喫茶店ローズ24話「……なんでいるの?」
その日から、喫茶店ローズの空気は少し変わった。
ほんの少しだけ。
だが、確実に。
昼下がり。
店内にはいつもの静かな音楽が流れている。コーヒーの香り、窓から入る柔らかな光。いつもと変わらない午後――のはずだった。
ただし、席の一角を除けば。
僕はカウンター席でコーヒーを飲みながら、その光景を眺めていた。
「……」
奥のテーブル席。
そこに座っているのは――
オズワルド。
夏芽。
美琳。
すずら。
ジンドウ。
ロウ。
警護隊の面々だった。
しかも全員。
普通に。
常連客みたいな顔をして座っている。
僕はゆっくりカップを置いた。
「……なんでいるの」
テーブルの方から声が返ってくる。
「客だから」
言ったのは美琳だった。
彼女はメニューを広げながら、普通に答える。
「喫茶店って客来る場所でしょ」
僕は頷く。
「そうだね」
それから言う。
「でも警護隊の人間が六人揃って来る場所ではない」
ジンドウが椅子にもたれた。
「飯がまずいんだよ」
僕は即答する。
「食堂?」
「そうだ」
「改善しなよ」
ジンドウは腕を組む。
「上が動かねぇ」
僕は視線を横に動かす。
オズワルド。
彼は窓際の席に座り、紅茶を飲んでいた。
背筋を伸ばし、静かな顔でカップを持っている。完全に落ち着いた客の姿だ。
僕は言った。
「動かない人が来てる」
オズワルドは淡々と答える。
「休憩だ」
「勤務中?」
「休憩だ」
僕は少し考える。
「なるほど」
夏芽は静かにケーキを切っていた。
ナイフとフォークを使う動きが妙にきれいだ。
「……」
彼女は僕の視線に気づき、小さく言った。
「ここは静かなので」
「警護隊より?」
「はい」
僕は頷く。
それは理解できる。
美琳はストローでジュースを飲んでいる。
「いやー」
椅子に深く座りながら言う。
「ここ落ち着くわ」
「警護隊より?」
「三百倍」
すずらは紅茶を飲みながら微笑んだ。
「お菓子も美味しいですね〜」
アルフレッドがカウンターの向こうで言う。
「チョコタルトもあるよー」
その瞬間。
ジンドウが反応した。
「それだ」
美琳も言う。
「それ頼む」
すずらも手を上げる。
「私も〜」
夏芽は少し迷ってから言った。
「……私も」
ロウは何も言わない。
ただ静かに頷いた。
アルフレッドは笑った。
「はいはい」
厨房の奥から声が飛ぶ。
「アルフレッド、注文多いわよ」
アレクシアだ。
アルフレッドが軽く返す。
「常連さん増えたからね」
僕はカウンターに肘をついた。
「……常連?」
アルフレッドが言う。
「もうそうでしょ」
僕はテーブルを見る。
警護隊六人。
完全にくつろいでいる。
まるで前からここに通っていたみたいだ。
僕は小さく呟いた。
「警護隊って暇なんだね」
オズワルドが即答する。
「暇ではない」
「じゃあ何で来るの」
少し間。
オズワルドは紅茶を一口飲んだ。
それから静かに言う。
「……落ち着く」
僕は少し笑った。
「へぇ」
そのとき。
扉が開いた。
カラン。
新しい客が入ってくる。
颯太だ。
彼は店の奥を見て、足を止めた。
警護隊六人を見て、完全に固まっている。
僕はその顔を見て言った。
「颯太」
「……はい」
「社会勉強」
彼は困った顔をする。
僕はコーヒーを飲んだ。
「働く場所って」
少し笑う。
「たまに職場より居心地いい場所があるんだよ」
そしてテーブルの方を見る。
チョコタルトが運ばれてきていた。
ジンドウが言う。
「うまい」
美琳も言う。
「これは当たり」
すずらが嬉しそうに笑う。
夏芽は静かに食べている。
ロウは無言。
オズワルドはゆっくり紅茶を飲んでいる。
僕は小さく呟いた。
「……完全に常連だね」




