五章・4
沙耶さんといた時間は意外と長く、喫茶店を出たときには、陽はもう傾きかけていた。
お店を出て、お別れだなと思っていると、沙耶さんが「あの、最後に一つだけ」と言った。
「お姉ちゃんは、今かばんは何を使っていますか?」
「かばん? えっと、リュックを使っているよ。ええっと……」
僕は幡宮が持っていたリュックの特徴を思い出しながら言った。
「あ、使ってくれてるんだ、お姉ちゃん……」
「あの?」
「ああ、ええっと、わたしがプレゼントしたリュックなんです。そのリュック」
「そうなんだ」
「はい。お姉ちゃんの十五歳の誕生日に。会えなかったけれど、何か贈りたいと思ったので」
「大事に使ってたよ。片手がなくても、使いやすいって言ってた」
「そうですか。……よかった」
沙耶さんは、小さな声で、だけどとても嬉しさの詰まった声で言った。
「それじゃ、あの、今日はありがとうございました」
「あ、うん、こっちこそ」
「はい。それでは、さようなら。……あ、最後にもう一つだけ!」
「え? なんですか?」
「ライトは元気です。そう伝えておいてください」
なんのことだろう。そう思ったけれど、深く聞くことはやめておいた。あくまで言伝を頼まれただけだ。
「……はい、わかりました」
それに、それを幡宮に伝えた時に、本人から直接聞こうと思って。
「それでは今度こそ、さようなら」
沙耶さんはそう言って、歩いて行った。
後姿も幡宮そっくりだけれど、歩きかたとかはやっぱり違った。
結局、僕はこれからどうすればいいのか。沙耶さんを見送ってから一人で考えた。
沙耶さんと話している間に、何か思いつくかもと思っていたんだけれど、逆に僕の無力を思い知った。
まあ、それを知れただけましかな。
そう思わないとやっていけない。
僕も帰ろうと、駅に足を向けた。
そうして歩いている間も、いろいろ考えていた。
いろいろ考えて、考えて、そう言えばと、あることに思い至った。
彼女は誰にも助けを求めないし、甘えない。
だけれどそれじゃあ、どうして彼女は僕に取引を持ち掛けてきたんだろうか?
あれは、助けを求めていると言ってもいいものだと思う。
いじめられても助けを求めない彼女が、どうしてあのことに関しては僕に助けを求めたのか。
僕からしてみれば、どっちも同じくらいにしんどいことだと思うのに。
やっぱり彼女のことは、よく、わからない。




