喫茶店ローズ番外編「ある会話」
夕方の喫茶店ローズ。
客はまばらで、店内には落ち着いた静けさが流れている。
窓際の席。
そこに、三人が座っていた。
鷹司。
エリオット。
セドリック。
テーブルの上には、抹茶ラテとコーヒーが並んでいる。
しばらく、誰も話さない。
ただ、静かに飲み物を口に運ぶだけ。
その沈黙を、鷹司が破った。
「……随分と、賑やかになったな」
低く落ち着いた声。
エリオットがゆっくり頷く。
「ええ」
視線はカウンターの方へ。
アレクシアがオスカーに何か指示を出している。
アルフレッドは暇そうにしている。
エドワードはソファーで寝ている。
さらに奥では、警護隊の面々が固まって座っていた。
セドリックが苦笑する。
「常連が増えすぎましたね」
鷹司はカップを傾ける。
「質は悪くない」
一口飲む。
「むしろ、良い」
エリオットが静かに言う。
「ただ、空気は変わりました」
鷹司は頷く。
「変化は必然だ」
セドリックが軽く肩をすくめる。
「静かな店だったんですけどね」
その言葉に、鷹司はわずかに笑った。
「今も静かだろう」
ちょうどそのとき。
美琳の声が店内に響いた。
「いやだからそれ違うって!」
ジンドウの低い声が返る。
「違わねぇよ!」
すずらが慌てている。
「まあまあ〜」
夏芽が小さく言う。
「落ち着いてください…」
ロウは無言。
エリオットが目を細める。
「……静か、ですか?」
鷹司は少し考える。
それから言った。
「以前よりは、な」
セドリックが吹き出しそうになるのを堪える。
エリオットは小さくため息をついた。
「基準がずれていませんか」
鷹司は答えない。
代わりに、カップを置く。
「それより」
視線をゆっくり動かす。
ソファー。
エドワードが寝ている。
「……あれは」
セドリックが言う。
「いつものです」
エリオットが付け加える。
「仕事をしているところを見たことがありません」
鷹司はじっと見つめる。
「呼吸が浅い」
エリオットが少しだけ目を細める。
「起こしますか?」
セドリックが笑う。
「やめておきましょう」
鷹司は静かに言った。
「起きている」
二人が同時に見る。
「え?」
鷹司は淡々と続ける。
「寝ているふりだ」
その瞬間。
ソファーのエドワードの口元が、ほんのわずかに動いた。
セドリックが小さく笑う。
「やはり」
エリオットが呟く。
「面倒な人ですね」
鷹司はわずかに目を細めた。
「昔からだ」
その言葉には、ほんの少しだけ懐かしさが混じっていた。
しばらく沈黙。
三人はそれぞれ飲み物を口にする。
やがてセドリックが口を開いた。
「鷹司さん」
「なんだ」
「ここ、気に入っていますか」
鷹司は答えるまで少し間を置いた。
それから静かに言う。
「悪くない」
エリオットが視線を落とす。
セドリックが微笑む。
店内は、相変わらず少し騒がしくて。
それでもどこか、落ち着いていた。




