表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

喫茶店ローズ番外編「夏芽の元彼」

夕方の喫茶店ローズは、昼よりも静かだった。


客はほとんどいない。

照明も少し落とされ、窓の外には街灯の光が淡くにじんでいる。


カウンターの奥では、アルフレッドがコーヒーカップを片付けていた。


僕はいつもの席に座り、紅茶を飲んでいる。


そして、店の奥のテーブル席。


そこに、警護隊の面々が集まっていた。


オズワルドは新聞を読んでいる。

美琳はスマホをいじりながらジュースを飲んでいる。

すずらはケーキをゆっくり食べていた。

ロウは静かにコーヒーを飲んでいる。


そして――


夏芽は、少し俯いていた。


「……」


いつもより静かだった。


フォークでケーキをつついているが、ほとんど食べていない。


美琳がちらっと見る。


「どうしたの?」


夏芽は少し迷ってから、小さく言った。


「……元彼が」


美琳の手が止まる。


ジンドウの耳もぴくっと動く。


「元彼?」


夏芽は頷いた。


「また結婚したみたいです…」


テーブルが少し静かになった。


美琳が眉をひそめる。


「また?」


「三回目です」


美琳が呆れる。


「何それ」


すずらが優しく言う。


「大丈夫ですか〜?」


夏芽は苦笑した。


「大丈夫です…」


でも、その声は少しだけ落ちている。


僕はカップを持ちながらその様子を見ていた。


ジンドウが腕を組んでいる。


さっきから黙ったままだ。


ロウがちらっと横を見る。


明らかに何か考えている顔だ。


ジンドウは咳払いをした。


「……まあ」


全員の視線がそっちに向く。


ジンドウは視線を少し逸らしたまま言う。


「なんだ」


言葉を探している。


「その……」


夏芽が顔を上げる。


ジンドウは耳まで少し赤くなっていた。


ロウが静かに目を細める。


ジンドウは言った。


「俺が」


少し間。


「お前を」


さらに間。


「嫁としてもらってやるよ…」


店の空気が止まった。


美琳のジュースがストローの途中で止まる。


すずらのフォークも止まる。


僕は紅茶を飲む手を止めた。


アルフレッドもカウンターで固まっている。


オズワルドだけが新聞を読んでいた。


そして――


夏芽。


彼女は、少し驚いた顔をした。


だが次の瞬間、静かに頭を下げた。


「お気遣いありがとうございます…」


ジンドウの顔が固まる。


完全に想定していた反応ではない。


夏芽は続ける。


「大丈夫です。そこまで気を使っていただかなくても…」


ジンドウの脳が停止する。


美琳が顔を覆った。


「違う」


小さく呟く。


「そうじゃない」


すずらが困った顔になる。


「ジンドウさん…」


ロウは腕を組んで、静かにジンドウを見ていた。


その顔は、はっきり言っていた。


タイミングが悪い…。


ジンドウは何か言おうとした。


「いや、その……」


だが言葉が出ない。


夏芽はまだ勘違いしている。


「本当に大丈夫ですから」


美琳がついに耐えきれず言った。


「夏芽」


「はい?」


「それプロポーズ」


夏芽が止まる。


「……え?」


ジンドウの顔は真っ赤だった。


ロウは目を閉じた。


完全に、やらかした空気だった。


数秒の沈黙。


夏芽はゆっくりジンドウを見る。


「……」


ジンドウは視線を逸らした。


夏芽は静かに言った。


「……そういう意味だったんですか?」


ジンドウは小さく答える。


「……まあ」


夏芽はしばらく考えていた。


そして、少し困ったように言った。


「すみません」


ジンドウの肩がわずかに落ちる。


夏芽は続ける。


「いま頭が回っていなくて…」


美琳がため息をつく。


すずらが苦笑する。


ロウは静かにコーヒーを飲んだ。


僕は紅茶を飲みながら小さく呟く。


「……青春だね」


アルフレッドが笑いをこらえていた。


そして喫茶店ローズは、まだ静かに続いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