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喫茶店ローズ  作者: 環状線在住送り犬
喫茶店ローズ第3章
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間羅の国編17話「敵!」

カチッ、と響いた機械音に、全員が身構えた。

しかし――。


「……?」


数秒待っても、何も起こらなかった。

扉が開くわけでもない。誰かが飛び出してくるわけでもない。罠が作動する気配すらない。

エドワードは目を細めたまま、扉へ近づく。


「……なんだ。何もないじゃないか」

「いや、警戒はしといたほうがいいって」


花都が周囲を見回しながら言う。

美琳もバイザーを操作し、建物内部を確認する。


「……反応はある。でも、攻撃用のシステムが起動した感じじゃない」

「じゃあ、あの音はなんだったんだ?」


ジンドウが低く尋ねる。


「さあ。古い機械が勝手に動いたんじゃない?」

「お前、さっきから適当だな……」

「適当じゃない。分からないだけ」


美琳が淡々と言い返す。

そのやり取りを横目に、エドワードは扉の取っ手へ手を伸ばした。


「まあ、入れば分かるだろ」

「エドワードさん、待ってください!」


すずらが声を上げる

だが、エドワードはすでに扉を開けていた。

ギィ……。

拍子抜けするほど普通の音がした。


「……開いた」


夏芽が呟く。


「そうみたいだね」


エドワードは中を覗き込み、それから肩をすくめた。


「見たところ、普通の建物だ」

「普通に見えるのが一番怪しいんだけどね」


美琳が続いて中を確認する。

内部は外観と同じく、古い日本家屋を思わせる造りだった。木の廊下に、障子、古びた柱。ところが、ところどころに小型の電子端末が埋め込まれている。


古い建物と最新の機械。

その妙な組み合わせだけが、この場所の異様さを物語っていた。


「……本当に誰もいないね」


夏芽が小さく言う。

源蔵がゆっくりと中へ入る。


「じゃが、誰かが使っておる気配はあるのう」

「そうだね」


治郎も後ろから入ってくる。

花都、大和、ジンドウ、ロウ、すずらも続き、最後に美琳が入口付近を確認してから中へ入った。

エドワードは廊下の奥を見つめる。


「さて……」


白い手袋を整えながら、静かに呟いた。


「何が出てくるかな」


夏芽は少し緊張した表情で、その背中を見つめる。


「……エドワードさん」

「ん?」

「私も、ちゃんとついていきます」


エドワードは振り返ると、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「それでいい。勝手に先へ行かなければね」

「はい」


その直後。

廊下の奥から――。

コツン。


小さな音がした。

全員の視線が、一斉に奥へ向いた。

廊下の奥から聞こえた音を追い、エドワードたちは一つの部屋へたどり着いた。


エドワードが襖に手をかける。


「ここか」


静かに開いた、その瞬間だった。


「――ッ!」


影が二つ、部屋の奥から一気に飛び出してきた。

エドワードは即座に身を引き、飛来した攻撃をかわす。隣にいた花都も反応し、夏芽を庇うように前へ出た。


「なっ……!」


ジンドウが構え、ロウも無言のまま身を低くする。

美琳は反射的に武器を構えた。


「敵――!」


しかし、攻撃してきた二人の姿を見た瞬間、美琳の表情が凍った。


黒い服に身を包んだ長身の男。

そして、その隣には紫色の長髪を揺らす女性。

美琳は目を見開く。


「兄貴……!」


男――沈博は、美琳を見ても表情を変えなかった。


「……美琳」


その声を聞いた瞬間、美琳の手が僅かに震える。


「なんで……兄貴がここに……?」


隣にいた紫鈴が眼鏡を押し上げる。


「まさか、こんなところで会うとは思わなかったアル」

「紫鈴まで……」


夏芽が二人を見ながら困惑する。


「知り合いなの?」

「知り合いどころじゃない!」


美琳が声を荒らげる。


「兄貴だよ! 私の――」


そこまで言って、美琳は口を閉じた。

沈博は静かに美琳を見つめている。

エドワードはそんな二人を交互に見て、白い手袋を整えた。


「……なるほど」


その目が鋭くなる。


「君が、美琳の兄か」


沈博はエドワードへ視線を移した。


「そうだ」


短い返答。

紫鈴がため息をつく。


「いきなり攻撃する必要あったアルか?」

「先に入ってきたのは向こうだ」

「それはそうだけどネ」


美琳はまだ武器を下ろせないまま、沈博を睨んでいた。


「兄貴……ここで何してるの?」


沈博はしばらく黙っていた。

そして、低い声で答える。


「……それを話すために、ここにいる」


エドワードの目が細くなる。

どうやら、この建物には偶然ではなく、彼らがここへ来る理由があったらしい。

美琳は沈博を睨みつけたまま、しばらく黙っていた。


やがて、意を決したように振り返る。


「……行ってよ」


エドワードたちが一斉に美琳を見る。

美琳は夏芽、エドワード、花都、治郎、源蔵を順番に見た。


「ここは私がなんとかするから!」

「美琳……」


夏芽が心配そうに声をかける。

しかし、美琳は首を横に振った。


「大丈夫。兄貴のことは、私が話をつける」

「だが――」


エドワードが口を開く。

すると、美琳は強い口調で遮った。


「お願いだから行って!」


その声には、普段の強気な態度とは違う切実さが混じっていた。

花都が腕を組み、沈博と紫鈴を見る。


「……私ちゃんとしても、ここは美琳に任せたほうがよさそうだね」


治郎も静かに頷く。


「そうですね。彼女にしかできない話もあるでしょう」


源蔵も美琳を見つめる。


「無茶はするでないぞ」

「分かってる」


エドワードは少し黙ったあと、美琳へ視線を向けた。


「……死ぬなよ」


「誰に言ってんの」


美琳は苦笑する。


「私を誰だと思ってるの?」


エドワードはそれ以上言わなかった。

夏芽たちが廊下へ向かおうとした、そのときだった。


「待ってくれよ!」


大和が声を上げた。

美琳が振り返る。


「俺も残る!」

「大和?」


夏芽が驚く。

大和は拳を握りしめた。


「俺も手伝うから。美琳一人じゃ危ないだろ」


美琳はしばらく大和を見つめた。

そして――。


「引っ込んでよ!」

「えっ」

「……あんた弱いんでしょ!」


あまりにも真っ直ぐな一言だった。

大和が固まる。


「…………」


花都が思わず顔を背ける。


「うわぁ……」


治郎も何も言わない。

源蔵だけが静かに目を閉じた。


「大和……」

「じいちゃんまでその顔するなよ!」


大和は悔しそうに叫ぶ。

美琳はため息をついた。


「別に馬鹿にしてるわけじゃない。今のあんたじゃ、この場に残っても足手まといになる」

「……」

「だったら、なっちゃん達と一緒に行って」


大和は唇を噛んだ。

だが、やがて小さく息を吐く。


「……分かった」


しかし、エドワードが廊下へ向かおうとしたところで、大和がもう一度口を開いた。


「……いや」


美琳を見る。


「俺は残る」

「は?」

「弱いのは分かってる。でも、だからって逃げる理由にはならないだろ」


美琳は一瞬だけ目を見開いた。


「……勝手にすれば」

「そうする」


こうして、エドワード、夏芽、花都、治郎、源蔵は先へ進むことになった。

部屋に残ったのは――美琳、ジンドウ、ロウ、すずら、そして大和。

沈博と紫鈴を前に、美琳はゆっくりと武器を構え直した。


「……さて、兄貴」


沈博は黙って美琳を見る。

美琳の目が鋭くなる。


「今度こそ、ちゃんと話してもらうからね」

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