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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第3章
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間羅の国編27話「いい親子だね」

喫茶店「ローズ」とは別の、静かな茶屋。

畳の香りが漂う店内には、戦いを終えた者たちが集まっていた。傷を負った者も多く、皆どこか疲れた様子ではあるものの、ひとまず全員が戻ってきたことに安堵していた。

アレクシアたちと合流したエドワードは、いつもの燕尾服姿のまま、すっかりくつろいでいた。


「よかったですね!全て一件落着で!」


その言葉が響いた瞬間。


「……は?」


次の瞬間、美琳の拳が颯太の顔面にめり込んだ。


「ぐはっ!」


颯太は勢いよく後ろにのけぞり、畳の上に倒れ込んだ。


「バカ!!まだなっちゃんの処分とか決まってないし、まだやること山積みなのにそう簡単に言わないでよ!!」

「い、いや……だって、九条玄斎との戦いも終わって、霧島さんと夏芽さんも再会できて……」

「それとこれとは別でしょ!!」

「す、すみません……!」

「まったく……。なんでそこで一件落着なんて言葉が出てくるのよ……!」


美琳は額に手を当て、深々とため息をついた。

その様子を見ていたアレクシアは、頬杖をつきながら苦笑する。


「まあ、美琳の言うとおりね。戦いが終わったからといって、全部が解決したわけじゃないもの」

「おやおや。颯太、ずいぶん景気よく殴られたねぇ」

「アルフレッドさん……笑わないでください……」

「いやぁ、無理だよ。今のは君が悪い」

「同感だね。物事を終わったことにしたいなら、せめて後始末が終わってから言うんだね」

「エドワードさんまで……!」

「何だい。不満かい?」

「い、いえ……」


颯太はそれ以上何も言わず、顔を押さえながら座り直した。

その一方、少し離れた場所では、ガブリエルが夏芽に問いかけていた。


「しかし、夏芽さん。本当に警護隊を辞めるんですか?」

「はい。実は、私だけじゃないんです。ロウさんも退職することになって」


そう言って、夏芽は隣に座っているロウへと視線を向けた。

ロウは全身に負った傷の手当てを受け、静かに座っていた。普段から無口な彼だが、今はいつも以上に動きが少ない。

今回の戦いで、ロウもまた相当に重い傷を負っていた。


「ロウさんもですか……」

「はい。今回のことだけが理由ではありませんけど……これからのことを考えて、二人とも退職することになりました」

「ロウさん……これからは、少しゆっくり休んでくださいね。無理は絶対に駄目ですよ?」


ロウはすずらへと視線を向け、わずかに頷いた。


「……約束ですよ?」


ロウはもう一度、小さく頷いた。


「お前の場合、その頷きがどこまで信用できるかが問題なんだよな……」


ロウは無言でジンドウを見た。


「いや、睨むな。事実だろうが」

「ほんっと、ロウって自分のことになると何も言わないんだから……」

「……私も、人のことは言えませんけどね」

「なっちゃんは特にね!」

「……はい」


即答だった。


「そこは否定しなさいよ!」


夏芽は少しだけ困ったように目を伏せた。

そのやり取りを聞いていたアレクシアは、夏芽の表情を静かに観察していた。

戦いの前と比べれば、彼女の顔には確かな変化があった。

すべての問題が解決したわけではない。

それでも、長い間抱え続けてきたものを、ほんの少しだけ誰かと分け合えたのだろう。


「夏芽」

「はい?」

「これからは、自分のこともちゃんと考えなさい。誰かを守ることばかり優先して、自分を後回しにするのは禁止よ」

「……はい」

「本当に分かっているのかしらね」

「……努力します」

「よろしい」


そう言いながらも、アレクシアの口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。

一方、茶屋の別の一角では、沈博が霧島に声をかけていた。


「親父。他の組の連中の奴らにはなんで説明するんだ?」


霧島は茶を手にしたまま、少し考えるように目を伏せた。


「特に言うことはない。まあ、九条玄斎に全て押し付けるつもりもない」

「……そうか」

「九条が何を考え、何を背負っていたのか。それは俺たちが勝手に決めつけていいことじゃねえ。ただ、あいつがやったことの責任まで、死人に全部背負わせるつもりもない」

「親父らしいぜ」

「そうか?」

「ああ。面倒なことから逃げねえところがな」

「……お前に言われると、褒められてる気がしねえな」

