間羅の国編18話「絶対に……許さないから」
「仲間思いはいいことだ、美琳」
沈博は静かにそう言った。
美琳はバイザー越しに兄を睨みつける。
「うるさい、バカ兄貴」
その瞬間だった。
美琳がサイバー銃を抜き、沈博へ向けて発砲する。
「っ!」
沈博は身体を僅かに傾け、飛んできた攻撃をかわした。
同時に紫鈴が動く。
「来るアル!」
ジンドウが大型サイバー砲を構え、すぐさま援護に入った。
「ロウ!」
ロウが短く頷く。
大きな身体が一気に前へ出る。
美琳はバイザーに表示される情報を次々と確認しながら、射撃位置を変えていく。
「そこ!」
しかし――。
沈博は美琳の射撃をことごとくかわしていく。
「嘘でしょ……!」
美琳が舌打ちする。
弾道補正、予測射撃、電子解析。
美琳が得意とする技術を最大限に使っている。それでも沈博は、まるで最初から攻撃の軌道を読んでいるかのように動いていた。
「美琳!」
ジンドウが叫ぶ。
紫鈴が一瞬で距離を詰めていた。
「悪いアルね!」
美琳が身を翻してかわす。
だが、その直後――。
「ぐっ!」
ジンドウの大型火力支援ユニットが弾かれた。
「なに……!?」
ジンドウが体勢を崩す。
そこへロウが割って入り、紫鈴の動きを止める。
ロウは無言のまま周囲にあった棒状の器具を掴み、紫鈴へ振り下ろす。
紫鈴はそれを受け流した。
「……やるアルね」
ロウの暗い琥珀色の瞳が鋭くなる。
しかし――。
紫鈴は一歩も引かない。
ロウが攻撃の間合いを変えるたび、紫鈴は正確に対応していく。
その一方で、沈博は美琳とジンドウを相手にしていた。
「くそっ!」
ジンドウが防御シールドを展開する。
沈博は正面から無理に突破しようとはしなかった。
一瞬だけ視線を動かし、シールドの弱い部分を見抜く。
「そこか」
「なっ――!」
衝撃でジンドウが後ろへ下がる。
美琳がすぐに射撃する。
だが、沈博はその射線から離れながら、美琳との距離を一気に詰めた。
「速――」
美琳が言い終わる前に、武器を持つ手を押さえられる。
「兄貴……!」
「無理をするな、美琳」
「誰が……!」
「兄貴が妹を可愛がるのは当然だろ」
美琳は強引に振りほどき、後ろへ飛び退く。
その表情には悔しさが浮かんでいた。
「……強すぎるでしょ、バカ兄貴!」
「お前も強くなったな」
「上から目線で言うな!」
美琳が再び銃を構える。
しかし、状況は明らかだった。
美琳たちは一人ひとりの能力こそ高い。
だが、沈博と紫鈴は、それを上回る実戦経験と技術を持っている。
ジンドウの火力支援も、ロウの近接戦闘も、美琳の電子戦も、決定打にならない。
そして――。
すずらは後方から全員の状態を確認していた。
「……みなさん、少し下がってください」
穏やかな声だった。
だが、その表情はいつもの柔らかなものではない。
「このままでは、怪我をしてしまいます」
大和も息を切らしながら構える。
「……俺も、まだやれる」
美琳が横目で大和を見る。
「無茶しないで!」
「お前に言われたくない!」
「私はいいの!」
「よくないだろ!」
そのやり取りの間にも、沈博と紫鈴は静かに構えていた。
沈博が美琳を見る。
「美琳」
「何よ」
「まだ続けるか?」
美琳は銃を握り直した。
「当たり前でしょ」
そして、五人は再び身構えた。
沈博と紫鈴を相手に――戦いはまだ終わっていなかった。
戦いは続いていた。
美琳が電子解析を駆使して射撃を続け、ジンドウが後方から援護する。大和も必死に動き、すずらは全員の位置を確認しながら隙を探していた。
そして、ロウは一人で紫鈴の前に立っていた。
無言のまま、周囲の道具を拾っては即座に武器として使う。
紫鈴の攻撃をかわし、受け流し、距離を詰める。
これまで何度もそうしてきた。
だが――。
「……!」
ロウが一瞬、動きを止めた。
紫鈴はその僅かな隙を見逃さなかった。
次の瞬間、ロウの身体が大きく弾かれる。
「ロウ!」
ジンドウが叫ぶ。
ロウは壁際まで飛ばされ、そのまま床へ倒れ込んだ。
「……っ」
いつもなら、すぐに立ち上がる。
しかし今回は違った。
ロウは起き上がろうとして、片腕に力を込める。
だが――身体が動かない。
「ロウさん!」
すずらが駆け寄る。
ロウの呼吸は荒く、意識も明らかに弱っていた。
すずらはすぐに状態を確認する。
「……動かないでください」
いつもの柔らかな声だった。
しかし、その目だけは真剣だった。
「かなり危険な状態です。今すぐ処置が必要です」
「ロウ!」
ジンドウが駆け寄ろうとする。
だが、沈博がその前に立ちはだかった。
「……通すわけにはいかない」
「どけ!」
ジンドウが怒鳴る。
沈博は動かない。
その間に、美琳が兄へ銃を向けた。
「兄貴……!」
声が震えていた。
「そこをどいて。じゃないと――」
沈博は黙って美琳を見る。
「……撃つ」
美琳の指が引き金にかかる。
一方、床に倒れたロウは、僅かに顔を上げた。
「……あ」
「喋んな!」
ジンドウが叫ぶ。
すずらはロウのそばで応急処置を始める。
「大丈夫です。わたしがいますから。今は動かないでくださいね」
ロウは返事をしない。
ただ、すずらの指示に従うように目を閉じた。
ジンドウは拳を強く握りしめる。
「……くそっ」
これまで何度も危険な場所を一緒にくぐり抜けてきた。
どれだけ追い詰められても、ロウだけは倒れなかった。
そのロウが――今、動けない。
美琳もそれを見て、唇を噛んだ。
「……兄貴」
沈博は何も言わない。
美琳の表情が変わる。
「絶対に……許さないから」




