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四章・1

 友達になったとはいえ、僕と幡宮が学校で話すことはなかった。


 ただ、メールのやり取りの数は日に日に増えていった。

 取りたてて語ることのない、普通のやり取り。普通の友達みたいなやり取り。


 僕はなんだかんだで、そのやり取りが楽しくなっていた。そのメールが、毎日の楽しみのようになってきていた。


 金曜日には、週末の予定が送られてきた。


 予定と言っても、待ち合わせの時間と場所だけ。詳しい内容は全く書かれていない。

 まるでスパイの指令書みたいだけれど、それでもいい。


 きっと僕は、文句を言いつつも、幡宮との時間を、週末を、楽しむのだろうから。



                   ○



 「あいかわらず早いね君は。前日入りしているの? おはよう、幡宮さん」


 「君こそ懲りないね。わたしより先には絶対来られないよ。おはよう、吉野くん」


 待ち合わせ時刻の四十五分前に来たのに、彼女はもうすでにそこにいた。僕が待ち合わせの時間ぴったりに来ていたらどうするつもりだったんだろう。一度待ち合わせの時間のギリギリに来ようかと思ったけれど、彼女がかわいそうなのでやめた。


 「というかその恰好は何?」


 彼女は、リュックこそいつもと同じだったけれど、着ているものと履いているものが違った。

 彼女は動きやすそうなジャージを着て、運動をするようなスニーカーを履いていた。


 「まさかスポーツでもする気になったの?」


 「そうだよお。その通りい。だあいせえいかあい」


 「え? 本当に?」


 冗談半分で言ったつもりなのに。


 「走るの苦手って言ってたんじゃ?」


 「そお、それえ!」


 彼女は我が意を得たりとばかりに声を上げた。


 「何が?」


 「わたしさあ、この前吉野くんとしゃべった時に、走るの苦手って言ったじゃん?」


 「うん、聞いた」


 だから幡宮が運動するっていうのはおかしいと思ったんだけど。


 「でさあ、わたしは障害に甘えないっていう信念があるのに、走るのが腕のせいで苦手ってのはだめだと思ったんだあ」


 「いや、だめではないと思うんだけど」


 むしろ仕方ないことだと思うんだけど。


 「いいや、だめだね! それは自分に負けたってことだから!」


 力のこもった声で彼女は言った。


 まあ彼女がそう思うのならそうなのだろう。僕がなんやかんや言うことじゃない。


 「それにこの前のバスケ見て、わたしも頑張らなくっちゃって思えたんだあ」


 「へえ」


 「それでねえ、今日は走る練習をしようと思うんだあ」


 「はあ、そう」


 だからジャージなんだ。


 「でも走る練習ってどこでやるの?」


 「何駅か行ったところに運動公園があるから、そこで」


 なるほど。そこは僕も行ったことがある。といっても小学生くらいの時か。遠足か何かで。

 まあまあ広いし、それに芝生の広場があったはずだ。そこは走る練習にはちょうどいいかもしれない。


 僕たちはいつものように電車に乗った。


 「ところで僕は何をすればいいの?」


 見てるだけでいいのならとても楽なんだけれど。


 「うーん、えっとねえ、君にはトレーナー? コーチ? をしてほしいんだよお」


 「は? コーチ?」


 「うん。だって吉野くん、走るの得意でしょお?」


 彼女のその言葉に、僕はどきりとした。


 「な、なんでそう思うの? 僕は、だって運動部に入っているわけじゃないし、体育の時だって、全然」


 「体育の時、君本気じゃないでしょ」


 ますます、僕はドキッとした。


 「い、いや? 僕はいつでも頑張って走ってるけど」


 「うっそだあ。普段の体育だけじゃないね。体力測定の時もお、体育祭の時もお、君は手を抜いているでしょお?」


 幡宮はにやにやしながらそう聞いてきた。その声にはほとんど確信があった。


 な、なんで? 幡宮は、なんで?


 「なんで……知ってんの?」


 「あああああ、やっぱりそうなんだあ」


 彼女は自分の予想が当たったのが嬉しかったのか、にやあっと笑みを深めた。


 「何で知ってるのかって、見てればわかるよお、そんなのお」


 「な、だって、ええ?」


 あまりのことに、僕は混乱していた。


 幡宮の言う通り、僕は普段走ったりするときは手を抜いている。それもあからさまじゃなく、わからない程度に。


 理由は……目立ちたくないから。


 たぶん本気で走れば、僕は運動部の優や須藤君よりも速く走れる。短距離でも長距離でも。


 だけれどそれで彼らに勝ったりしたら、目立ってしまう。それにもし彼らが悔しさから僕を逆恨みなんかしてきたら、僕の立場が危うくなる。それは困る。


 だから、僕は走る時、手を抜いている。


 「でも、それがばれると面倒だから、すごく気を遣って手を抜いているのに、何で君は見ぬけたの?」


 「いやあ、なんでだろうねえ」


 「なんでなんだよ」


 「ひいみいつうう」


 彼女はそう言うと口を閉ざしてしまった。


 その後僕が聞いても何も答えず、とうとう駅についてしまった。


 「まあとにかく、吉野くんは走るのが得意なわけだし、わたしにコツとかを教えてよお」


 そういうわけで、僕は彼女の、一日コーチに任命されてしまった。どういうわけなんだろう?


 僕は流されやすい性格なのかもしれない。

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