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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第3章
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喫茶店ローズ〜間羅の国編〜

ある国で、とある町に、二人の男女が並んで歩いていた。


黒いスーツの上にロングコートを羽織った沈博と、紫を基調としたチャイナ服姿の紫鈴。裏社会では名の知れた二人であり、ヤクザの霧島組の人間でもある。


紫鈴は周囲を眺めながら、眼鏡の位置を直した。


「相変わらず、この町は古臭いネ。こんなに技術進んでるのに、町並みだけ昔のままアル」

「それがその国だろ」


沈博は淡々と答えた。


「そういうものカ」

「そういうものだ」


二人が角を曲がった、その時だった。

沈博の足が止まった。


「……ん?」


少し先、古びた建物の壁際に、一人の老人が立っていた。

年齢は七十代後半ほどだろうか。

白髪は短く整えられ、質素な和装を身につけている。身体は細い。しかし、ただ細いだけではない。余分なものをすべて削ぎ落としたような、異様な身体つきをしていた。


そして何より、目だった。

鋭い灰色の瞳。

だが、その瞳には光がない。

老人は壁に向かって、誰に聞かせるでもなく、ぶつぶつと呟いていた。


「……違う……違う……」

「……何だ、あれ」


紫鈴も老人を見る。


「気味悪いネ」


その老人は、二人には気づいているはずだった。

それでも振り向かない。

ただ、何かを確かめるように、壁へ向かって言葉を繰り返している。


「……使える……」


沈博の表情がわずかに険しくなった。


「……?」


次の瞬間。

老人が、ほんの少しだけ顔を上げた。

その灰色の瞳が、沈博たちのいる方向へ向く。


「使えそうだ……」


低い声だった。


「……あの男は……」


沈博の目が細くなる。

紫鈴の前へ、一歩出た。


「紫鈴。行くぞ」


「珍しいネ。アンタがそんなに早く帰ろうと言うなんテ」

「いいから」

「……分かったアル」


二人はそれ以上、その老人には近づかなかった。

沈博は一度だけ振り返る。

老人はまだそこに立っていた。

微動だにせず、沈博たちを見ている。


その視線には、敵意すらなかった。

だからこそ、沈博は警戒した。

敵意がなければ、殺気もない。


ただ、人間を何かの道具として見ているような目だった。

沈博は紫鈴を連れて、その場を離れる。


「……あの爺さん、何者ネ?」


紫鈴が尋ねる。


「知らない」

「沈博でも知らないアルか」

「ああ」


沈博は歩きながら、後ろを見なかった。


「ただ……関わらない方がいい」


紫鈴は少し黙ったあと、静かに頷いた。

その頃、二人が去った場所では、老人が一人、壁際に立っていた。

そして、また小さく呟く。


「……使える」


その声には、喜びも怒りもなかった。

ただ、何かを見定めるような静けさだけがあった。

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