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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第3章
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間羅の国編4話「ちゃんと笑うじゃん」

店内の様子は出発前とほとんど変わっていなかった。

客席に座っているのは、いつものようにゴードンとルシアンだけ。

そして、そのゴードンはというと――。


「いやぁ、アレクシアちゃん。今日も綺麗だねぇ! どうだい? 俺と一緒にどこか――」

「嫌よ」

「まだ最後まで言ってないんだけど!?」

「どうせろくでもない誘いでしょ」


アレクシアはカウンターの内側で淡々と作業を続けている。


「アレクシアちゃん、俺ほどの男がここまで熱烈に――」

「仕事の邪魔だし、私にはセリオがいるから」

「ぐはっ!」


ゴードンが胸を押さえて大げさにのけぞる。


その横ではルシアンが紅茶を飲みながら、完全に無関心な顔をしていた。


「旦那様。何度断られれば学習するのですか。アレクシア様にはセリオ様がいますから」

「ルシアン、お前は俺の味方じゃないのか!?」

「私は旦那様の秘書です。恋愛相談員ではありません」

「冷てぇ!」


そのやり取りを見ながら、エドワードは深いため息をついた。


「……相変わらずだな」


隣にいた夏芽も、店内を見回して小さく頷く。


「……いつものローズですね」

「そういうことだよ」


エドワードは、いつもの席へ向かおうとした。

しかし、その背後からアレクシアの声が飛んでくる。


「エドワード」

「……なんだい」

「買ってきたもの、ちゃんと厨房まで運んで」

「…………」


エドワードは無言で袋を持ち直した。


「僕はいつから雑用係になったんだ?」

「今さら何言ってるのよ」


ゴードンがそれを聞いて笑う。


「いやぁ、エドワードも大変だねぇ!」

「お前にだけは言われたくない」

「なんでだよ!」


ルシアンが静かに口を挟む。


「旦那様の場合、自業自得です」

「ルシアンまで!?」


店内に、夏芽の小さな笑い声が漏れた。

エドワードはそれを横目で見て、ほんの少しだけ口元を緩める。

だが、こうして「ローズ」に戻ってくれば、結局いつもの日常が待っている。

その日常の中に、今回助けた夏芽も加わっていた。

その光景を横目に、エドワードは小さくため息をついた。


そして、ふと店内を見回す。


「……ん?」


見慣れない客が二人いる。


窓際の席に座っているのは、和装姿の青年と、その向かいに座る老人だった。


青年は頭にタオルを巻いている。老人も同じように頭へタオルを巻き、穏やかな顔で店内を眺めていた。

エドワードは眉をわずかに上げる。


「……誰だ、あれは」


すると、隣にいた夏芽がその二人へ視線を向けた。


「……あ」


夏芽の表情が、ほんの少しだけ変わった。


「大和さん……」


青年がその声に気づく。


「……夏芽?」


大和は立ち上がると、驚いたように夏芽を見る。


「お前、なんでここにいるんだ?」

「それはこちらの台詞です。どうしてここに……」


「じいちゃんとその…。夏芽、例の件で…」

その隣で、源蔵が「ほっほっほ」と穏やかに笑った。


「夏芽か。久しぶりじゃのう」

「源蔵さんも……お元気そうで」

「おかげさんでな」


源蔵は笑顔のまま、夏芽の髪を見る。

そして、少しだけ目を細めた。


「……また増えたのう」

「……」


夏芽が黙る。

大和も夏芽の髪を見て、ため息をついた。


「ほんとだ。また増えてる」

「……仕方ないじゃないですか」

「仕方なくないだろ。ちゃんと休んでるか?」

「休んでます」

「絶対嘘だろ」

「嘘じゃありません」


二人のやり取りを見ていたエドワードは、煙草を咥えたまま小さく目を細めた。

どうやら、この青年と老人は夏芽とかなり親しいらしい。

エドワードが二人へ近づく。


「……お前ら、夏芽の知り合いか」


大和がエドワードを見る。


「えっと……はい。幼馴染です。俺は大和」


源蔵も座ったまま、ゆっくり頭を下げた。


「源蔵じゃ。大和の祖父をやっとる」

「そうか」


エドワードは短く返す。

すると大和が少し不思議そうに尋ねた。


「あんたは?」

「エドワード・ハーヴィー。この店の店員だ」

「……店員?」


大和はエドワードの燕尾服を見た。


「なんか、店員っていうより……」

「殺し屋みたい?」


エドワードが淡々と言う。


「……そこまでは言ってません」

「顔に出ていたぞ」

「すみません」


その様子を見ていた源蔵が、また「ほっほっほ」と笑った。


「面白い店じゃのう」


エドワードは源蔵を見る。

穏やかな老人。

ただ、それだけではない。

長年、人を見てきたエドワードには分かった。

この老人の立ち姿には、普通の老人にはないものがある。


「……」


源蔵もエドワードを見返す。

二人の視線が静かに交わる。

しかし、源蔵は何も言わない。

エドワードも、それ以上は聞かなかった。

その時、厨房の方からアレクシアの声が飛んでくる。


「エドワード。話してないで、注文の品を運んで」

「……人使いが荒いな、お前は」

「聞こえてるわよ」

「聞こえるように言った」

「なら早くして」


エドワードは面倒そうに注文の品を手に取った。

その横で夏芽が、ほんの少しだけ口元を緩める。

大和はそれを見て、安心したように笑った。


「……なんだ。ちゃんと笑うじゃん」

「……?」

「いや、最近ずっと難しい顔してたからさ」


夏芽は少し黙った。

そして、小さく答える。


「……そうですか」


エドワードはその会話を聞きながら、何も言わずに注文の品を運んでいった。

この時のエドワードはまだ知らなかった。

この二人との出会いが、やがて夏芽という人間の「今まで」を知るきっかけになることを。

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