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42 私達の贖罪

頑丈な古城とは言え

竜種の放つブレスは岩を抉り

壁に穴を穿つ

詰所を見てしまったのが

いけなかったのか、

または卵の所在を見つけたからか

分からないが


塔の反対に位置するそこは

壊滅的な被害を受けている。


給仕のほぼ全てはかなりの術者で

障壁魔法でかなり防いではいたが…


時折繰り出される

物理攻撃は脆弱な人族の

連携をその度に崩していき

まもなく全滅する事は、

誰の目にも明らかだった。


私はあの竜が起こす

この争いに介入するか迷っていた。


心では早くお互いが決定的な

間違いを犯す前に

止めるのが最も良い気もする。


だが同時に卵を盗んだあさましい人族に

嫌悪を覚えたのも確かなのだ。


無表情で戦闘を眺める中

ふとあの髪の長い給仕が目に入る。


服は所々裂けて

白いドレスには血が滲んでいる。

誰かの血かそれとも本人の…

ぞわりと私の中に何かが駆け上がる。


それは熱くそして冷たさもあり

この心臓を締め付けあげ

頭ははっきりとしていたが、

ドクドクと脈打つ音が頭に響いて

一向に収まる気配がない。


私の足はピクリとそちらを向く

『…?…助け…たいのか?』


いつも無表情で一言も話さず、

無愛想と言うには徹底されていて

終始私達が言葉を介することは

ついぞ無かった。

でも 午後の菓子のセットには

必ず私が好む様な物が用意され


食事は彼らの冷たさとは正反対に

温かく、彩りに満ちて私を

ほんの少しだけ何か分からない

感情をくれた。


本当はお互い勇気が無かった

だけなのかも知れない。


古城の中でのしきたりに

私との必要以上の接触を禁じる

と言った様な物もあったかもしれない

でも私から近づく事を禁止されていた訳でもないのだ。


最初の数十年は何も分からず

感情も薄かった気がする。

そこから更に数十年

ぼんやりと彼らの真似をする事で

徐々に薄く色づいたこの感情に

戸惑っていた事も事実だろう。


あの長い髪の給仕の女は

いつの間にか私の中にしっかりと

腰を下ろして居座っていたのだ。


『…ッ!』


我ながら良くわからない…


名も知らないのだ

長く城にいたのに。


だが私はあの小さな優しさに

答えなければならない。


それが私のあるべき姿であった。


ーーーーーーーーーーー


この青竜には私達では

きっと勝てないだろう。


賢人フリナ様が、

残して下さったこの楽園に

我等は答えなければいけない。


そして古城の主人である神獣様も…


あの少女に仕えて数十年

城の決まりで彼女に喋りかける事を

禁じられる厳しい戒律があった。


その意味も理解した。


時折見せる嬉しそうな目と

微かに見える微笑んだ口元

長く勤めなければきっと

気づけないだろう。


物憂う瞳は見た事もない

美しい宝石の様だ。


白い肌と華奢な身体…

黒い髪はしっとりと艶を帯びる。


そして部屋を後にする時

彼女はほんの少し寂しさを見せる。


夕闇の中地平の先に視線を送る

背中はとても小さかった。



彼女はいつかこう言った。


『私は人で言う所の兵器だ…

 意図せずなにをも傷つける。』


生まれた意味も見出せず

老いることも無く

ただ過ぎて行く時と人々。


触れる事も出来ず。


私は精一杯の想いをそっと菓子に

隠して。


「例え…誰にも知られなくとも、

 わ、私だけは…分かっていますから」


「だからッ…

 け、決して絶望しないで下さいッ」


私は終わりに向かって一歩踏み出す。


肺に折れた骨が刺さった様で

先程の青竜の物理攻撃は

魔法では打ち消せず、

回復の術者も既に虫の息だ。


(それを奪った罪を償ってもらわねば

ならぬ!卑しい人族よ!)


同僚の給仕が持って居る竜子の宝玉は

運悪く複製品では無かったらしい。

今は壁に叩きつけられて微かに

息遣いが聞こえる状態だ。



彼女が数ヶ月前に街で見かけた

露天に並んでいた安物のブローチ。

青く輝いて中心には

幾何学模様が浮かんでいた。



竜にとって最も神聖な卵は

盟約の陰で暗躍した軍部の1人が

その青竜から盗んだ物だった。


こっそりと裏の道具屋へ売りに出すも

闇品と言う理由で買い叩かれ

その盗人は運悪く売ったお金を

追い剥ぎに見られその帰り道で

惨殺されてしまう。


道具屋の店主はその数日後に

店が火事になり建物ごと焼け死ぬ。

卵は不思議な事に無傷で残った…


その後も不運を引き連れて巡った後

卵はある宝飾工房へやってくると

職人が竜卵だと気づき

そこで装飾と封印を施される。


貴族の元などを経て長らく行方が

わからなくなっていたのだ。


関わる者に不幸を撒き散らし、

血塗られた歴史を辿る。


やがて偽の複製品に紛れ、

市場へと消えて行く。


長らく古道具屋の片隅で眠り続けた

それは導かれるように古城の元へ…


怒りで我を失った青竜が、

目に入る人族を襲い

城には血煙が立ち込めた。


数人の術者が魔法障壁を構築するが

物理攻撃に関してはなす術が無く

その殆どが息絶えた。


それ程に青竜の怨みは深かったのだ。


私はいつのまにか背中に黒い羽を生やし

空を羽ばたいて青竜の前に降り立つ。


(貴様とて我等の復讐の前に邪魔立てすればタダでは済まんぞ!)


恐ろしい咆哮と共に

彼らは凄まじい速度で

襲い掛かってくる。


横向きに腕を振り抜くと

器用にもそれを躱して

空中に留まる。


「し、神獣さま…どうかお下がり…

 下さい…」


ごふッ と口から血を吐くと

彼女は膝をつく。


「コレは我々人族の罪なのです…」


後ろの同僚はとうとう腕をダラリと

力無く降ろす。

もはや息絶えたのかもしれない。


私も給仕のドレスが真っ赤に染まり

視界は霞み肺からはボコボコと嫌な音が

聞こえる。


彼女はいつもそうだが

感情の乏しい表情でじっと私を

見つめる。


私は最後の力を振り絞って

竜卵の宝玉を掴むと霞む目で

青竜へとそれを捧げる。


青竜達は一斉に長い髪の給仕へと殺到し


彼女が手を伸ばしてこちらに来るが

間に合わないだろう。


そんな泣き顔はなさらないで下さい…

綺麗な顔が台無しじゃ無いですか。


どうか泣かないで下さい…


1人でも大丈夫ですか?


美味しいお菓子…

もっと作り置きしておけば良かったですね。


私はあなたを慕っておりました…


私達…友達になれましたか?



私はまるでくるくると舞う様に

空へと投げ出され意識は途絶えた。


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