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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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「今だ!」

扉の前に立ったルクレツィアは、しばらく何も言わなかった。

ただ、セリオとアレクシアを交互に見つめている。

やがて、その表情から笑みが消えた。


「……そう」


低い声だった。


「そういうことなのね」


ルクレツィアの視線がアレクシアへ向く。


「セリオ様の言っていた女」


アレクシアは一歩も引かなかった。


「だったら何?」


その言葉に、ルクレツィアの眉がぴくりと動く。


「……私がどれだけセリオ様のために動いてきたと思っているの?」

「知らないわよ」

「どれだけ、この国を支えてきたと思っているの?」

「それも知らない」

「どれだけ――!」


ルクレツィアの声が初めて荒れた。

部屋の空気が一気に張り詰める。


「セリオ様を王として立たせるために、私がどれだけ苦労したと思っているのよ!」


セリオが険しい表情になる。


「ルクレツィア、もうやめてくれ」

「黙って!」


鋭い声が飛ぶ。

セリオが息を呑んだ。


「あなたは何も分かっていない!」


ルクレツィアは震える手を握り締めた。


「あなたはいつもそう。自分だけが正しいと思って、私の言うことを聞かない!」

「僕は君の所有物じゃない」


その言葉に、ルクレツィアの表情が歪んだ。


「……所有物?」


小さく笑う。

しかし、その笑みにはもう余裕がなかった。


「そう。なら、あなたから大切なものを全部奪えばいいのね」


アレクシアが前へ出る。


「セリオに手を出すなら――」

「あなたが黙りなさい!」


ルクレツィアが叫んだ。

その瞬間。

エドワードの目が鋭くなる。

部屋の外から、複数の足音が聞こえてきた。

兵士たちがこちらへ向かっている。

だが、それを待っていたかのように、エドワードが低く叫んだ。


「今だ!」


アルフレッドが即座に動く。

扉へ向かって駆け出し、外から近づいてくる兵士たちの進路を塞ぐ。

エドワードはセリオへ手を伸ばした。


「セリオ!こっち!」

「分かった!」


セリオが走り出す。

アレクシアもその後を追った。


「アレクシア!」


セリオが彼女の手を取る。

二人の手が重なった。

そのままエドワードとアルフレッドに続いて、部屋の奥にある別の通路へ駆け込む。

背後からルクレツィアの声が響いた。


「待ちなさい!」


しかし、エドワードは振り返らなかった。


「走るよ!」


四人の足音が、城の奥へと響き渡る。

そしてその直後、ルクレツィアの怒りに満ちた声が城内へ轟いた。


「絶対に逃がさないわ……!」


その声を聞きながら、セリオはアレクシアの手を強く握った。

今度こそ、彼女を一人にしない。

そう決意するように。



エドワードとアルフレッドは、セリオとアレクシアを先へ行かせると、その場に残った。

背後から兵士たちの足音が迫ってくる。


「エド兄、結構来るよ?」

「見れば分かる」


エドワードはため息をつきながら、廊下の中央へ立った。


アルフレッドもその隣に並ぶ。


「じゃあ、いつものやつで」

「うん」


二人は顔を見合わせた。

そして、エドワードが懐から通信機を取り出す。


「今だ!」


短い合図。

その瞬間、城の各所で動きが始まった。

厨房ではオスカーが大量の食器や調理器具を運び込み、わざと通路を塞いでいる。


「す、すみません! 今ちょっと通れませんので……!」

「どけ!」

「は、はい! ですが、こちらの料理を運ばないと……!」


アンナは別の廊下で兵士たちを引き止めていた。


「すみません! こちらに行かれた方が早いですよ!」

「どっちだ!」

「えっと……たぶん、あっちです!」


兵士たちが示された方向へ走っていく。

その先には、セドリックとエリオットが待っていた。


「申し訳ございません。そちらは現在、通行できません」

「何だと!」

「言うこと聞いたほうがいいですよ」


二人はあくまで穏やかな笑顔のまま、兵士たちを別の方向へ誘導していく。

一方、城の外。

鷹司は、手にした端末をじっと見つめていた。


「……これでいいのか?」


悟真が横から画面を覗き込む。


「配信開始を押せばよい」

「そうか」


鷹司は指示通りに画面を操作した。

数秒後。

配信が始まった。

画面には、ヴァレンティア城を背景にした鷹司の姿が映っている。

本人は明らかに慣れていない。


「……現在、ヴァレンティア城の前にいる」


コメントが流れ始める。


《誰?》

《おじいちゃん何してるの?》

《後ろ城じゃん》


鷹司は眉一つ動かさない。


「私は今から、この国で起きていることを話す」


悟真が隣で静かに頷く。


「続けろ」


「ルクレツィア・デ・モンフォールによる権力の濫用。セリオ殿下への強要。さらに――」


鷹司は淡々と事実を語り始めた。

それまで静かだった画面のコメント欄が、次第に激しく動き始める。


《え、マジ?》

《ガチの話?》

《これ本当ならヤバくない?》

《誰か保存しろ》


鷹司は画面を見て、わずかに首を傾げた。


「……随分と騒がしいな」


悟真が答える。


「それが動画配信というものだ」

「そうか」


鷹司は再びカメラへ向き直った。


「ならば、最後まで伝える」


一方、城内。

エドワードとアルフレッドの前には、ついに多数の兵士が集まっていた。

アルフレッドが肩を回す。


「結構来たね」


エドワードは小さく笑った。


「時間稼ぎとしては十分だ」

「セリオたちは?」

「もうかなり先へ行ったはず」

「じゃあ、僕たちもそろそろ――」


その瞬間、城内に大きな鐘の音が響いた。

同時に、兵士たちの間からざわめきが起こる。


「何だ?」

「外で何か起きているぞ!」

「城の前に人が集まっている!」


エドワードとアルフレッドは顔を見合わせた。

アルフレッドが笑う。


「鷹司おじいちゃん、やったね」


エドワードも苦笑する。


「まさか本当に配信までやるとは思わなかったよ」


その頃、鷹司の配信には、すでに大量の視聴者が集まり始めていた。

そして、ルクレツィアの悪行は、城の外だけではなく、国中へと広がり始めていた。

ルクレツィアが築き上げてきた権力の土台は、少しずつ崩れ始めていた。

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