間羅の国編24話「二度目はない」
九条玄斎は、目の前に集まった全員を静かに見渡した。
エドワード、鷹司、源蔵、花都、霧島、そして夏芽。
これだけの人数が揃っている。
普通なら、圧倒的に有利なはずだった。
だが――。
玄斎が一歩踏み出した。
「――来い」
その瞬間だった。
「――ッ!」
玄斎の姿が、一瞬で視界から消えた。
「速い!」
花都が反応した直後、玄斎はすでに彼女の懐へ入り込んでいた。
「花都!」
源蔵が叫ぶ。
花都は咄嗟に身を引く。
しかし、玄斎の刀が目の前を通過する。
花都は紙一重でかわした。
「……っ!」
その隙に源蔵が前へ出る。
「おおおっ!」
源蔵が力強く踏み込む。
だが――玄斎はその一撃を受け止めることすらしなかった。
身体を僅かにずらし、源蔵の攻撃を完全に空振りさせる。
「なっ――」
そのまま源蔵の懐へ入り込む。
「ぐっ……!」
源蔵が吹き飛ばされた。
「源蔵!」
エドワードが動く。
だが、その瞬間には玄斎がすでにエドワードへ向かっていた。
「――!」
ガキィンッ!
エドワードの刀と玄斎の刀がぶつかる。
一撃、二撃、三撃。
エドワードは必死に受ける。
しかし――押されている。
「……くっ!」
鷹司が横から斬り込む。
玄斎はそれすら読んでいた。
身体を回転させ、鷹司の刀をかわす。
「……!」
鷹司の目が細くなる。
「読まれている……」
玄斎は二人の間を抜けた。
その動きに一切の無駄がない。
霧島が玄斎の進路を塞ぐ。
「――止まれ」
玄斎は足を止めた。
霧島と玄斎の視線がぶつかる。
霧島は拳を握る。
「ここから先は、俺が相手だ」
玄斎は静かに問う。
「お前も強さを求めるのか?」
「違う」
霧島は淡々と答えた。
「娘と一緒に帰るだけだ。そして、お袋の墓参りをする。それだけだ」
玄斎が踏み込む。
霧島は迎え撃つ。
だが――。
「――!」
一瞬だった。
霧島の身体が弾き飛ばされる。
「お父さん!」
夏芽が駆け出そうとする。
「来るな!」
霧島が叫ぶ。
しかし玄斎は、すでに夏芽へ視線を向けていた。
「……お前もか」
夏芽は刀を抜く。
「……はい」
玄斎が構える。
夏芽も構えた。
その瞬間――。
エドワードが低く呟いた。
「……おかしい」
鷹司が横目で見る。
「何がだ?」
「強すぎる」
エドワードの表情から、余裕が完全に消えていた。
「こいつは……ただの剣士じゃない」
玄斎の身体能力、反応速度、判断力。
そして、異常なまでの持久力。
まるで――人間の限界そのものを無視している。
エドワードは玄斎を見据える。
「……あの薬の影響か」
玄斎は答えない。
ただ刀を構える。
そして――。
再び、全員へ向かって踏み込んだ。
エドワードは、九条玄斎に一瞬たりとも隙を与えなかった。
玄斎が踏み込めば、エドワードも踏み込む。
刀が交わる。
弾かれる。
それでもエドワードは退かない。
「――ッ!」
玄斎が横へ回り込もうとする。
その動きを読んだエドワードが先に間合いを詰めた。
ガキィンッ!
玄斎の刀を受け止める。
そのまま押し返す。
九条玄斎が踏み込んだ、その瞬間――。
「――させるか!」
エドワードが前へ出た。
ガキィンッ!
玄斎の刀を真正面から受け止める。
そのまま押し返すことはしない。
玄斎が次の動きへ移ろうとした瞬間、エドワードが刀を滑らせ、進路を塞ぐ。
「……!」
玄斎が横へ動く。
だが、エドワードも同時に動いた。
一歩。また一歩。
玄斎が距離を取ろうとすれば詰める。
斬り込もうとすれば受ける。
反撃しようとすれば、さらに先に刀を置く。
徹底している。
九条玄斎に――一瞬たりとも隙を与えない。
「ほう……」
玄斎が初めて僅かに目を細めた。
エドワードは息を乱しながらも、玄斎から視線を外さない。
「君がどれだけ強かろうと……」
玄斎が刀を振る。
エドワードは受け流す。
「僕がここで止まったら、後ろにいる人たちが危険になるんでね!」
再び踏み込む。
「ならば、お前はいつまで持つ?」
玄斎が問いかける。
エドワードは答えない。
ただ斬る、受ける、弾く。
そしてまた斬る。
玄斎が攻撃に転じるたび、エドワードがその動きを潰していく。
「……!」
鷹司がその光景を見ていた。
「なるほど……」
源蔵も息を呑む。
「エドワードの奴……」
花都が続ける。
「ずっと玄斎を押さえ込んでる……!」
霧島も治郎も黙って見ていた。
エドワードは明らかに限界に近づいている。
それでも退かない。
「……僕はね」
玄斎の刀を受け止めながら、エドワードが低く呟く。
「さっき、一度負けたんだ」
玄斎が押し込む。
「だから――」
エドワードは踏み込んだ。
「二度目はない!」
刀が激しくぶつかる。
玄斎の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。
その僅かな瞬間を――エドワードは決して逃さなかった。




