12話
凛々しい女は思い出すように何かを考えていた。
その表情には、どこか後悔の色が滲んでいる。
「あの時……自己紹介してなかったね」
そう言って彼女は、周りが黄色く変色した古い写真を取り出した。
「私の名前はリン。……それから、背の高いのがカイ、この子がミナ、で、こっちがレイ」
カズヤは短く頷いた。
「……リン、カイ、ミナ、レイ。ありがとう。覚えておくよ」
名前を一つずつ、心の中で繰り返す。
歩く足音と共に、その名が静かに胸の奥に染み込んでいく。
拠点に近づくと、冷たい鉄のドアをリンが開けた。
中に入ると、さっき出た時より内装は大きく変わっていて、暖かい空気が満ちていた。
知らない人や知っている人が行き交い、活気にあふれている。
ミカがカズヤに声をかけた。
「カズヤ……都市はどうだった?」
カズヤは答えた。
「人がいっぱいいて……肉が美味しかった……建物もすごかった」
ミカやリンは困惑したように顔を見合わせ、ミカがぽつりと言った。
「そう……それは良かった」
ミカは地下鉄駅の片隅へとカズヤを案内した。
そこには錆びついた鉄製の二段ベッドが幾つか並び、上段には仲間たちの穏やかな寝息がかすかに響いていた。
狭い空間は冷たい鉄の床と壁に囲まれているが、どこか守られているような安心感があった。
「ここが君の寝床よ」
ミカは短く告げ、そっと毛布を手渡す。
「二段ベッドの下段が空いてるから、そこを使って」
カズヤはゆっくりとベッドに体を沈めた。
狭いながらも、この場所なら少しだけ安らげる気がした。
周囲の微かな話し声や寝息が、孤独を和らげてくれるように思えた。
ミカは背を向けながら、ふと振り返り言った。
「よく歩いたから、今日はゆっくり休んで」
カズヤは小さく頷き、毛布を引き寄せる。
暗がりの中、遠くで響く仲間の声がどこか懐かしく、温かく感じられた。
その夜、カズヤは小さな二段ベッドに横たわっていた。
ミナが持ってきてくれた毛布は、ほんのり甘い匂いがして、心を少し落ち着かせる。
やがて部屋の明かりが落ち、闇が静かに降りてきた。
───
夢の中。世界は崩れていた。




