11話 灰色の時間
考えが甘かった。
私は社交デビュー前だから、婚約破棄をしても社交界で大きな醜聞にはならないと思っていたけれど。
……学園内では話が別だった。
「ほら見て! 彼女がフェアウェル子爵家のアンリエッタ嬢よ」
「まぁ! 例の……自分の婚約者を裏切り、ロスモア伯爵令嬢のレティシア様から、バラスター公爵家のイザーク卿を奪った悪女ね」
「あんなに平凡な娘なのに、人は見かけによらないわね……?」
お昼になり、一人で食堂へゆくと……私の姿を見て年上らしい令嬢たちが、ヒソヒソと私の悪口を言っていた。
「……っ!」
(もう、エミール様のせいで。どうして私がここまで辛い立場に、追い込まれなければいけないの⁉)
食堂だけではない。学園中、どこへ行っても。
人の目がある場所では必ず、私は誰かに悪口を言われるようになった。
それも少しずつ悪意が増して、ひどい言葉にエスカレートしている。
それだけではない。持ち物を隠されたり、捨てられたりと。
嫌がらせも日に日に増して行き。私では対処しきれない状況へ追い込まれていた。
「もう、嫌っ!」
イザークお兄様に思いをよせる令嬢たちが、幼馴染みの私にどれだけ強く嫉妬していたのかを知らなかった。
そのことに気が付いた時には、私の友人は一人もいなくなっていた。
今では彼女たちが本当に友人だったかも疑問だ。……たぶん上辺だけの関係だったのだろう。
(仲良しだった令嬢たちには、エミール様とレティシア嬢が何をしたかを、すべて話したのに……)
私とエミール様の婚約破棄だけなら、予想通り醜聞も大きくはならなかったけど。人気者のイザークお兄様が関わって来たから、こんなにも複雑な状況に陥ってしまったのだ。
「あと二年半もこんな学園生活を、耐えなけれがいけないの? 本当に田舎の神殿で神官見習いの道へ進もうかしら?」
(最低最悪の状況だけど。エミール様と婚約破棄をしたことに後悔はないわ。だってあの顔を一生、見なくてすむのだから)
──そのエミール様本人は……
『本当にアンリエッタの浮気には僕も傷ついたよ』
…とか。
『いくら幼馴染みでもね。たぶんアンリエッタの一方的な好意だと思うけど。イザーク卿も気の毒だ』
…とか。
『自分は悪くない。全部、アンリエッタが悪い』
…とか。
夢中で悪口を言って、私のせいにしようとしている。
「誠実さの欠片も無い、本当に汚らわしい人だわ。もしかするとエミール様は、本気でそう思い込んでいる、ただのマヌケかもしれないけれど」
最後に話した時、エミール様は思い込みが激しい人なのだと知った。
関係が最悪になってから、初めて本音をぶつけ合い彼の悪癖に気づいたのだ。
こんな辛い立場にいる私のもとに、イザークお兄様がバラスター公爵夫人と一緒に会いに来た。




