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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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〜喫茶店ローズ第2章 喫茶店ローズ〜ヴァレンティア王国編11話「武器だけいただくよ」

ホテルの裏口から飛び出した一行は、夜の冷えた空気を切り裂くように石畳を駆け抜けた。背後では黒衣の男たちの怒号が響き、複数の足音が容赦なく追いかけてくる。


「逃がすな!」

「女を捕らえろ!」


アレクシアは振り返ることなく叫んだ。


「オスカー!」

「はい!」


通りの片隅に停めてあった車へ向かって、オスカーが一気に駆け出す。ドアを開けると同時に運転席へ飛び込み、鍵を回した。

エンジンが唸りを上げる。


「アンナ!」

「はいっ!」

「颯太さん!」

「分かってる!」


アンナと颯太が後部座席へ滑り込み、ガブリエル、エリオット、セドリックも続く。

最後尾では、エドワードとアルフレッドが追っ手を牽制していた。

短剣を振り上げて迫る男の腕を、エドワードは紙一重でかわすと、その手首を軽く払う。男の体勢が崩れた瞬間、肩を押すだけで相手は石畳の上を転がった。


その横ではアルフレッドが拳銃を抜き、ためらいなく引き金を引く。


乾いた銃声が夜空へ響く。


放たれた弾丸は男の短剣だけを正確に撃ち抜き、火花を散らして宙へ弾き飛ばした。


「武器だけいただくよ」


軽い口調とは裏腹に、その射撃には一切の無駄がない。


「エド兄!」

「十分だ」

二人は同時に身を翻し、車へ飛び乗った。


「オスカー、出せ!」


静かな命令とともに、車はタイヤを軋ませながら勢いよく発進した。

その直後、ホテルの裏口から三台の黒い車が飛び出してくる。


「追え!」

「絶対に逃がすな!」


バックミラーを見たオスカーの表情が強張った。


「追跡されています……!」

「そのまま速度を上げろ」


エドワードは落ち着いた声で告げる。


「大通りは避けろ。」

「は、はいぃ!」


車は王都へ続く広い通りへは向かわず、その手前の細い路地へ滑り込んだ。


石造りの建物が左右から迫り、道幅は車一台がようやく通れるほどしかない。


それでもオスカーは迷いなくハンドルを切る。


「右だ」


エドワードが短く指示を出す。


「次を左」

「その先を直進」


一切迷いのない声だった。


まるで、この街の地形を知り尽くしているかのように。


アルフレッドは後部座席から振り返り、追跡車との距離を測る。


「一台目は食らいついてるね」

「二台目も離れない」

「三台目は少し遅れてる」


颯太は思わず息を呑んだ。


「なんでこんなに……」


アレクシアも窓の外を見つめる。

街灯の光が次々と流れ去り、建物の影が車体を覆っては消えていく。

やがて視界が開け、大きな市場跡へと飛び出した。

昼間なら人で溢れる場所も、今は静まり返っている。


「真っ直ぐ」


エドワードが言う。

オスカーはアクセルをさらに踏み込んだ。

市場を一直線に駆け抜け、反対側の細道へ飛び込む。

追跡車も勢いよく続こうとした、その瞬間だった。

市場の入口へ、大きな荷馬車がゆっくりと進入してきた。


「しまっ――!」


追跡車の運転手が叫ぶ。


急ブレーキ、しかし間に合わない。

一台目が急停止し、後続車がそのまま追突した。

鈍い衝撃音が夜の市場に響き渡る。


「回り込め!」


怒号が飛ぶ。


だが、その頃にはオスカーたちの車は細い裏道の奥へと姿を消していた。

十分ほど走り続けた後、車はようやく街外れの林道へ入る。

オスカーは速度を落とし、バックミラーを何度も確認した。

暗い道の先には、もう追跡車のライトは映っていない。


「……追ってきません」


その言葉に、車内へ張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


アンナは胸を押さえ、大きく息を吐く。


「助かりました……」


颯太もようやく肩の力を抜く。


「もう大丈夫、なのか……?」


誰もすぐには答えなかった。


静寂の中、アルフレッドだけが小さく笑う。


「今回はうまく撒けたみたいだね」


しかし、エドワードは窓の外に広がる闇を見つめたまま、静かに首を振った。


「いや」


その一言だけで、車内の空気が再び引き締まる。


「見失わせただけだ」


穏やかな声だったが、その響きには確信があった。


「連中は諦めない。この国にいる限り、必ずまた現れる」


アレクシアは静かに拳を握る。


窓の向こうには、月明かりに照らされたヴァレンティア王国の城壁が遠く浮かび上がっていた。


美しい薔薇と水の国。


その華やかな景色の裏では、誰にも知られぬ陰謀が静かに牙を研いでいた。

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