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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第3章
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間羅の国編25話「当然だよ」

エドワードは、その一瞬を逃さなかった。


「――そこだ!」


刀を振り抜く。

玄斎は身体を捻ってかわすが、完全には避けきれず、着物の袖が切り裂かれた。

だが、玄斎は止まらない。


「……!」


即座に反撃へ移る。

しかし――。


「させないよ」


エドワードが再び間合いへ入った。

ガキィンッ!

玄斎の刀を受け止める。


「……!」


玄斎が横へ動く。

エドワードも追う。


右へ、左へ。

後ろへ下がれば、一歩詰める。

踏み込めば、その瞬間に刀を合わせる。

玄斎が攻撃へ転じるための時間を、一切与えない。


「……見事だ」


玄斎が呟いた。


「だが――」


玄斎の身体が突然沈む。


「!」


エドワードの目が見開かれる。

次の瞬間、玄斎が低い姿勢から一気に踏み込んだ。


「――!」


エドワードは咄嗟に刀を下げる。


ギィンッ!


強烈な一撃。

腕が痺れる。

それでもエドワードは退かなかった。


「……まだだ!」


刀を押し返す。


「僕が退いたら――」


玄斎の刀を弾く。


「君は、また誰かを傷つける!」


さらに一歩。


「だから……!」


エドワードの刀が玄斎の刀を絡め取るように滑る。


「ここから先へは――」


玄斎の懐へ踏み込む。


「行かせない!」


その瞬間、玄斎の動きが止まった。

ほんの一瞬。

だが、エドワードにとっては十分だった。


「今だ!」


鷹司が動く。


「――任せろ」


鷹司が玄斎の側面へ回り込む。

玄斎は即座に反応し、二人を同時に捉えようとする。

しかし――。

エドワードは再び前へ出た。


「鷹司、今だ!」

「分かっている」


二人の刀が、ほぼ同時に玄斎へ迫る。

玄斎は辛うじて受け止めた。


ガァンッ!


「……!」


玄斎の足が、初めて僅かに後退する。

それを見た花都が息を呑む。


「……押した?」


源蔵が拳を握る。


「ようやくじゃ!」


霧島も静かに玄斎を見据える。


「……あの男、強いだけじゃない」


夏芽が父を見る。

霧島は続けた。


「自分が倒れるまで、相手に考える時間すら与えないつもりだ」


エドワードは息を荒くしながら、それでも刀を下ろさない。

玄斎を見据える。


「……どうした?」


口元に、いつもの不敵な笑みが戻っていた。


「まだ僕に問い足りないんじゃないのかい?」


玄斎は黙ってエドワードを見つめる。

そして――ゆっくりと刀を構え直した。


「……ならば、最後の問いだ」


エドワードの目が細くなる。

玄斎は静かに問う。


「お前は――何のためなら、命を懸けられる?」


エドワードは、玄斎の問いを聞くと――しばらく黙っていた。

荒い呼吸を整えながら、刀を握る手に力を込める。

そして、静かに顔を上げた。


「僕は――」


青い瞳が、真っ直ぐに玄斎を捉える。


「守りたいと思った人たちのためなら、何度だって命を懸けるさ」


一歩、踏み込む。


「それが僕の選んだ生き方だからね」


エドワードは刀を構え直す。


「……だから君には負けない」


そして、いつもの不敵な笑みを浮かべた。


「何度でも立ち上がってやるよ」


玄斎は、エドワードの答えを聞いても何も言わなかった。

ただ、その瞳だけが静かにエドワードを見据えている。


そして――。


「……そうか」


玄斎が刀を構え直した。


「ならば、最後まで問おう」


エドワードも刀を握り直す。


「来い」


二人が同時に踏み込んだ。

ガァンッ!!


激しい金属音が廊下を震わせる。

玄斎の一撃。

エドワードが受ける。

二撃目、受け流す、三撃目。

エドワードが踏み込み、逆に玄斎の間合いへ入り込む。


「――ここだ!」


刀が交差する。

しかし玄斎は、それすら読んでいた。

エドワードの刀を弾き、身体を回転させる。


「!」


玄斎の刀が迫る。


だが――。


「させるか!」


鷹司が横から割り込んだ。

玄斎の刀を受け止める。


「鷹司!」

「気にするな。お前は前だけ見ていろ」

「……言われなくても!」


エドワードが踏み込む。

玄斎は二人を相手にしても、一歩も引かない。

そこへ――。


「私ちゃん達も忘れないでよね!」


花都と治郎が飛び込む。

玄斎が治郎の攻撃をかわす。


「そろそろ終わらせましょう」

「おおおっ!」


源蔵も続く。

霧島も、傷を負った身体を引きずりながら前へ出た。


「……終わらせる」


夏芽も刀を握る。


「私も……!」


玄斎は迫り来る全員を見渡した。

それでも、退かない。むしろ――笑った。


「これが……お前たちの強さか」


その瞬間。

玄斎の身体が大きく踏み込む。


「――ならば、全て受けてみせよう!」


凄まじい一撃が放たれた。

エドワードが真正面から受ける。


「ぐっ……!」


足が床を滑る。

鷹司が支える。


「エドワード!」

「まだだ……!」


エドワードは刀を押し返す。

その瞬間、玄斎の身体が僅かに崩れた。

ほんの一瞬。

だが――。


「今じゃ!」


源蔵が叫ぶ。

花都と治郎が動く。

霧島も続く。


そして最後に――夏芽が踏み込んだ。


「――お父さんを、もう苦しませない!」


夏芽の刀が、玄斎の刀を弾き飛ばした。


カラン――。


刀が床へ落ちる。

玄斎は静かに立ち尽くした。

誰も動かない。

長い沈黙の後、玄斎は自分の空になった手を見つめた。


「……負け、か」


エドワードは刀を下ろした。


「そういうことだね」


玄斎はエドワードを見る。


「お前は……最後まで、誰かを守ることを捨てなかった」


「当然だよ」


エドワードは疲れ切った顔で、それでも笑った。


「僕はもう、一人で戦うつもりなんてないからね」


鷹司が隣で小さく息を吐く。


「ようやく分かったか」

「何が?」

「一人で格好をつける必要などないということだ」

「……君にだけは言われたくないな」


花都が思わず吹き出す。


「こんな時までそれ言う!?」


源蔵も笑った。


「まったくだ」

「ですが、あなた達らしい」


霧島は何も言わず、夏芽を見る。

夏芽も父を見る。

そして――玄斎はゆっくりと目を閉じた。


23年間、追い続けてきた「絶対的な強さ」。

それが何だったのか。

ようやく、ほんの少しだけ理解したようだった。

その場に、静かな風が通り抜けた。

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