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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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喫茶店ローズ第2章 喫茶店ローズ〜ヴァレンティア王国編18話「レティシア・ヴァルフォール」

アルフレッドの言葉が途切れると、車内はしばらく静まり返った。

アレクシアは窓の外に広がる王城を見つめながら、小さく息をつく。


「……意外」

「何が?」


エドワードが穏やかに問い返す。


「エドワードにも、そういう人がいたなんて。もっと、恋愛とか興味ない人だと思ってた」


エドワードは苦笑する。


「僕も若かったからね。まあ、昔の話さ」


その横で、アルフレッドが肩を震わせた。


「若かったって」

「当時から十分ひねくれてたけど」

「アル」

「はいはい」


軽く受け流しながらも、アルフレッドはどこか懐かしそうに王城を見上げた。


「でも、あの人は本当に強かった。エド兄が真正面から負けを認めた相手なんて、あの人くらいじゃない?」


エドワードは静かに頷く。


「ああ。剣だけじゃない。頭も切れたし、判断も早い。何より、騎士としての誇りを誰よりも持っていた」


その口調には、今も変わらぬ尊敬が滲んでいた。


アレクシアはそんなエドワードを横目で見つめる。


「……まだ好きなの?」


不意の問いだった。


アルフレッドも思わずエドワードへ視線を向ける。

エドワードは少しだけ目を閉じ、静かに笑った。


「さあ。どうだろうね」


曖昧な返事だった。

だが、その表情だけで十分だった。

アルフレッドは呆れたように笑う。


「それ、まだ好きって顔なんだけど」

「そう見える?」

「見える見える」


エドワードは肩をすくめると、ゆっくりと車のドアへ手を掛けた。


「昔話は終わりだ。今はセリオを探す方が先」


そう言って車を降りる。

アレクシアとアルフレッドも後に続いた。

王城へと続く石畳の道を歩き始めた、その時だった。

エドワードの足が、不意に止まる。


「……」


彼は城門の脇に立つ一人の騎士へ視線を向けた。

甲冑姿の騎士たちに紛れ、その女性だけが異様なほど堂々と立っている。

腰まで届く長い髪。

隙のない立ち姿。

遠目にも分かる、研ぎ澄まされた気配。

エドワードの青い瞳が、わずかに見開かれた。


「まさか……」


その小さな呟きを聞き逃さなかったアルフレッドが、城門の方へ目を向ける。

そして、にやりと笑った。


「……いたね、エド兄」


エドワードの視線の先に立つ女性は、周囲の騎士たちとは明らかに雰囲気が違っていた。


黒と白を基調とした、メイド長を思わせる落ち着いた装い。

城で働く使用人にしか見えない。

しかし、その立ち姿には一切の隙がなかった。

背筋は真っ直ぐに伸び、わずかな重心の置き方だけで、長年剣を振るってきた者だと分かる。


長い水色がかった銀髪は、青いリボンでハーフアップにまとめられていた。

女性は、こちらへゆっくりと顔を向ける。

美しい紫の瞳と、エドワードの青い瞳が重なった。


ほんの一瞬。

時間が止まったようだった。

アルフレッドが小さく笑う。


「やっぱりいた」


アレクシアが小声で尋ねる。


「あの人が……?」

「ああ」


アルフレッドは楽しそうに頷いた。


「レティシア・ヴァルフォール。ヴァレンティア王国騎士団長。昔は騎士団長候補だったけど、今じゃ国を代表する騎士だよ。」

アレクシアは思わず女性を見つめる。

厳格で近寄りがたい雰囲気。

まさかアルフレッドの話にあった「乙女」と同一人物には到底見えない。


その時だった。

レティシアがゆっくりと歩き出す。

靴音だけが静かに石畳へ響く。

やがてエドワードの目の前まで来ると、じっと彼の顔を見つめた。


「……久しぶりね。」


低く落ち着いた声だった。

エドワードも穏やかに微笑む。


「久しぶり。四十五年ぶりくらいかな」

「もっとよ」


レティシアは小さく息を吐いた。


「あなた、全然変わらないわね」

「君もね」


短い会話。

それだけなのに、長い年月を埋めるには十分だった。

アレクシアは二人を交互に見る。


(……これ、本当に相思相愛なの?)


そんな疑問が浮かぶほど、会話は淡々としていた。

するとアルフレッドが、こっそりアレクシアの耳元で囁く。


「あと十秒」

「え?」

「見てな」


その瞬間だった。

レティシアの表情が、ふっと緩む。

厳しい騎士団長の顔は消え、頬がほんのり赤く染まる。


「……その。元気、だった?」


声まで少し柔らかくなる。

エドワードは優しく笑った。


「ああ。君は?」

「もちろん」


レティシアは視線を泳がせながら髪を耳にかける。


「……その青いネクタイ。まだ使ってくれてるのね」


エドワードは自分の胸元へ目を落とした。

青いネクタイ。

四十五年前、彼女から贈られたものだった。


「気に入ってるから」


その一言で、レティシアの頬はさらに赤くなる。


「そ、そう……」


先ほどまで部下を率いる騎士団長だった人物とは思えないほど、しどろもどろだった。


その様子を見たアルフレッドが吹き出す。


「ほらね。エド兄の前だと昔からこう」


アレクシアは思わず苦笑した。


「……本当に乙女なんだ」

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