〜喫茶店ローズ第2章 喫茶店ローズ〜ヴァレンティア王国編15話「僕は大歓迎だよ?」
その場の空気を破ったのは、今まで黙って話を聞いていたアンナだった。
「両想い!!」
元気いっぱいの声が廃墟中に響き渡る。
「……」
一瞬、時間が止まる。
「ぶっ……!」
アルフレッドが吹き出した。
「はははっ! アンナ、それ言っちゃう!?」
エドワードも思わず口元を押さえ、小さく肩を震わせる。
「率直すぎるよ」
一方、当のアレクシアは耳まで真っ赤だった。
「ア、アンナ!」
「えっ?」
アンナはきょとんと首を傾げる。
「だって、アレクシア様もセリオ様のこと気になってますよね?」
「そ、それは……!」
「セリオ様もアレクシア様を守ってましたし!」
「だから違うって――!」
「しかも抱きしめてました!」
「それは事故でしょうが!」
必死に否定するアレクシアだったが、勢いがあるだけで説得力はどこか薄い。
アンナは純粋な笑顔のまま続ける。
「でも、お互い助けようとしてましたよ?会ってすぐなのに、あんなに心配してましたし!それって、すごく素敵だと思います!」
その無邪気な一言に、アレクシアは言葉を失った。
「…………」
何も言い返せない。
アルフレッドは腕を組みながら満足そうに頷く。
「いやぁ、子どもは正直だねぇ」
エドワードも紅茶の代わりに水を一口飲みながら、静かに微笑む。
「アンナは嘘をつけないからね」
アレクシアは顔を真っ赤にしたまま立ち上がった。
「もう、この話は終わり!私は寝る!」
勢いよく部屋の隅へ歩いていく。
その背中を見送りながら、アルフレッドはにやりと笑った。
「逃げた」
「逃げたね」
エドワードも苦笑する。
アンナだけは不思議そうに首を傾げていた。
「私、何か変なこと言いましたか?」
「いや」
エドワードは穏やかに答える。
「君は、本当のことを言っただけだよ」
部屋の隅では、その言葉が聞こえたアレクシアが、小さく膝を抱えて座り込んでいた。
「……もう」
真っ赤になった顔を両手で隠しながら、小さく呟く。
「会ったばかりなのに……」
それでも、脳裏に浮かぶのは、青い瞳の青年が見せた優しい笑顔と、自分を守るように抱き寄せてくれたあの瞬間だけだった。
アルフレッドは満足そうに腕を組み、頬杖をついた。
「僕は大歓迎だよ?」
部屋の隅で顔を隠しているアレクシアを見ながら、さらりと言葉を続ける。
「アレクシアの未来のお婿さんは、セリオなのが」
その瞬間。
「……は?」
低く、冷え切った声が部屋に響いた。
エドワードだった。
笑みは消え、蒼い瞳だけがアルフレッドへ向けられている。
「何を勝手に決めてる」
アルフレッドは悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「だって、お似合いじゃない?顔良し、性格良し、礼儀良し。しかも王子様だよ。孫娘にはもったいないくらいの優良物件じゃない?」
「却下」
即答だった。
「早っ!」
颯太とアンナとオスカーが思わず声を上げる。
エドワードは腕を組み、淡々と続けた。
「まだ会って数時間だ。まあ、人柄は悪くない。だが、それとこれとは別問題」
アルフレッドが吹き出す。
「過保護だなぁ」
「当然だ」
「僕らが育てた子だ」
「簡単に誰かへ渡す気はない」
アレクシアは頭を抱えた。
「ちょっと…。本人がいる前でそんな話しないで。」
「照れてる」
「照れてない!」
「否定が早いねぇ」
アルフレッドは楽しそうに笑う。
一方、悟真は静かに缶詰を食べながら、小さく呟いた。
「騒がしい」
鷹司も静かに目を閉じたまま言う。
「娘を持つ父親とは、皆ああいうものだ」
「……父親じゃないけどね」
アルフレッドが苦笑すると、鷹司はわずかに口元を緩めた。
「血の繋がりではない。だが、育てた者にとっては同じことだ」
その言葉に、エドワードは何も否定しなかった。
代わりに静かにアレクシアを見つめる。
赤ん坊の頃、腕に抱いた小さな命。
泣けばあやし、転べば手当てをし、何度も危険から守ってきた。
血は繋がっていなくても、その積み重ねは家族そのものだった。
やがてエドワードは小さく息を吐く。
「……まあ。本人が選ぶなら、止めはしない」
その一言に、アレクシアは少し驚いたように顔を上げた。
「ただし」
エドワードの蒼い瞳が鋭く細められる。
「もし泣かせるような男なら。相手が王子だろうと容赦はしない」
その静かな宣言に、部屋の空気が一瞬だけ凍りついた。
アルフレッドは苦笑しながら肩を叩く。
「はいはい。未来の義理の祖父は怖いねぇ」
「だから勝手に義理にするな」
エドワードの即座のツッコミに、その場にいた全員が思わず笑みをこぼした。




