39 あの小屋に
僕を引き止める
静止を振り切って
必死にお爺さんを探しに
森に足を運んだが、
その痕跡すら見つからなかった。
街の冒険者ギルドでは
一応森に入る冒険者への呼びかけと
行方不明のリストに
書き加えて貰える事になった。
しかし魔の森での
死亡率・行方不明者の多さが
沢山のリストのたった一行として
僕へ残酷な現実を突きつける。
あの後どう帰ってきたかも
分からなかったが
それよりも大好きだった
お爺さんが帰ってこなかった事
僕のせいで起きた事実に
長く囚われる事になる。
その後
僕は1人であの思い出の詰まった
家に暮らした。
街の馴染みのマルグおじさん
と奥さんが僕を気にかけてくれて、
なんとか日々を食い繋ぎ生きてこれた。
あんなに小さな家だと思っていた
この家はポッカリととても広く感じた。
後悔と喪失感が大きく口を開けて
飲み込もうとする中
猪の水車亭のリダさんやカイさん
ギルドのウリンらと知り合う中
どうにか僕の心は
平穏を取り戻して行った。
数年後には
アリスとオリビアを
召喚し共に戦う術を覚える
僕は逃げる様に
お爺さんとの思い出の詰まった
森の小さな家を後にした。
心につかえた大きな傷は
行き場をなくした様に
僕の心を蝕んだまま。
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気がつくと
あの小屋の
リビングと言うには少し手狭な部屋の中
ミルクティーの心地いい香りが
漂ってきて、僕はハッとする。
暴れる風がガタガタと窓を鳴らし、
空を切る甲高い風の声が響く夜。
獣の息遣いが窓のすぐ外から
聞こえて来るあの秋の深夜。
決まってお爺さんが入れてくれる
甘い香りのミルクティー。
多分今思うとお爺さんも
怖かったんだと思う。
でも幼い僕を怖がらせない様に…
ミルクティーを2人で飲んで
静かにやり過ごすその時間が
やっぱりなぜか安心したんだ。
ゆっくりと振り返るそこには
あの夜と変わらず湯を沸かし
ミルクティーを入れる彼が。
あの大きく見えたはずの背中が…
今はとても小さく、
あの優しいお爺さんがそこにいた。
「おじいさん!」
あれほど探したお爺さんが
変わらずそこにいたのだ。
お爺さんは自分のカップを
テーブルに置くと
ゆっくりと僕の対面に座る。
「あれから探したんだよ!
いっぱい…いっぱい!」
僕の心はそれまでしまい込んでいた
後悔と寂しさと罪悪感がごちゃ混ぜに
なった気持ちがいっぺんに
吹き出して止まらなかった。
会いたかった。
本当に、
あの日森の巨木の下で
別れてしまったきりのお爺さんと。
何か言いたかったけれど
心が乱れて言葉が出ない。
伝えたい事は溢れるているのに。
俯いたままのお爺さんは
何も言葉を発せず
じっと下を向いたままで…
その表情は見えないまま。
「おじいさん…?」
彼は無表情なままこちらを向くと
恐ろしく冷たい声で
「なぜワシの言う事を守らなんだ…」
そういうと景色は急にゆらめき始める。
気がつくと
僕は暗い森の中にポツンと
突然放り出される。
そうしてその森の影から
生えるように、
血まみれのお爺さんが目の前に現れる。
お爺さんの表情は見えず、
どこまで追ってもその距離が縮まる
事はなく。
走れば走るほどに距離はひらいて行く。
次第に遠くなるお爺さんとの距離、
急に足元が崩れ落ち奈落の底へ
落ちる。
血だらけなお爺さんはあの凶悪な
魔物に襲われて無惨な姿になるが
どうしても透明な壁に阻まれて
助けに行くこともできなかった。
「お爺さん!お爺さんっ!」
ボロボロと涙が溢れて
やっぱり何も出来ない
僕はあの頃のままだ。
生気の無い目が僕を見つめて
呟く様に。
「おまえのせいだ…」
未だ僕の心はあの小屋に
閉じこめられたまま抜け出せずにいた。




