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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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「…あそこ」

兵士が荷車の前で足を止めた。


「搬入許可証を」


エリオットがすぐに一歩前へ出る。いつもの穏やかな表情を崩さず、懐から偽装の書類を取り出した。


「こちらでございます。本日の食材と日用品をお届けに参りました」


兵士は書類を受け取り、しばらく眺めた。

その間、荷車の後ろではアレクシアが息を殺していた。隣にいるエドワードもアルフレッドも、微動だにしない。


「……随分と人数が多いな」

「本日は納品量が多いもので」

「まあ。最近、城への侵入を試みた者がいる。しばらく警戒が厳しくなっている」

「承知しております。こちらも規則には従わせていただきます」


エリオットの返答には一切の動揺がない。


その横で、オスカーは荷車の後ろに立ったまま、両手を胸の前で組んでいた。緊張しているのは明らかだったが、料理人として振る舞うことだけに意識を集中させている。


兵士が荷台へ近づいた。


「中を確認する」


アレクシアの表情が僅かに強張った。

もしここで見つかれば、計画はすべて終わる。

その瞬間、アレクシアの心臓が大きく跳ねた。

荷台には食材の箱が積まれている。その奥には、城内へ入るための道具も隠してある。

見つかれば終わりだ。


兵士が一つの箱を開ける。

野菜とスパイス。

別の箱を開ける。さらに別の箱を開ける。

その作業の繰り返し。

オスカーの顔がわずかに強張った。


「これは?」


兵士が取り出したのは、厨房用の調味料だった。

オスカーがすぐに答える。


「そ、それは厨房で使うものです……。本日の料理に必要なので……」

「料理人か。それにしても、デカいな。料理人より兵士に向いてそうだが」

「は、はい……」


兵士はオスカーをじっと見つめた。

「名前は?」

「オスカー・ハーヴィーです」

「城内で働いた経験は?」

「あ、ありません……」

「なら、なぜ今日から?」


オスカーの喉が小さく鳴った。

その時、ガブリエルが穏やかな声で口を挟んだ。


「本日は臨時の応援です。城内の厨房から急な要請がありまして」


大柄な身体を持つガブリエルが静かに頭を下げる。


「もし確認が必要でしたら、厨房の責任者へ問い合わせていただいても構いません」


兵士はガブリエルを見上げた。

しばらく沈黙した後、偽装の書類へ視線を戻す。


「……分かった」


しかし、その瞬間だった。

城門の外から、乾いた音が響いた。


――カンッ。


兵士たちが一斉に振り返る。


「何だ?」

続けて、もう一度音がした。

今度は石壁の一部に何かが当たったような音だった。


「城壁側だ!」


別の兵士が叫ぶ。

門の警備兵たちが一斉にそちらへ走り出した。

エリオットは目を細める。


「……始まりましたね」


荷車の陰で、アルフレッドが小さく笑った。


「さすが鷹司おじいちゃんと悟真。仕事が早いねぇ」


エドワードも僅かに口元を緩める。


「今のうちだ」

「でも、兵士が戻ってきたら?」


アレクシアが小声で尋ねる。


「戻ってくる前に入る」


エドワードが答えた。

荷車はそのまま城門を通過した。

誰も止める者はいない。

アレクシアは、ようやく小さく息を吐いた。


「……入れた」

「まだ始まったばかりだよ」


エドワードが囁く。


「ここからが本番だ」


城内へ入ると、景色が一変した。

美しく整えられた庭園。噴水から流れる水。壁沿いに咲き誇る薔薇。

しかし、その美しい景観の中に、武装した兵士が一定間隔で配置されている。

アルフレッドが周囲を見渡す。


「綺麗な城なのに、ずいぶん物騒だねぇ」


「それだけルクレツィアが警戒してるってことね」


アレクシアが答えた。

荷車は厨房へ向かって進んでいく。

やがて大きな扉の前で止まった。


「ここからは別行動だ」


エドワードが小声で言う。


「オスカーたちは厨房へ。僕たちはセリオのいる場所を探す」


オスカーは不安そうに頷いた。


「分かりました……」


エリオットが柔らかく声をかける。


「大丈夫ですよ、オスカーさん。あなたならできます」

「は、はい……!」


一行は二手に分かれた。

アレクシア、エドワード、アルフレッドは使用人用の通路へ入っていく。

しばらく歩いたところで、アルフレッドが足を止めた。


「ねえ、エド兄」

「何?」

「これ、変じゃない?」

「そうだね」


エドワードも足を止める。

廊下の先。

そこだけ兵士の数が異様に多かった。

そして、その先には他の部屋とは明らかに違う、重厚な扉がある。

アレクシアは扉を見つめた。

胸が、強く鳴った。


「……あそこ」

「分かるのかい?」

「分からない。でも……」


アレクシアは胸元を押さえる。


「セリオが、あそこにいる気がする」


エドワードは少しだけ目を細めた。

そして、静かに頷いた。


「なら、行こう」


三人は物陰に身を隠しながら、兵士たちの動きを窺う。

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