「褒めてんだよ」

「なら、もう少し言い方を考えろ」

「無理だな」


霧島は小さく息を吐いた。

その様子を見ていた紫鈴は、手を口元に当てて笑った。


「フフフ……素直じゃないアルなぁ」

「お前は黙ってろ」

「嫌アル」

「……はぁ」


いつもの調子で言い合う二人を見て、霧島はわずかに口元を緩めた。

その頃、エドワードはというと、源蔵の膝枕でだらりと横になっていた。

燕尾服の裾を気にも留めず、片腕を頭の横に置き、すっかり休憩する気満々である。

外からの声が聞こえる。


「九条玄斎の話題ばかりだよね!」

「そうだね。そのせいなのか、わからないけど、ロウPの新曲も延期しちゃったしね」

「もう!楽しみにしてなのに!」

「まあまあ、それじゃ、気を取り直して…動画再生ランキング発表しますね!」


ミツキの不満そうな声と、ミツキを宥めるコノハの声が聞こえる。

九条玄斎の話題がもう広がっているのかと、少々呆れるものだ。


「……お前さん、本当にくつろいどるな」

「そりゃそうだろう。戦いが終わったんだ。いつまでも気を張っている必要はないさ」

「いや、そういう問題かのう……」

「何だい。不満かい? 膝枕くらいしてくれてもいいだろう」

「別に構わんが……お前さん、もう少し年寄りらしい遠慮というものをだな」

「僕も十分に年寄りだよ。七十歳だ」

「年齢を盾にするな!」

「ははっ」


エドワードは楽しそうに笑った。

源蔵は呆れたように頭を振ったものの、結局、膝を貸したままでいた。

しばらく二人は、周囲の会話を聞きながら静かな時間を過ごしていた。

やがて、源蔵がふと思い出したように口を開く。


「ところで、エドワード」

「ん?」

「お前さんからすると、夏芽と霧島はどんな風に見える?」


エドワードはすぐには答えなかった。

横になったまま、少し離れた場所にいる二人へと目を向ける。

霧島は沈博たちと話をしていた。表情はいつもどおり険しく、口調もぶっきらぼうだ。

その少し先では、夏芽が仲間たちの話に静かに耳を傾けている。時折、美琳に何かを言われて困ったような顔をしながらも、以前より柔らかな表情を浮かべていた。父親と娘。

長い年月を経て、ようやく同じ場所で向き合うことができた二人。


「あ? そうだねぇ」


彼はいつもの調子で、気の抜けた声を出した。


「優しくて、不器用で、普通で、誰よりも素敵な親子だよ」

「……普通、か」

「そう。普通だよ」

「裏社会のボスと、凄腕の剣士がか?」

「肩書きなんて、どうでもいいだろう?」


源蔵は黙ってエドワードの顔を見下ろした。

エドワードは天井を眺めながら、穏やかな声で続けた。


「霧島は、娘を守りたかったんだろうさ。自分がどれだけ嫌われようと、恨まれようとね。自分が傷つくことには慣れていても、娘が傷つくことには耐えられなかった。……まあ、そのやり方が正しかったかどうかは別だけど」

「……ああ」

「一方の夏芽も、自分の父親をずっと気にかけていた。会いたくて、話したくて、きっと言いたいことだって山ほどあったはずだ。それでも、あの子は父親を責めるより先に、抱きしめた」

「……本当に、よく似た親子じゃのう」

「そうだね。お互いに相手を大事にしすぎて、肝心なところで不器用になる。まったく、面倒な連中だよ」

「お前さんが言うと、説得力があるのう」

「おや。僕はあんなに不器用じゃないよ」

「どの口が言うんじゃ」

「この口だよ」

「まったく……」


源蔵は呆れながらも、どこか楽しそうに笑った。

エドワードもまた、口元に小さな笑みを浮かべる。

そして、もう一度だけ夏芽と霧島の方を見た。

二人の間には、まだ埋めなければならない時間がある。

謝らなければならないことも、伝えなければならないことも、きっと残っている。

それでも、これから先の時間は二人で積み重ねていける。


「……ま、これからだろうね」

「何がじゃ?」

「親子ってのは、再会して終わりじゃない。そこからまた、始まるんだよ」


源蔵は静かに頷いた。


「……そうじゃな」

「だから今くらい、休ませてくれよ。僕はもう疲れた」

「さっきまで人の膝でだらけとったじゃろうが!」

「それとこれとは別さ」

「都合のいい男じゃのう!」

「よく言われるよ」


二人のやり取りに、近くにいた何人かが思わず笑みをこぼした。

戦いは終わった。

だが、誰もが抱えている問題が、すべて消えたわけではない。

それでも今、この茶屋には、確かに安らげる時間が流れていた。


「……いい親子だな」

「そうだね」

鷹司は茶を一口飲み、静かに夏芽と霧島を見つめた。


「いい親子だね」

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