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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第2章〜ヴァレンティア王国編〜
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〜喫茶店ローズ第2章 喫茶店ローズ〜ヴァレンティア王国編6話「それだけで、助ける理由としては十分だ」

セリオは静かに息を吐いた。


迫り来るエンジン音は、もうはっきりと聞こえている。


砂煙を巻き上げながら、黒い車列が一直線にこちらへ向かっていた。


アレクシアはすぐに状況を判断し、周囲へ視線を走らせる。


「迎え撃つ?」


その問いに、セリオは首を横に振った。


「だめだ」


「どうして?」


「これ以上、君たちを巻き込みたくないから」


穏やかな声だった。


しかし、その瞳には揺るぎない決意が宿っている。


「彼らの狙いは僕だ。君たちは関係ない。」


アレクシアは眉を寄せた。


「そんなこと――」


「お願いだ」


その一言で、言葉が止まる。


セリオは小さく笑った。


「短い時間だったけど、君たちと会えてよかった」


そう言い残すと、彼は踵を返した。


「ちょっと!」


呼び止める声にも振り返らない。


一歩、また一歩と、迫り来る車列の方へ歩いていく。


その背中は、どこまでも真っ直ぐだった。


「……」


アレクシアは思わず足を踏み出しかける。


だが、その前にエドワードが静かに腕を伸ばし、彼女を制した。


「待て」

「でも!」

「今は動くな」


セリオは車道の真ん中で立ち止まると、静かに両手を上げた。


数秒後。


黒い車が急ブレーキをかけ、タイヤが地面を激しく擦る音が辺りに響く。


追っ手の男たちが次々と車から降りてきた。


「ようやく諦めたか」


「逃げても無駄なんだよ」


男たちは薄笑いを浮かべながらセリオを囲む。


セリオは抵抗しなかった。


静かに男たちを見つめるだけだった。


その姿を遠くから見つめるアレクシアは、唇を強く噛み締める。


「……なによ」


声が震える。


「あんな顔して」


怒っているのか、悲しいのか…。

自分でも分からない。


「勝手に全部背負おうとして」


拳を握りしめる。


「勝手に『巻き込みたくない』なんて決めて」


視線の先では、男たちがセリオの腕を乱暴に掴もうとしていた。


それでも彼は抵抗しない。


「……馬鹿。本当に馬鹿じゃないの…」


ぽつりと零れたその言葉には、怒りよりも心配が滲んでいた。


エドワードは横目でアレクシアを見る。


普段なら、誰かの問題にここまで感情を乱されることはない。


まして、出会って間もない相手ならなおさらだ。


アルフレッドも小さく笑った。


「完全に惚れたね」

「茶化すな」


エドワードは低く返す。


しかし、その視線はセリオから一瞬たりとも外れていなかった。


彼は静かに白手袋をはめ直す。


「……さて」


その声色は、先ほどまでの穏やかな老人のものではない。


かつて「蒼刃」と恐れられた暗殺者の声音だった。


「うちの孫が、あんな顔をしている」


ゆっくりと一歩前へ出る。


「それだけで、助ける理由としては十分だ」

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