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41 竜との盟約

その日は快晴で

冬が迫ろうと言うのに

暖かい陽がバルコニーを包んでいて

遥かに高い所に浮かぶ雲は

とても早く流れていった。


午前の早い時間から魔術の

基礎訓練が日課なのだけれど…


どうやら私を作った神とやらは

とても陰湿な様で

私には孤独に生きる事を望んだらしい。


有り余る程の魔力や力が意図しない

牙となって簡単に周りを傷つけたのだ。


実は魔力は無尽蔵と言える程にあって

発動すれば加減すら難しい程で、

その制御を学ぶのに

大半の時間を取られた。


魔力を極限まで絞る基礎訓練を

数年間続け今では適切な魔力量に

コントロールする術を身につけたが、

それは今も変わらず続けている。


人族やエルフ・魔族が生み出した

魔法はその規模が彼らに合わせてある為

私が方式だけ真似ても

発動せず暴走に近い形になる事が多い。


しかし古代から伝わる術の中には

どれほど魔力を込めても

耐えうる術式も存在した。


実践を元にその場で

良く整備された石畳に座って

石筆を使い式を組み立てる。


100年を超える長い時間の間に

暇を持て余した私は

数十のオリジナル魔術を

生み出す事に成功したが

たった一つを除いて全力で魔力を

注いで発動しても良い魔法は

ついに出来なかった。


しかしそれらは

どれもその後の世界の基礎魔術を

構築するものとしては十分だった。


昼には給仕が運ぶ季節の森の恵みを

取り入れた軽食が用意され

食後の講義の後は

ほんのりと甘い小麦の菓子を

無表情で頬張って、

花の香りのお茶で流し込む。


太陽が真上を過ぎた頃を差し

続く先には黒く濁った雲が広がる。


バルコニーに出ると

雨を含んだ冷たい風と

暖かな陽射しが同時に私を包んだ。


その時

私はピクリと眉を釣り上げ

咄嗟に立ち上がる。


透き通った虹色の瞳で

雲の先をじっと見つめる。



『…雲の中に何か居る。』



ーーーーーーーーーーーー


元々この辺りは彼らの

縄張りであったらしく、

300年ほど前にふらりと立ち寄った

創造神の信徒の1人である

旅人フリナが土地を鎮めたと言われる。


その後山を切り開いた

今の給仕達の祖先が

250年程前にこの古城を

建てたとされる。


『甲青竜か…』


体長はおよそ全長16m

翼を広げると25mはある大型竜だ。

群れで襲いかかる習性があるが

決して個体が脆弱なわけでは無く

むしろかなり凶悪な強さで、

しかも厄介な固有魔法まで持つ。


雲の中から青く煌めく鉱物の様な

外殻が姿を現すと、


グオオオオォォ!


と咆哮を上げる。


普段はこれほど明確な

敵対を容易に取る種族ではないはずだが…


元来竜種とは高い知性を持ち

人語も巧みに解し言葉も話す。

森の賢者と呼ばれ、

その力を使い自然を守って居る。

一部を除いて無益な殺戮を最も嫌うのが

竜種と言ってもいい。


だから宣戦布告もなく

襲い掛かってくるのは

余程の事なのだ。


『待て!お前程の者が何故!』


(グルルル…お前は人間ではないな)


青い炎を口端にちらつかせながら

見開いた金の目でこちらを睨むと

甲青竜は尖塔の頂上に降りる。


顔を低くして尻尾まで

水平に伸ばして居るのは、

多分いつでもブレスを吐ける

姿勢だからだろう。


竜種のブレスとは単純な

魔力放出では無い。


口腔内に作った超小型の

擬似亜空間の炉心で

数万度に練り上げた魔法炎は、

超高エネルギーとなり

炉心内で加速と収束を繰り返す。


そこへ属性を付与した物がブレス

となる。



人間であれば精々数千度の火炎を

圧縮した程度に留まる。

それは数万度のエネルギーが

どう存在してどう扱うかなど

この世界の人族には

到底理解出来ないからだ。


ドラゴンや上位種が扱うエネルギーが

桁違いなのは当たり前なのだ。


現代科学者がそれを見る機会が

あるとすれば、さぞ恐ろしい景色を

見た事だろう。


生体が生身で空間を捻じ曲げた上

口腔内で粒子を加速器を介さず

光速近くまで加速させ

莫大なエネルギーを生成し

死の光線を放つのだ。


(知れた事よ我等と盟約を交わした

あの人間は我等との約束を違えたのだ!)


『盟約だと?!』


数100年前に彼らとまみえたフリナと

言う信徒が盟約を交わしたと言うのか…


(移転の際に我等の卵を人族が盗んだ!)


竜種の数が多く無いのはその

種族の特性が大きい

正に生態系の頂点にある彼らは

圧倒的に出生率が低く

数百年かあるいはそれ以上に

子を成せない期間もあると言う。


強力な種族であるが故に、

自身達への呪いなのか

死なないのだ。


彼らの死とは、

自然へ溶ける様に森に飲み込まれる物だ。

寿命は遥かに長く。


強靭な身体は衰弱や

外敵からの攻撃は効きづらく

長命で気候や環境を物ともしない。


おおよそ生物の大部分は彼らに

傷をつけられないと

言っても良い。


ただし殺せない訳ではないだろう。

城の書物の中にも討伐談は幾つか

あったし、竜革を加工した防具も

どこかで見たことも有る。



竜の卵。


硬く鉱石の様な見た目で

薄く燐光を放つ。

中心には種族の模様が浮かび

大きさはかなり小さい。


通常の卵とは違い

彼らは卵を核にして生まれる。


大変美しい見た目であり

宝石としても桁違いの

価値があると言う。


だから市場には無数の模倣品で

溢れて居る。


本物は孵化しない様に

燐白金と呼ばれる稀少金属に

魔法を練り込んで飾りとして

加工して孵化を固定化する。



『人族が盗んだと言うのか…?

なんと愚かな…』


(お前のその城から匂いがする)


私は目を見開いて

城の詰所の方を見る。


(邪魔してくれるなよ神獣よ)


『シンジュウだと?』


問いには答えず

甲青竜は空高くへ舞い上がった。


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