を左右する重大なイベントが、この短期間で次々と急ピッチで進められ。


 婚約式を終えても、自分が本当に未来の公爵夫人になるが信じられず。

 未だに私は『何かの間違いではないの?』と……戸惑っている。


 そんな私にお兄様から、神殿の中庭の散歩に誘われた。



「アンリエッタ……少し話をしないか? 庭に出よう」


「……ええ」

(思い返すと。エミール様に『好きな人がいる』と言われた日以来。二人で落ち着いて話したことが無かったわね)

 


 ──この神殿の中庭には、子供の頃に何度か来たことがある。


 まるで公爵邸の庭園だと言われてもおかしくないほど美しい。

 それもそのはずで、公爵邸の庭師ガーデナーたちの手で完璧に整えられているからだ。


「久しぶりに来たけれど、綺麗ね……」

「花の季節ではないのが残念だよ」


「ここに来るのは何年ぶりかしら? とても懐かしい気持ちになるわ」

(確か……私がエミール様と婚約した頃から、足が遠のいたのだわ)


「実は私も久しぶりに来たんだ」

「あら、元婚約者のレティシア嬢とは来なかったの?」


 隣を歩くお兄様を見あげてたずねると。珍しく不機嫌そうな顔をしている。


「来ないよ」

 

(私に揶揄うつもりは無いけれど。さすがに婚約したばかりで、別れた婚約者の話題を持ち出すのはルール違反だったわ)


 反省。


「……そうなの?」

 この中庭はバラスター公爵領で暮らす恋人たちに、大人気のパワースポットだから。


 女神像が祀られている小さな池の前まで来ると、石造りの長椅子に、二人で並んで座った。


 池の真ん中に祀られている女神像に見せるように、恋人たちが愛の告白や求愛をして愛が実ると── そのカップルは幸せになれるという噂があるのだ。


 この場所は知る人ぞ知る、恋人たちの聖地として有名で。その噂は密かに近隣の貴族たちの耳にまで届いていて。

 公爵領の領民たちだけでなく、こっそりと若い貴族たちもこの神殿の中庭に訪れているらしい。


「……」

 以前、元婚約者のエミール様に、私も求愛して欲しくてこの場所の噂を教えたけれど。結局、エミール様は私の期待に気づかなかった。

 私が求愛の催促をしなかったから。エミール様はこの中庭で求愛することなんて、思いつかなかったらしい。


 ……そんなことを、ボンヤリと思い出していると。イザークお兄様も私と似たようなことを考えていたらしく。元婚約者のことを語った。


「レティシアに何度かつれて来て欲しいと、ねだられたけど。私は彼女とここに来たくなかったから……」


「お兄様はレティシア嬢のことが、そんなに嫌いだったの?」


 何気なくたずねると。その瞬間、お兄様の表情が険しくなった。


「……アンリエッタ。いいかげん君も気づいても、良い頃だと思うけど? 君のご両親はとっくに、気づいているのに。……もしかして、わかっていて言っているのか?」


 イザークお兄様は私の手をキュッと握りしめ、真剣な眼差しで私を見つめる。

 いつもの穏やかな雰囲気はどこにもない。


 私の胸の中で心臓がドクンッ!と大きく跳ねた。


「……何が?」

「私が君の夫になるのは……そんなに嫌か?」 

「え?」

「私は君にとって男としての魅力が、そんなに無いのか?」


「お……お兄様?」

 イザークお兄様が傷ついているように見えた。 


「君はそんなにエミール卿が好きなのか?」


「……っ!」

 また、私の胸の中で心臓がドクンッ!と跳ねた。





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