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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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喫茶店ローズ第2章 喫茶店ローズ〜ヴァレンティア王国編19話「…恋?」

レティシアの頬は赤く染まり、どこか照れくさそうな笑みを浮かべていた。

四十五年という歳月を感じさせない、穏やかな再会。

――かと思われた。

次の瞬間。


「……。」


レティシアの笑顔がぴたりと止まる。

彼女の視線がゆっくりとアレクシアへ移った。

そして再びエドワードを見る。

もう一度アレクシアを見る。

沈黙。


「……」

「……」


エドワードは嫌な予感しかしなかった。


「レティ――」


言い終わる前だった。


ガシッ!!


「え?」


レティシアはエドワードの燕尾服の胸ぐらを両手で掴み、そのままぐいっと引き寄せた。


「あなたね!!」


城門前に凛とした声が響く。


「この四十五年間、連絡なしってどんな神経してたのよ!?」

「えっと……」

「手紙の一枚もない!」

「ごもっともです」

「会いにも来ない!」

「はい」

「生きてるか死んでるかも分からなくて、私がどれだけ心配したと思ってるの!?」


エドワードは完全に押されていた。

反論できない。

アルフレッドは横で肩を震わせて笑いを堪えている。

レティシアはさらにアレクシアを指差した。


「それに!この子は誰よ!?説明しなさいよ!!」


アレクシアは突然話を振られ、慌てて両手を振る。


「え、えっと……私は――」


しかしレティシアはエドワードから目を離さない。


「あなた、まさか四十五年も音信不通だったくせに、可愛い女の子を連れて歩いてるなんて言わないでしょうね!?」

「違う違う」

「何が違うの!」

「まあ、僕にも諸事情があるって言うか……」


エドワードは困ったように頭をかく。


「話せば長くなるって言うか……」

「短くまとめなさい!」

「はい」


即答だった。

その様子を見ていたアルフレッドは、とうとう耐えきれず吹き出す。


「ぶっ……!」

「アル」

「ご、ごめん……無理……」


腹を抱えて笑い始める。


「世界最強の元暗殺者が説教されてる……!こんなの四十五年ぶりに見たよ!」


エドワードはじろりと弟を睨む。


「助ける気は?」

「全然」


即答だった。


「自業自得」


レティシアはなおも胸ぐらを掴んだまま、エドワードを睨み続ける。


「さあ、説明。全部。一字一句省略なし」


エドワードは静かに観念したようにため息をついた。


「……まず、この子はアレクシア」


「僕とアルが赤ん坊の頃に保護して、孫として育てた子なんだ」


レティシアは一瞬きょとんとした表情になり、勢いよくアレクシアの方を振り向く。


「……孫?」

「血は繋がっていないけどね」

「そういうこと」


レティシアはしばらく黙り込む。

やがて胸ぐらを掴んでいた手をゆっくりと離した。


「……そう」


ほっと息をついたあと、小さく呟く。


「びっくりしたじゃない」


その声には、安堵がはっきりと滲んでいた。

アルフレッドはその様子を見て、また笑いをこらえきれず肩を震わせる。


「いやぁ、レティシア。嫉妬、分かりやすすぎ!」

レティシアは胸ぐらを掴んでいた手をゆっくり離した。

先ほどまで怒りで燃えていた瞳が、一瞬だけ穏やかになる。

アルフレッドがニヤニヤしながら、再び話し出す。

アルフレッドは口元を緩めながら何度も頷いた。


「まあ、その話は一旦置いといて。僕とエド兄の可愛い孫娘のアレクシアがさ、セリオに恋しちゃってるっぽいんだよね」

「…恋?」

「なっ!」


アレクシアの顔が一気に真っ赤になる。


「ちょ、ちょっとアルフレッド! 何を勝手なこと言ってるのよ!」

「え? 違うの?」

「違……っ、それは……!」


反論しようとするたびに、セリオの笑顔や、自分を庇って抱き寄せた瞬間が頭をよぎる。

言葉が続かない。

アルフレッドは面白そうに笑った。


「ほらね」


アレクシアは視線を逸らし、小さく唇を噛んだ。


レティシアはその様子を静かに見つめる。


「セリオ様……」


その名を聞いた瞬間、彼女の表情がわずかに和らいだ。


「優しい子よ。真面目で、誰よりも国民を大事にする。王家には珍しいくらい誠実な子」


アレクシアは思わず顔を上げた。


「知ってるの…?」

「もちろん。私は騎士団長だから」


レティシアは少しだけ微笑む。


「昔から、困っている人を見れば必ず助けようとする子だった。自分が傷つくことなんて気にも留めないくらいにね」


その言葉を聞き、アレクシアはセリオが追っ手の前へ自ら戻っていった姿を思い出す。


『これ以上、君達を巻き込みたくないから』


あの言葉は嘘ではなかった。


「……あの人らしいわね」


思わず漏れた呟きに、レティシアは静かに頷く。


「でも、その優しさが今は裏目に出ている」


部屋の空気が少しだけ重くなる。


「ルクレツィア・デ・モンフォール伯爵は、セリオ様を完全に自分の支配下へ置こうとしている。結婚も、そのための手段」


アルフレッドの笑みが消えた。


「やっぱり、そこまでか」

「ええ。セリオ様は王子でありながら、実質的には自由を奪われている」


レティシアは窓の外へ目を向ける。


「私も何度も動こうとした。でも相手はルクレツィア。軽率に動けば、王国そのものが割れる」


静寂が流れた。

その沈黙を破ったのはエドワードだった。


「だから僕たちを呼んだんだね」


レティシアはゆっくりと彼を見る。


「あなたなら動くと思ったから」


エドワードは肩をすくめ、小さく笑う。


「相変わらず買いかぶりすぎだ」

「いいえ」


レティシアは迷いなく答えた。


「私は四十五年前から、あなたのそういうところを信じてる」


その真っ直ぐな言葉に、エドワードは珍しく返す言葉を失った。

アルフレッドは二人を交互に見て、にやりと笑う。


「いやぁ、こっちも相変わらず両想いだねぇ」

「アル」


エドワードが低い声で制する。


「はいはい」


肩をすくめる弟の横で、アレクシアはふと決意を固めたように口を開いた。


「……私、セリオを助けたい」


その声は静かだった。

しかし、その瞳には揺るぎない意志が宿っていた。

レティシアはそんなアレクシアを見つめると、ゆっくりと頷く。


「その覚悟があるなら、私も力を貸す」


騎士団長としてではない。

一人の女性として、そして王国を守る騎士として。

その言葉は、アレクシアたちにとって何より心強い味方を得た瞬間だった。

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